多収性と作業性を両立した早生のべと病抵抗性ホウレンソウ3品種!茨城研究農場 林 宏信

2018/07/20掲載

タキイ交配「福兵衛」収量性と作業性を兼備!べと病に強い秋・春どり早生種!

タキイ交配「伸兵衛」収量性と作業性を兼備!べと病に強い秋冬どり早生種!

タキイ交配「タフスカイ」収量性・作業性・耐病性を兼備!すぐれた耐暑性をもつ早生種!

出荷調製作業に時間がかかるホウレンソウでは、時間当たりにどれだけの束数ができるかが、出荷量を決める重要な要因となっており、品種には収量性はもちろんのこと、収穫作業性についても高いレベルが求められています。従来は収量性が高い品種は作業性が劣り、作業性が高い品種は収量性が劣る傾向がありましたが、タキイでは、収量性と作業性を高いレベルで両立した品種を目標に育成を進めてきました。
重要病害である、べと病については2014年以降、レース10抵抗性品種の罹り病化がいくつかの産地で確認され、これらに抵抗性を示すレース1〜12抵抗性品種の育成を進めるとともに、抵抗性品種での周年栽培ができるように、作型別のラインアップの充実を図ってきました。
今回、秋・春どり早生種「福兵衛」秋冬どり早生種「伸兵衛」夏どり早生種「タフスカイ」が、主力産地で複数年にわたる試作の結果、育種目標に達していることが確認できたため、3品種同時発表の運びとなりました。

「福兵衛」適期表 「伸兵衛」適期表 「タフスカイ」適期表

品種特性

3品種共通の品種特性

冒頭にも述べたとおり、べと病レース12抵抗性シリーズでは収量性と作業性の両立を目標とし、それぞれの品種は以下の共通の特長をもっています。

1葉柄が太く、株張りよく多収

2葉柄はしなやかで折れにくく
収穫・調製作業が容易

3べと病レース1〜12、14〜16、19に抵抗性

これまで葉柄が太い多収品種は葉柄が折れやすく、収穫調製作業で手間取る傾向がありましたが、レース12シリーズでは葉柄が太い多収品種でありながら、葉柄を肉厚にして、柔軟性をもたせることで折れやすさを改善し、収量性と作業性の両立を実現しました。
また、「福兵衛」と「伸兵衛」は基本特性が類似した、低温伸長性が異なる兄弟品種になります。


↑他社品種に比べ、「伸兵衛」は葉柄が太く、株張りがよい。

「福兵衛」品種特性

1秋・春どりの早生種

低温伸長性がありながら、暖かい時期でも葉柄が長くなりにくい特長をもっており、秋〜年内どり、春どりの栽培に適した早生品種です。

2播種期幅が広く、作りやすい

生育はじっくりするものの冬どりでも栽培できます。生育の早い品種としては春の抽苔も遅いため、秋〜春まで播種期幅が広く、また草勢が強く、あまり土質を選ばないため、栽培しやすい品種です。

3葉面はスムーズで色つやがよい

葉面は、しわが少なくスムーズです。葉色はつやのよい濃緑色で荷姿も美しいことが特長です。

「伸兵衛」品種特性

1冬どりの早生種

低温伸長性があり、厳寒期でも順調に生育する特長をもつ、冬どりに適した早生品種です。厳寒期に発生しやすい凍害による葉柄の破損(パンク)にも比較的強い品種です。

2つやのある濃緑色で荷姿がよい

葉形質は「福兵衛」と類似しており、葉面はスムーズで、つやのよい濃緑色をしていて見ばえのよい荷姿に仕上がります。

「タフスカイ」品種特性

1夏どりの早生種

耐暑性にすぐれ、気温の高い時期の栽培でもしっかり生育できる特長をもっており、夏〜秋どりのほか、春どりにも適した早生品種です。

2萎凋病に強い

夏場の重要病害である萎凋病に強い耐病性をもっており、萎凋病が発生しやすい夏場の栽培に最適な品種です。

栽培ポイント

排水のよい圃場準備

近年、秋の長雨により過湿害の発生が多く見られるようになりました。過湿条件下では、葉の黄化症状の発生が懸念されるため、水はけの悪い圃場では高畝栽培とし、排水できるようにあらかじめ明渠などを設置しておきます。
また、牛ふん堆肥施用や緑肥のすき込みにより有機質を施用することで、土壌の団粒構造形成を促し、排水性、保水性のよい土づくりを心掛けます。

適切な株間での栽培

株間はホウレンソウの生育に大きく影響し、品種特性にあった株間で播種することが大切です。伸びやすい時期の栽培は株が張るように株間を広くとり、伸びにくい時期は株間を狭くし、伸長を促します。 各品種、播種時期ごとの株間の目安を参照してください。(2018年秋種特集号P.6参照)

総合的なべと病防除の実施

べと病はレース分化の起こりやすい病害で、近年、新しいレースが発生するサイクルは早くなっています。新しいレースはいつ発生するか分かりませんので、べと病抵抗性品種の利用だけでなく、総合的な防除を併用し、登録農薬による予防的な防除を心掛けてください。
また、べと病は風で胞子が拡散するため、病害の広がるスピードが非常に早いことが特徴です。罹病株を見つけたら、直ちに抜き取って、周辺の薬剤散布を行い、被害の拡大を防いでください。
栽培環境については、べと病は葉裏に水滴が付くような多湿条件や軟弱に生長した場合に発生しやすいため、トンネル、ハウスでの蒸し込みや過剰な多肥栽培には注意が必要です。

「福兵衛」栽培の注意点

中間・暖地での厳寒期栽培ではトンネルや不織布の被覆を行い、生育気温を確保して、生育を進めてください。

「伸兵衛」栽培の注意点

暖かい時期の栽培では葉柄が長くなる傾向があり、播種適期に従い極端な早まきは避けてください。

「タフスカイ」栽培の注意点

「タフスカイ」は極晩抽品種ではないので、抽苔しやすい5〜7月中旬の播種は避けてください。
生育旺盛な早生品種のため、気温の高い時期の栽培で株間を狭くすると生育が進みすぎる傾向があります。夏場の栽培では株間は7cm程度に広くとり、株をしっかり作ってやることがポイントです。
また、伸びの早い品種なので、ハウス栽培では収穫1週間前を目安に潅水を控え、株の充実を図ります。圃場潅水は生育中期に行ってください。

3品種の使い分け

ご紹介したとおり、「福兵衛」は秋・春どり、「伸兵衛」は冬どり、「タフスカイ」は夏どりに適した生育の早い品種となります。これら3品種を組み合わせることで夏〜春までの作付けを収量性と作業性を兼ね備えたべと病抵抗性品種でカバーすることができます。ここでは栽培地域ごとの代表的な使い方について説明します。

冷涼地での使い分け

8月まきは萎凋病に強く、暑くても生育が遅れにくい「タフスカイ」をおすすめします。夏場だけではなく、4月まきの栽培にも適しています。ただし、長日条件で抽苔しやすい5〜7月中旬まきではより晩抽性の安定している「晩抽サマースカイ」をご使用ください。
播種時期と収穫時期の気温差がまだ大きい冷涼地の3月まき、9月まきは早生で伸長性がありながら葉柄が長くなりにくい「福兵衛」が最適な品種です。冷涼地の秋の栽培では「福兵衛」を中心とし、低温期の収穫に一部「伸兵衛」を使用することがおすすめの使い方です。

中間・暖地での使い分け

まだ暑さの残る9月まきは耐暑性にすぐれる「タフスカイ」を播種します。2017年の栽培では多雨による過湿条件の中、湿害にも比較的強いとの評価をいただきました。
徐々に温度が下がってくる10月上中旬播種は、より低温伸長性のある「福兵衛」を播種します。年による気温差が大きい時期ですが、低温伸長性がある一方で、葉柄が長くなりにくいため、安定した収穫が期待できます。10月中旬〜11月播種の厳寒期どりでは低温伸長性がすぐれる「伸兵衛」を播種しますが、冬場にゆっくり生育する品種を使用したい方は、この時期も「福兵衛」をおすすめします。
低温期に生育し、収穫時期に向けて徐々に気温が上がってくる12月〜2月まきは「福兵衛」の特長が生かせる作型です。その後3〜4月まきでは、より抽苔が遅く温度が高い栽培条件に適した「タフスカイ」の播種をおすすめします。

タキイのホウレンソウが
野菜品種審査会で1、2位を独占!

日本種苗協会主催の第67回野菜品種審査会(2017年12月、宮崎県)において、過湿条件で欠株が多発する中、湿害に強いことが評価され、「福兵衛」が1等特別賞に、「伸兵衛」が2等を受賞しました。
また、「福兵衛」は東京都種苗会主催の第59回野菜・花き種苗改善審査会で1等を受賞し、栄誉ある農林水産大臣賞を受賞しております。


↑審査圃場では他社品種で欠株が多発する中、「福兵衛」「伸兵衛」は高い栽培性を発揮!