トマト葉かび病対策 岐阜県の事例から〜薬剤耐病性菌対策による防除と資材の活用〜

トマト葉かび病(写真1)は、一度圃場で発生すると防除が非常に難しく、悩まされている難防除病害の一つでした。生産者からは「発売当初は葉かび病の治療効果が絶大だった農薬も以前ほど効かなくなった」「薬剤散布すると被害がおさまるどころか、翌日にはさらに病害が拡がった」という話も聞こえてきました。

近年は各メーカーから葉かび病耐病性品種が市販されていますが、耐病性が打破されたり、新たにすすかび病が発生したりなど、課題が散見されます。

ここでは、県関係機関(現:農業技術センター、病害虫防除所、西濃農林事務所、農業経営課)が協力し、岐阜県の冬春トマト産地で平成20〜23年に品種「桃太郎J(※葉かび病耐病性品種ではない)」で実証・調査に取り組み、現在も夏秋トマトを含めた県広域で取り組まれている対策についてご紹介します。

写真1 トマト葉かび病(西濃農林事務所)

写真1 トマト葉かび病

1.対策のヒントは現場にあった!

生産者圃場(Kさん)を巡回した時の出来事です。Kさんはその年(平成20年)も、葉かび病が多発してしまったのですが、葉かび病に治療効果が高いといわれた農薬(アミスター20フロアブル、トリフミン水和剤など)は以前に比べあまり効かなくなったことに感覚的に気づいていました。そこで、数々の農薬を試したのですが、なかなか被害を抑制することができず、悩んでいました。そこで、かなり昔、治療効果が高かったというさらに別の農薬(ゲッター水和剤)を5年ぶりに散布してみました。
   
数日後、圃場で確認したところ、なんと葉かび病が止まっていたのです。しかも、たまたま葉が裏返しになり、農薬がたっぷりついた痕跡(水和剤を散布した時の白痕)がある葉がぴたりと治癒し、付着痕跡のまったくない葉は治癒していなかったのです(写真2)

写真2 葉かび病発生圃場でゲッター水和剤散布後の状態(H20、西濃農林事務所)※ゲッター水和剤は5年ぶりに散布

左:治癒(葉裏に農薬痕有り)

左:治癒(葉裏に農薬痕有り)

右:葉かび病が治癒無(葉裏に農薬痕なし)

右:葉かび病が治癒無(葉裏に農薬痕なし)

このことから、
  @農薬が効かない薬剤耐性菌の解明 
A葉裏への農薬付着を高める方法

の2つについて、取り組みを開始することとしました。

2.薬剤耐性菌の解明

岐阜県の冬春トマト産地において、生産者の葉かび病防除履歴を収集し、調査を行った結果、各薬剤による防除効果の違いが明らかになりました(第1〜2図)

第1図 葉かび病防除試験(予防的効果)(H20、農業技術センター)

第1図 葉かび病防除試験(予防的効果)

第2図 葉かび病防除試験(治療的効果)(H20、農業技術センター)

第2図 葉かび病防除試験(治療的効果)

また、アミスター20フロアブルの使用履歴と防除効果を調査したところ、当該年度に使用履歴がまったくない生産者は防除価が高く、すでに1〜2回使用している生産者は防除価が低下する、葉かび病薬剤耐性菌の存在が判明したのです(第3図)

第3図 アミスター20フロアブルの使用履歴と防除価(H20、農業技術センター)

第3図 アミスター20フロアブルの使用履歴と防除価

葉かび病発生後に治癒的効果を目的に散布するのではなく、耐性菌が出にくい予防剤(ダコニール1000など)を発生前から予防的に散布した方が、防除効果が高いことが判明しました。さらに農薬散布間隔についても、ダコニール1000は21日間の間隔でも高い防除効果を示しており(第1表)、労力軽減にもつながります。

第1表 トマト葉かび病の各種薬剤の散布間隔と防除効果(H20、農業技術センター)

試験区 薬剤散布 防除価 試験区 薬剤散布 防除価
ダコニール1000 7日 100 オーソサイド水和剤 7日 98
14日 100 14日 95
21日 90 21日 37
ベルクートフロアブル 7日 100 カスミンボルドー水和剤 7日 80
14日 93 14日 70
21日 60 21日 0
ポリオキシン水溶剤科研 7日 87 サンヨール乳剤 7日 64
14日 53 14日 50
21日 0 21日 0

産地で結果を報告し、葉かび病で毎年悩まされている生産者がはじめて予防体系で実施したところ(第2表)、「葉かび病の発生が本当に急減し、単収が飛躍的に向上した」と、喜びの連絡がありました。

その後、産地では薬剤耐性菌を考慮して農薬選定を行うようになり、3年後にはアミスター20フロアブルの薬剤耐性菌は産地でゼロとなり、再び効果的な薬剤の一つとして使用できるようになりました(第4図)。現在は、耐性菌のつきやすい薬剤は1年1回の使用までに限定しています。

第2表 単収上位者(葉かび病発生少)の防除事例(調査:西濃農林事務所)

9/13 ダコニール1000 1000倍 166L
10/1 オーソサイド水和剤80 800倍 200L
10/25 ダコニール1000 1000倍 200L

※作型:抑制栽培(定植8/11)、品種:「桃太郎」

第4図 アミスター20フロアブルの葉かび病耐性菌発生施設率の推移(農業技術センター)

3.葉裏への農薬付着を高める方法

現地実証ではトマト名人の手散布技術と静電防除の比較実証を行いました(写真3〜4)。静電防除とは、薬液の粒子を帯電させ、静電気の力で作物体に付着させるもので、農薬がかかりにくい葉裏など、重力に逆らって薬液を付着させる方法です。

結果、静電防除は畝内側のかかりにくい部位に関して、葉表と葉裏両方に付着性が高いことが判明しました(写真5)

平成21年は20年に比べ、部会の平均単収が下がる傾向でしたが、静電防除機購入者の単収は増加する結果となっています(第3表)。さらに、静電防除で農薬散布量は2〜3割減少し、農薬代も2〜3割削減となりました。

写真3 トマト名人の手散布技術(左)VS静電防除機(右)(H20、西濃農林事務所)

左:1畝ごとに丁寧に下から上へ散布。右:カート式静電防除機を用いて、左右の畝を1回で防除
※試験のため、水で散布

左:1畝ごとに丁寧に下から上へ散布。右:カート式静電防除機を用いて、左右の畝を1回で防除
※試験のため、水で散布

写真4 感水紙による付着試験(H20、病害虫防除所)

左上:感水紙。左下:水につくと青色に変化する性質がある。

左上:感水紙。左下:水につくと青色に変化する性質がある。

右:株の上・中・下、葉の表裏に設置

右:株の上・中・下、葉の表裏に設置

写真5 感水紙による付着試験(H20、病害虫防除所)

写真5 感水紙による付着試験

静電防除機を使用した方が葉の表裏ムラなく薬剤が付着している。

第3表 静電防除機購入者の平均単収(t/10a)

  H21 H20 前年比
購入者(16名) 19.2 18.8 102%
部会平均(70名) 18.0 18.2 99%

※JAにしみの海津トマト部会員の実績(H21から静電防除機を使用)

4.薬剤の濡れ性を高める

展着剤の比較試験を行い、濡れ性の高いシリコーン系展着剤へ変更しています(写真6)。乾きが早いため、すぐに圃場に入って作業ができるメリットだけでなく、果実も汚れず、出荷時に果実をふく手間から解放されています(写真7)

写真6 展着剤比較試験(H21、西濃農林事務所)

一般的な展着剤

左:水滴がまばらになって、均一に葉についていない。

左:水滴がまばらになって、均一に葉についていない。

シリコーン系展着剤「まくぴか」

右:濡れ性がよく、乾きも早い。

右:濡れ性がよく、乾きも早い。

写真7 展着剤比較試験(農業技術センター)

Aフロアブル剤のみで散布

左:果実や葉に農薬痕がみられる。

左:果実や葉に農薬痕がみられる。

シリコーン系展着剤「まくぴか」を添加

右:果実や葉に農薬痕みられない。

右:果実や葉に農薬痕みられない。

5.注意点

防除効果が高い反面、薬害がみられる場合もありました。散布方法については、現行以上に注意が必要です(写真8)

写真8 薬害の事例(西濃農林事務所)

左:ダコニールの薬害。間口や畝外側の下葉に多くみられた。高温時散布、重複散布、前の薬剤との散布間隔が短いときなどに発生した。

左:ダコニールの薬害。間口や畝外側の下葉に多くみられた。高温時散布、重複散布、前の薬剤との散布間隔が短いときなどに発生した。

右:静電防除機でノズルを中位葉のみにむけた場合(集中散布)に発生した。

右:静電防除機でノズルを中位葉のみにむけた場合(集中散布)に発生した。

トマト葉かび病は予防剤主体の防除を行うことで発生が減少します。耐病性品種でなくでも栽培が可能となり、今までの慣れた品種で継続栽培が可能です。
また、静電防除(+シリコーン系展着剤)は葉かび病以外の病害虫(特に害虫は葉裏にいることが多い)にも応用が可能です。興味をもたれた方は一度、試されてはどうでしょうか。

※文中で紹介の薬剤、資材につきましてはタキイでは取扱いのないものもございます。

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