黄瀬 昇さん
農事組合法人 はり営農 代表理事 平成20年はり営農へ加入、23年代表理事就任。組合で米や下田なすを栽培するほか、高齢者、障害者が農業を支えるという理念のもとチャレンジファームを結成し、養鶏や野菜・果樹栽培に取り組んでいる。
2018/02/20掲載
湖南市の市民産業交流施設「ここぴあ」は、市内全体の経済活動を促進し、市民の交流や憩いの場となることを目的に設立されました。柱となるのは農産物直売所。地域の伝統野菜のほか、市内に研究農場を持つタキイの「ファイトリッチ」シリーズを、新たな特産品にしようとしています。栽培と販売に取り組むのは、針地区生産者の皆さん。その様子をレポートにしてお送りします。
農事組合法人 はり営農 代表理事 平成20年はり営農へ加入、23年代表理事就任。組合で米や下田なすを栽培するほか、高齢者、障害者が農業を支えるという理念のもとチャレンジファームを結成し、養鶏や野菜・果樹栽培に取り組んでいる。
昨年は、中玉トマト「フルティカ」、ミニトマト「CF千果」「オレンジ千果」、こどもピーマン「ピー太郎」に取り組み、かなりの成果を上げることができました。組合で新しく建てたハウスと、個人の露地畑で栽培し、7月10日過ぎから出荷。身体によい「ファイトリッチ」シリーズで、なおかつおいしいとあって、当初からどれも上々の売れ行きを見せました。
甘みの強いトマト3品種はもちろん、「こどもピーマン」も普通のピーマンにはない食感が受けて、とても好評。店頭ではすぐ売れてまとまった数が買えないし、ほかでは売っていないからと、飲食店より組合へ直接注文が来たほどです。
肉厚で甘い「こどもピーマン」は、飲食店から直接注文が舞い込むほどの人気。
8月までは好調なまま推移したのですが、台風の影響もあって露地栽培はほどなく終了。そのころからハウスではさまざまな問題が発生してきました。病気の発生に加えてトマトの実割れが激増し、収獲しても半分は出荷できない状況。私たちも困り果てていました。解決のヒントは観察のなかにありました。
詳細はハウス担当の北嶋さんに語っていただきますが、その問題も11月にはようやく解決。しかも、まだ樹は元気で実はなり続けています。少し酸味は増しても、一般に売られているものよりずっとおいしく食べられます。そんな時期にミニトマトを出しているのはうちだけで、売り場に置けばすぐなくなる状態。まさか11月になって売上げ倍増とは思ってもみませんでした。その後、急激な寒さがやってきて、12月上旬で出荷は終えましたが、暖冬であれば年内はとり続けられたのではないでしょうか。
ハウスを建て、トマトとピーマンを植え、まさに手探りで始めた栽培でした。失敗もありましたが、初めてにしては上々の成果を収めることができたと思います。来年は今年得たノウハウを生かし、安定した量を出荷できるようにしたい。露地の収穫が少なくなるころからハウスの品が出せるよう、播種をずらすのもいいかもしれません。「桃太郎ゴールド」など新たな品種の導入も考えています。
露地で作っても十分甘い「オレンジ千果」と「フルティカ」。次回はハウス栽培とのリレーも意識して作付けしたい。
「ファイトリッチ」シリーズがこれだけ売れると、ほかの生産者も真似をしてきます。ライバルは多くなりますが、「ファイトリッチ」が店に増えれば、湖南市の特産としてよりアピールしていける。中には売ることだけを考えて低い価格をつける人もいますが、安易な安売り合戦に走るのではなく、よいものを継続して出荷し、ブランド価値を高めていくことが大切です。
そのためにも、常に新しいことへ挑戦したい。現在は秋冬野菜の栽培中ですが、ハウスを活用したホウレンソウ「弁天丸」の継続出荷、ハクサイ「オレンジクイン」とタマネギ「ケルたま」の増産、リーフレタス「ワインドレス」の導入などに取り組んでいます。次回もよいご報告ができるよう、私も生産者の皆さんもがんばっているところです。
トマトとピーマンの栽培を終えたハウスでは、ホウレンソウ「弁天丸」が生育中。年明けから継続して出荷できるよう、数回に分けて播種している。
前回の1,000株ではまったく足りなかった「ケルたま」は、組合だけで3倍量の作付け。個人の畑でも栽培しており、増産が期待される。
定年退職後、黄瀬代表の強い誘いを受け、再就職の予定を急遽変更して組合のハウス担当に就任。試行錯誤しながらも着実に成果を上げている。
組合のハウス担当として、昨年の春からトマト、ピーマン栽培に取り組み、ようやく1作が終わりました。手探りの状態ながら、定植から収獲まではほぼ順調だったのではないかと思います。台風の襲来時も、露地では軒並み樹がなぎ倒されたのに、ハウスでは何の影響もなく、その恩恵を実感しました。
しかし、8月の終わりごろから状況が一変。連作を避けるため、ハウスの片側にカボチャを植え、次の年は畝を交換するつもりだったのですが、そのカボチャからコナジラミが発生したのです。まず側の「フルティカ」、続いてその隣の「オレンジ千果」へと被害は拡大していきました。さらに、カボチャの後に植えたキュウリがうどんこ病にかかり、またも周囲に蔓延して、特に「フルティカ」は壊滅的な状況に……。同じハウスの中では病害虫が蔓延しやすいこともわかったので、来年からは考えたいと思います。ほかに、換気のため開けていたハウスの扉から猿やカラスが侵入したりと、さんざんな目に遭いました。
収穫期に達したころのハウス内部。ここまでは順調だったが、トマトの横に植えたカボチャが害虫の発生源となり、特に「フルティカ」が打撃を受けた。
同じころからトマトの実割れにも悩まされました。収獲したとたんに片っ端から割れ、作業場に運んだらまた割れる。出荷数は8月の半分以下に落ち込みました。なぜこうなるのか途方に暮れていましたが、11月に入るころ、もいだトマトが濡れているのを見てようやく気づいたのです。
トマトは朝どりに限ると思い込み、収獲作業は早い時間に行っていたのですが、それだと果実に夜露がついた状態でとることになる。トマトに大敵の水分が多く付着していたら、割れるのも当然です。さっそく収獲を午後に変更してみたら、あれほど悩まされていた実割れがうそのように解消。出荷量は完全にもとへ戻りました。
そして、ここで大きな助けになったのが「CF千果」です。カボチャやキュウリから遠い位置に植えた関係で、病害虫の被害が少なかったのもありますが、寒くなっても草勢はほとんど衰えず。せいぜい10月までと思っていたのに、12月に入っても実をつけています。「オレンジ千果」もいくらかは生き残っていたし、トマトの強さには本当に驚かされました。「CF千果」に「オレンジ千果」を数粒ずつ混ぜて袋詰めすると見ばえがよく、ちょうどよかったと思います。
「CF千果」の樹は驚くほど強く、12月に入っても実をならせ続けた。
「オレンジ千果」も少量だが最後まで収穫でき、「CF千果」に混ぜて彩りよく販売できた。
一方、こどもピーマン「ピー太郎」は病害虫や害獣の被害とも無縁。最後はハウスの天井近くまで伸びて、多くの収獲物が得られました。これは本当に大成功。肉厚で天ぷらやチャーハンの具にするとおいしいし、完熟して赤く色づくとさらに甘くなります。今回、完熟果は販売しませんでしたが、次は1袋に1本混ぜてみてもいいかもしれません。
試行錯誤の連続ながら、いろんな意味で多くの収獲を得られた半年あまりでした。この経験を生かし、今年はさらにたくさんとれればと思っています。
ハウスの「こどもピーマン」は、良質の果実が最後まで収穫できた。
2024年
秋種特集号 vol.58
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春種特集号 vol.57