シリーズ私の提言 2 来たるべき農業に 野菜と健康のおいしい関係は会話のできる売り場づくりで

デザイナーフーズ株式会社 取締役管理栄養士 市野 真理子

椙山女学園大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒。
食品メーカーの営業部販促企画課を経て、「食のコーディネーター」丹羽真清氏(現・デザイナーフーズ株式会社代表取締役)のアシスタントとして食品の開発に従事。現在、同社にて、食品メーカー、外食、コンビニエンス、スーパーなどに商品企画、情報提供、栄養カウンセリング、衛生管理などのアドバイスを行う。

市野 真理子

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健康寿命の延伸と食生活の関係性

 日本は今、世界でも類をみないスピードで高齢化社会が進んでいます。65歳以上の高齢者は人口の26%を占め、100歳以上の高齢者も6万5千人を超えています。第2次世界大戦後の昭和22年の平均寿命は男性が50.06歳、女性が53.96歳でしたが、平成27年には男性80.79歳、女性が87.05歳まで伸びています。一方で平均寿命から日常的・継続的な医療・介護に依存して生きる期間を除いた年数を「健康寿命」といい、男性が70.42歳、女性が73.62歳です。言い換えると、平均寿命と健康寿命との10〜12年の差が介護を要する期間です(第1図、2図)。介護が必要となる原因は脳血管疾患をはじめ認知症、骨粗鬆症(こつそしょうしょう)といった生活習慣病であり、死亡原因もガン、心疾患、脳血管疾患で60%を越えています。

第1図

第1図 人の寿命

第2図

第2図 平均寿命と健康寿命

 これらの病は生活習慣に伴うものであり、とくに食事の内容が大きく影響しているといえます。私たちが食事の内容として、すぐ思い浮かべることは「カロリーの摂りすぎ」ではないでしょうか。しかし、1日の摂取カロリーをみると、戦後まもない昭和21年は1903kcalに対して、平成24年では1874kcalと意外にも減っているのです。摂取カロリーが減りながらも、生活習慣病の人が増えていることをみると、もはやカロリーの栄養学だけでは論じることが難しいといえましょう(第3図)

第3図

第3図 食料消費の変化

強い抗酸化作用をもつ“第7の栄養素”ファイトケミカル

 生活習慣病をはじめ、冷えや肩こりといったつらい症状は食べた物がうまく代謝ができていないことが原因といえます。代謝がうまくできていないというのは、ビタミンやミネラル、食物繊維といった栄養素が不足していることが一因にあげられます。ヒトはビタミンやミネラルをつくることができません。野菜や果物が光合成をしながらつくるビタミンや、土壌・培地のミネラルを吸い上げたものを食しながら得ています。
 また、ビタミンやミネラル、食物繊維のほか、第7の栄養素として「ファイトケミカル」が注目を浴びています。ファイトケミカルとは野菜や果物が紫外線や害虫から自らを守るためにつくりだしている色素、香り、苦み、あくなどの成分のことをいいます。ヒトの体内で発生して生活習慣病やがん、老化などの原因になる活性酸素をファイトケミカルがもつ強い抗酸化作用によって取り除き(活性酸素消去活性=抗酸化力)、体の免疫力を高めることでさまざまな疾病を予防できるのではないかと考えられ、これらの研究が世界中で盛んに進められています。

色がもつチカラ 7色のファイトケミカル

野菜のもつ色素もファイトケミカルのひとつ。強い抗酸化性によって活性酸素を取り除く。

旬の野菜、おいしい野菜にはチカラがある

 このファイトケミカルをはじめ野菜がもつ成分について、デリカフーズグループは研究を進めております。25,000検体の成分分析から見えてきたことは「旬の野菜にはチカラがある」「おいしいものは身体によい」の2点です。昨今の科学技術の進歩によって、1年をとおして同じ野菜や果物を手に入れることができるようになりました。しかし外観は同じであっても、中身の分析をすると、旬の時期はビタミンCをはじめ、糖度、抗酸化力ともに高く、硝酸イオンは少ないという傾向が見られます(第4図)
また、栽培方法によっても違いがみられますが、無農薬や有機栽培であれば必ずしもよい値がでるわけでないこともわかってきました(第5図)

第4図

第4図 旬の時は活性酸素消去活性(抗酸化力)が一番高くおいしい

第5図

第5図 栽培方法による抗酸化力の違い

デザイナーフーズ株式会社では、土づくりをはじめとした生産者の方の手間ひま・こだわりを、野菜の成分分析という数値で表現するお手伝いをしております。

野菜のチカラのご提案

野菜の成分分析をし、それを「見える化」する。

青果コーナーにて

野菜の診断結果をポップとして使用している。

消費者への機能性成分の認知のためには、会話のできる売り場づくりが必要

 実は消費者もおいしくて身体によい野菜を求めています。そこで、平成27年4月より機能性表示食品制度がスタートし、野菜や果物についても機能性の表示が認められるようになりました。しかし実際に認可された食品数は平成28年12月で5件にとどまっています。なぜでしょうか。
野菜や果物は個体によって中身が一定ではないこと、季節や栽培方法によっても中身が変わること、単一成分(ひとつの機能性成分)で野菜の機能性を表現できないことなどなど、さまざまなことが技術的な要因としてあげられます。
 一方、消費者のニーズについて詳しく知るための店頭でのアンケート調査の結果、ポップなどの表示があれば、機能性成分がないものよりあるものを購入する人が8割近くいることがわかりました。価格も2割くらいまでならば高くても購入するという意見が多くありました(第6図、7図)

第6図

第6図

第7図

第7図

ではポップをつけるだけで2割高く販売ができるのかといえば、実際のところはあまり大きく販売に影響を与えないこともわかりました。つまり、野菜や果物は食べ物なので、どんなに身体によくても「おいしい」ということが重要になります。
最終的には試食をしながら、話を聞いて購入するというのが最も消費者に中身のよさを伝えることができる販売方法であることが分かりました(第8図)

第8図

第8図 試食アンケート結果

 スーパーマーケットは効率よく買い物ができるシステムとして広く受け入れられてきた業態です。一方で、野菜や果物の食べ方や調理の仕方が分からない、旬がいつなのかわからないということが、野菜の消費が伸び悩んでいる原因のひとつのような気が致します。まずは何よりも、会話ができる売り場づくりが最も重要なことであると考えております。

カロリー栄養学から「代謝」をキーワードとした分子栄養学へ

 私たちの身体の60兆個の細胞は毎日の食事でできています。食べた物をきちんと消化吸収ができる食事、そして食べ物を組み合わせることで代謝のよい食事へと繋がります。「代謝」がキーワードの食事とは、まさにさまざまな野菜や果物が毎日食卓へ登場する食事です。命を繋ぐ食を改めて見直すことが、健康寿命を延ばす食に繋がるといえるのではないでしょうか。

※野菜の成分分析等、本記事についてお問い合わせの場合は
デザイナーフーズ株式会社(http://www.designerfoods.net/)
TEL (052)745-3255 FAX (052)745-3315 Mail:office@designerfoods.net まで。

※タキイでは野菜の成分分析などのご依頼はお受けできませんのでご了承ください。

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