切り花の新市場を創出した革新的ひまわり「サンリッチ」

第一章 「サンリッチ」の誕生

ひまわりは切り花ではなかった!?

「サンリッチ」以前のひまわりといえば、2mほどの高さに伸びて大きな花を咲かせる種類が主で、切り花はおろか花壇でも持て余すほど。しかしタキイでは「親しみやすく、人を惹きつける魅力をもつ」「一般に草花種子は小さいが、ひまわりの種子は大きくて扱いやすく栽培も容易」という点に将来的な発展の可能性を見いだし、1979年にひまわりの育成を開始します。

北海道のひまわり畑。2m以上にもなる背の高い草姿と、大型の花は家庭花壇では持て余すほどの迫力。

最初に目指したのは子供が目の高さで楽しめるひまわり

1979年当時、観賞用ひまわりは「ロシアひまわり」と呼ばれる大輪品種や分枝型の高性品種、背丈の低い矮性の分枝型品種が欧米中心に開発されている状況でした。これらの品種は花形が洗練されておらず、水あげが悪いこともあり、切り花用としての利用は極一部に限られていました。

「子供が目の高さで楽しめるひまわりを作りたい」との想いから生まれた矮性ひまわり「ビッグスマイル」。

「ロシアひまわり」。草丈2〜4mと大型の草姿が特徴。飼料用として種子利用もされる。

「私にとって当時ひまわりといえば、プールサイドに咲いている粗野な花というイメージ。切り花でなく露地に咲く花。その多くは見上げるほど背が高く育つ種類だったので、逆に小さな子供が目の高さで楽しめて、理科教材や夏休みの観察日記にも向く矮性のひまわりがあれば面白いと思ったのです」
「サンリッチ」の生みの親であるブリーダーの羽毛田(タキイ研究農場・現次長)は開発当初のことをこう語ります。
そこで当初は切り花用ではなく、矮性の花壇用品種の開発を目標として育成を開始しました。小さな子供が目の高さで楽しめるような高さで、花形はシンプルな一重咲きのひまわりを目指したのです。そうして生まれたのが1990年発表の鉢植えタイプのひまわり「ビッグスマイル」です。この品種は、同年開催の大阪花博でグランプリを獲得、その後の矮性品種の先駆けとなりました。

1990年に発表の「ビッグスマイル」。右は同年開催の大阪花博での植栽花壇。

花形のよい矮性種を作る過程で生まれた「サンリッチ」

矮性品種の育成を進める中で、偶然、ある育成系統の分離集団の中に矮性ではなく高性になる個体が現れました。これが後の「サンリッチ」です。
「育種は、まず育種目標を設定して行いますが、『サンリッチ』の開発ではまったく異なる育種目標に向けて育成を進める中で、たまたま出現した素材が起点となり新たな展開が生まれました。結果的に当初探し求めてはいなかったものを得ることができました」
奇跡のような偶然による新しい形質の出現、これを見逃さないブリーダーの視点を受け、高性で切り花に向く品種の開発が進められました。

矮性品種を育成する過程で発見された「サンリッチ」の育種素材は、当然矮性種がベースとなっていました。ただ、その中に「太陽」という高性種も素材の一つとして利用されていました。「太陽」は1969年に福岡の中島礼一氏が育成された整った花形をもつ品種です。この「太陽」と矮性種の「ドワーフサンゴールド」などの複数の矮性や高性品種を交配して育成を進め、その過程で、切り花に適した背が高く花形のよい端正な草姿をもつ系統が出現したのです。

花形のよい高性種ひまわり「太陽」。

画期的な無花粉の形質を取り入れる

一方そのころ、研究農場で飼料用に導入試作されていたひまわりの中に花粉の出ない系統があることに着目し、これを育種素材に取り入れました。ひまわりは通常大量の花粉を放出するため、切り花として利用するとテーブルや衣服を汚してしまいます。しかし、無花粉のひまわりならこの心配をなくすことができます。これは切り花ひまわりとして画期的なことでした。

通常のひまわりは大量の花粉を放出する。

「花形と草姿のよい高性種、それに無花粉の特性を兼ね備えた品種ができれば面白い品種になるとその時考えました」と羽毛田。
こうしたブリーダーの感性を基に交配を重ね、のちに世界の切り花市場に新たな需要を生み出すことになる革新的なひまわり「サンリッチ」が誕生。1991年に「F1サンリッチレモン」の発表に至ったのです。

1991年に発表の「サンリッチレモン」。
花形のよい高性で無花粉の形質をもつ「サンリッチ」シリーズの先駆け。