「耐病総太り」回顧録 前編

序章

「耐病総太り」誕生前夜

  1974(昭和49)年、日本人初のノーベル平和賞が佐藤元首相に授与されたこの年、一つのダイコン品種が世に問われました。後にダイコン市場を“青首”一色に変えることになる「耐病総太り」という品種です。

  今では見慣れた首部が緑色の、いわゆる青首ダイコンがあふれていますが、当時の首都圏を中心とする関東市場は白首品種ばかりで、出荷する産地も当然、白首品種に限られていました。ほかの地方市場でも白首が主力となり“青首”はローカル色の象徴の感さえありました。

  現にタキイは、市場規模が大きい白首品種のF1化の育種を先行させていました。昭和36年に発表した世界最初のF1品種(※)である「春蒔みの早生」(写真1)を皮切りに、立て続けに主力白首品種のF1化に成功(第1表)し、発売種はどれも好評で産地の注目の的となっていきました。それらのF1化に続き、ようやく産声を上げたのが青首の試作品種「試交119号」(写真2)で、大きなねらいをもつ期待の星でした。その後、2年の試作を経て「耐病総太り」として一般に発売されました。

※F1品種とは…一代交配種。品種や系統の違うAとBを両親とする雑種の一代目。雑種強勢の遺伝法則により、親品種と比べ生育や形質がすぐれる。

写真1 写真2

第1表 タキイの新発表ダイコン品種(昭和36〜51年)

品種名

発売年(昭和/年)

首色

特徴

春蒔みの早生

36

世界最初のF1品種。

夏みの早生一号

39

耐暑・耐病性に強い。

夏みの早生二号

43

「夏みの早生一号」よりもさらに耐暑・耐病性に強く、早太り性がある。

早太り聖護院

46

煮食に適した早太り性の丸形ダイコン。

早太り大蔵

46

早太りで尻が詰まった円筒形。

白秋

46

良質・早太りでス入り少なく、浅漬に向く白首種。

冬どり聖護院

47

耐寒性強く、ス入りが遅い丸ダイコン。

耐病総太り

49

ス入りが極めて遅く、食味がよい青首の定番種。

新生理想

49

漬物に用いられるダイコン。

秋づまり

51

煮ておいしい、尻の詰まった白首種。

冬どり大蔵

51

低温でもよく太り、そろいのよい尻詰まり円筒形。

八洲

51

そろいがよい漬物専用の白首種。

取り残されていた「宮重」

  過去の青首ダイコンはどういう存在だったのでしょうか。青首系の主力は「宮重」という、古くは江戸時代より尾張宮重の名産と称され、全国的にも方々で馴染みのある品種となっています。中でも総太り系(写真3)は煮食、生食、切り干し用に使用され、夏ダイコンから秋ダイコンに移る秋の味覚の走りとしても重宝されてきました。

  戦後、宮重系ダイコンは病気に弱く、ス入りが問題といわれながら用途も広く、品質面での魅力と土質を選ばない栽培面の特性から農家に根付いた品種で、特に中京や関西市場では白首に比べて品質面での根強い人気はありましたが、作りやすい「みの早生」や「大蔵」(写真4)などの白首系が量的にも市場を専有していました。しかし、古くから全国的に根強い需要のある品種に、食味を大事とする時勢に応じた見直しが要望され、やがて生まれ変わる時機到来となったのです。

  タキイ研究農場では白首F1育成の傍ら、「宮重」の検討も始めて、複雑な問題がある中でも最優先は、「宮重」の欠点である耐病性の付与と「宮重」本来の肉質をさらに極めること、加えて、早どりできる品種を目標に注力してきました。その結果10年余りを要し、「宮重」青首ダイコンは「耐病総太り」という名前で、ローカル市場から全国中央市場へ飛び出したわけです。

写真3 写真4
写真4
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