食育の推進や地域、農業の活性化につながる農村ホームステイ

2020/02/20掲載

近江日野商人発祥の地、滋賀県南東部にある日野町では、近江日野商人の「三方よし!」(売り手と買い手が共に満足し、社会にも貢献できるのがよい商売という考え)をモットーに農村生活体験旅行者の受け入れを行っています。この取り組みは平成21年から始まり、学校の修学旅行や体験学習、企業研修やインバウンド(外国人団体)などの体験者数は年間約4,000人、延べ30,000人以上にもなります。

日野町でのホームステイ協力家庭は約150軒。一軒4名が基本で1〜2泊の農村生活体験が可能です。農作業や、工作、料理、手芸などをホストファミリー(受入家庭)と共に体験することで子供たちの心身の成長を促し、地域の活性化を目的とされています。こういった、農山漁村に滞在して自然、文化、人との交流を楽しむことを「グリーンツーリズム」とも呼び、ひと味違った旅の形として注目されています。

日野町
農村生活体験では、「日野菜」カブや丁字麩などとれたての野菜や特産品を使った料理が楽しめる。
農村生活体験では、「日野菜」カブや丁字麩などとれたての野菜や特産品を使った料理が楽しめる。
日野町の特産品「日野菜」カブ。
日野町の特産品「日野菜」カブ。

今回、体験プログラムの調整やホストファミリーとのマッチングを企画されている、一般社団法人近江日野交流ネットワークの西河さんにホームステイの現場を案内していただきました。「日野町のよさを知ってもらい、ここでしかできない体験になるように」と、西河さんは体験プログラムに取り入れられるものはないか常にアンテナを張っているそうです。
また、「受け入れ家庭あっての農村生活体験なので、栽培講習や料理、工作などの勉強会を実施しています」と受入家庭のスキルアップとやる気を引き出せるように趣向を凝らしているそうです。

右が、近江日野交流ネットワークの西河さん。昔タキイで働いていた経験を生かし栽培のアドバイスや受入家庭同士の、情報共有の橋渡し役をしている。
右が、近江日野交流ネットワークの西河さん。昔タキイで働いていた経験を生かし栽培のアドバイスや受入家庭同士の、情報共有の橋渡し役をしている。

九野里さんのお宅を訪問

九野里新吾さん(76歳)と奥さんの良子さん(75歳)は受け入れを始めて10年、毎年10組以上の子供たちを迎え入れている受入家庭です。この日は広島県広島市立船越中学校の女の子3人と、昼ごはんの準備です。宿泊中の食事は必ず子供たちとの共同調理で、煮物、酢の物、和え物などを中心にシンプルで素材の味が引き立つ味付けを心掛けているそうです。できた料理は自分たちですべて盛り付け、「上手に盛り付けたね」と褒められると3人は照れ笑いを浮かべ、和やかな雰囲気で食事が始まりました。自分たちで収穫したとれたての野菜の味は格別で、いつも以上に食が進みます。
その様子を嬉しそうに見ていた九野里さんは、「体験者の受け入れを始めてたくさんの子供たちとの出会いがあって、別れが寂しくなって大泣きした男の子からは今でも手紙が届くんですよ」と、受け入れを続ける喜びを話してくれました。

地元の食材や、旬の野菜を使った料理。お皿の中央にあるピンク色のカブは特産品の「日野菜」を漬物にした「さくら漬」。
地元の食材や、旬の野菜を使った料理。お皿の中央にあるピンク色のカブは特産品の「日野菜」を漬物にした「さくら漬」。
調理も食事もホストファミリーと一緒に。事前にアレルギーの有無を確認し、調理されるので、アレルギーの子からは「みんなと同じメニューを気にせずに食べられる。」と喜ばれるそうだ。調理も食事もホストファミリーと一緒に。事前にアレルギーの有無を確認し、調理されるので、アレルギーの子からは「みんなと同じメニューを気にせずに食べられる。」と喜ばれるそうだ。
調理も食事もホストファミリーと一緒に。事前にアレルギーの有無を確認し、調理されるので、アレルギーの子からは「みんなと同じメニューを気にせずに食べられる。」と喜ばれるそうだ。

谷口さんのお宅を訪問

谷口健次さん(72歳)と奥さんの喜代子さん(71歳)は息子さん家族と暮らしており、自宅から離れたところにある畑で家庭菜園をされています。そこでダイコンやネギ、ハクサイなどを栽培され、ご近所に配ったり、農村体験者と一緒に収穫を楽しんだりしているそうです。

この日は男の子4人を迎え、午前中の活動は三色団子作り。みんなでおもちを手でこねこねすると、会話もはずみ距離が縮まるそうです。午後からはいよいよ畑に出てタマネギ苗の定植作業です。農作業初体験の子供たちは、タマネギの苗を見るのももちろんはじめて。「やや深めに植えてね」と谷口さんからのアドバイスを受けながら、ていねいに植え付けていきます。「足がちょっと痛い…」と言いつつも、一畝分の植え付けをやり遂げた時の自信に満ちたような笑顔が印象的でした。

タマネギの定植は初めてだという中学生。食卓に並ぶタマネギが、どうやって作られているか知るきっかけとなった。
タマネギの定植は初めてだという中学生。食卓に並ぶタマネギが、どうやって作られているか知るきっかけとなった。
緑の帽子の男性とピンクのエプロンの女性がホストファミリーの谷口さん夫妻。広島の中学生と西河さんと一緒に写真撮影。
緑の帽子の男性とピンクのエプロンの女性がホストファミリーの谷口さん夫妻。広島の中学生と西河さんと一緒に写真撮影。

岡さんのお宅を訪問

岡光利さん(80歳)と奥さんの友子さん(77歳)は、日野町での取り組みが始まった当初から受け入れを行なっているそうです。「孫が修学旅行で田舎体験をして楽しかったと聞き、孫がお世話になったのだから自分も誰かに喜んでほしい」と受け入れを始めるきっかけを話してくれました。

岡さんのお宅に宿泊した中学生の女の子3人は、ソラマメのタネまき、「春ひかり七号」キャベツ苗の定植、「万願寺トウガラシ」の収穫を体験しました。とれたての「万願寺トウガラシ」は甘辛煮にして昼食に。「おいしくて、ひとりで10本も食べたんだよ!」と箸がとまらないほどおいしかったようです。

ホストファミリーの岡さん夫妻(写真奥)と中学生。
ホストファミリーの岡さん夫妻(写真奥)と中学生。
手際よく「春ひかり七号」キャベツの苗を植える中学生3人。
手際よく「春ひかり七号」キャベツの苗を植える中学生3人。
岡さんの畑では、農村体験に来た子供たちや家族のために無農薬で野菜や花を栽培している。
岡さんの畑では、農村体験に来た子供たちや家族のために無農薬で野菜や花を栽培している。
ソラマメのタネをまいた畑に、自分の名前を書いたプレートを立てて、大きく育ったら岡さんに写真を送ってもらうそうだ。
ソラマメのタネをまいた畑に、自分の名前を書いたプレートを立てて、大きく育ったら岡さんに写真を送ってもらうそうだ。

農村生活体験者はホテルや旅館などのお客様ではなく、その家の家族として迎えられ、自然の素晴らしさや、普段何気なく口にしている野菜や食事がどうやって作られているか、本物の体験を通して学ぶことができます。この農村生活体験をきっかけに、農業に興味をもち、その道に進んだ子や、その後何度も日野町を再訪する体験者も。受け入れるホストファミリーもまた、新しい気付きや発見があり活気づけられるので、まさに「三方よし!」。日本の食を支えている農村と、これからを生きる若者の交流が日本の農業が抱える問題を解決する糸口になるかもしれません。

「三方よし!近江日野田舎体験」についてのお問い合わせは

一般社団法人 近江日野交流ネットワーク
TEL:0748-52-6562 / E-mail:inakataiken@omi-hino.jp
http://www.omi-hino.jp/