栽培技術

栽培技術

2022/7/20掲載

中間地・暖地向け
秋〜春どりにかけてのホウレンソウ品種
使い分けと栽培ポイント

タキイのホウレンソウ特長
  • 株張りがよく多収性にすぐれ、軸がしなやかで収穫・調製作業がしやすい。
  • べと病に強く栽培が安定する。
  • 品種ラインアップが充実しており、栽培地域や栽培体系に合った最適な品種が選定できる。

中間地や暖地では、秋〜春がホウレンソウの栽培適期ですが、収穫時期によって環境条件が異なるため、必要な栽培管理や適する品種が異なります。タキイのホウレンソウの収穫時期ごとの栽培管理とおすすめ品種について解説しますので、参考にしてください。

  • ※べと病はレース分化の起こりやすい病害なので、べと病対策については、抵抗性品種の利用のみではなく、排水性・通気性を高めるなどの耕種的防除、農薬による防除を併用して行うことが栽培の安定につながります。発生が予想される地域では、べと病発生が多い時期である秋〜年内どり、春どり栽培において、登録農薬による生育初期からの予防的な防除を心掛けてください。

タキイ茨城研究農場 神田 拓也

<生理生態>ホウレンソウってどんな作物?

時期ごとの栽培管理を理解していただくために、最初にホウレンソウの生理生態を簡単にご説明します。

生育適温

ホウレンソウは中央アジア原産で、冷涼な気候を好み、生育適温は15〜20℃です。耐寒性は非常に強く、ー10℃でも耐えることができる一方、暑さには弱いことが特徴です。

発芽特性

発芽適温は15〜20℃。35℃以上の高温では発芽率が低下します。
種子を覆っている皮は果皮と呼ばれ、果肉に相当します。果皮が種子内部への吸水を妨げるため、吸水に時間がかかり、コマツナやミズナよりも発芽に時間がかかります。

開花特性

ホウレンソウは低温で花芽形成するコマツナなどのアブラナ科と異なり、長日条件で抽苔開花します。したがって、日長が長くなっていく春の栽培では抽苔に注意が必要です。

その他の特性

ホウレンソウの生育は栽植密度に大きく影響されます(図)。総じて、密植すると立性になり、生育は促進され、疎植になると開性になり、生育はじっくりになります。そのため、栽培時期、収穫時期に合わせて、株間を調整することが大切です。
また、乾燥条件にはよく耐えますが、過湿には弱く、大雨が降りやすい秋の栽培では注意が必要です。

図:栽植密度、密植と疎植

>酸素供給剤「オキソパワー5」は4〜5カ月の長期間にわたり持続的に土壌へ酸素を供給、10kgから約400ℓの酸素を供給します。かたくしまる圃場でも、団粒化を促進し、土壌をやわらかくします。定植前に10a当り40〜60kgを全面散粒し、すき込みます。

株間を狭く密植にすると、草姿は開かず立性に生育し、収穫作業がしやすくなる。

>酸素供給剤「オキソパワー5」は4〜5カ月の長期間にわたり持続的に土壌へ酸素を供給、10kgから約400ℓの酸素を供給します。かたくしまる圃場でも、団粒化を促進し、土壌をやわらかくします。定植前に10a当り40〜60kgを全面散粒し、すき込みます。

株間を広げ疎植にすると、1 株のボリュームは増すが、草姿が開いて収穫作業はしにくくなる。

>酸素供給剤「オキソパワー5」は4〜5カ月の長期間にわたり持続的に土壌へ酸素を供給、10kgから約400ℓの酸素を供給します。かたくしまる圃場でも、団粒化を促進し、土壌をやわらかくします。定植前に10a当り40〜60kgを全面散粒し、すき込みます。

栽培初期の間引きで栽植密度を調整すると収穫時の草姿が変わる。

<栽培管理>秋〜年内どり(10〜12月収穫)

9月に入り朝晩の気温が下がりはじめると、秋冬栽培のスタート時期です。

9月上旬〜10月中旬

特に9月は日中の気温はまだ高く、圃場が乾燥していないか注意が必要です。圃場が乾燥していて、ハウス栽培や潅水設備が整っている場合、タネまき前に適宜潅水を行い、発芽の安定に努めます。また、この時期は生育が進みやすく、収量が少なくなりやすい時期なので、株間について9月まきは7cm10月まき5cmとやや広めにとります。

品種の選定

■9月まきにおすすめ:「タフスカイ」「吉兵衛」

「タフスカイ」:耐暑性にすぐれ、暑い時期でも栽培が安定する。抽苔は比較的遅い。
「吉兵衛」:生育がじっくりしており、徒長しにくく株張りが安定する。

「タフスカイ」 収量性・作業性・耐病性を兼備、すぐれた耐暑性をもつ早生種。

「タフスカイ」
収量性・作業性・耐病性を兼備、すぐれた耐暑性をもつ早生種。

「吉兵衛」 収量性と作業性を兼備、在圃性のよい秋春どり中早生種。

「吉兵衛」
収量性と作業性を兼備、在圃性のよい秋春どり中早生種。

■10月まきにおすすめ:「福兵衛」「徳兵衛」

「福兵衛」「徳兵衛」:両品種とも生育が旺盛な早生種で、葉柄が太く株張りがよい。「徳兵衛」は、べと病レース1〜15・17・19に抵抗性をもつため、べと病の発生が心配な方におすすめ。

「福兵衛」 収量性と作業性を兼備、生育旺盛な秋春どり早生種。

「福兵衛」
収量性と作業性を兼備、生育旺盛な秋春どり早生種。

「徳兵衛」 べと病レース1〜15・17・19に抵抗性、多収の秋春どり早生種。

「徳兵衛」
べと病レース1〜15・17・19に抵抗性、多収の秋春どり早生種。

  • タキイホウレンソウ作型表
  • タキイホウレンソウ特性表

<栽培管理>冬どり(1〜2月収穫)

厳寒期の栽培となり、暖地以外では被覆資材を活用し、生育を促進します。

播種時期:10月中下旬(暖地では11月も可能)

中間地では生育の進みや気温の変化をみて、気温が低下する12月ごろより被覆資材を使用して、生育温度を確保します。産地では有孔のビニールトンネルや「テクテク®ネオ」などの不織布が使用されています。
家庭菜園などでは「テクテク®ネオ」のベタがけでも十分です。また、生育が進みにくい時期のため、生育が促進するように、株間は3cm前後で密植気味に播種をします。
冬どり栽培はすべての作型の中で、最も生育期間が長く、収穫までに90〜100日かかる場合もあります。生育中に肥切れを起こさないよう、元肥は多めに施用し、生育中期にも速効性肥料で追肥すること(10a当たりチッソ成分で3kg程度)をおすすめします。

「テクテク®ネオ」 透光・通気・通水性に加え、適度の保温性もあり、生育促進に効果がある。

「テクテク®ネオ」
透光・通気・通水性に加え、適度の保温性もあり、生育促進に効果がある。

品種の選定

「寒兵衛」:生育がじっくりしており、耐寒性にすぐれるため低温による軸割れが発生しにくい。べと病レース1〜15・17・19に抵抗性をもつため、べと病の発生が心配な方におすすめ。
「伸兵衛」:低温伸長性があり、冬どり収穫に適した早生種。葉柄が太く株張りがよい。

「寒兵衛」 べと病レース1〜15・17・19に抵抗性。収量性と作業性がよい在圃型中生種。

「寒兵衛」
べと病レース1〜15・17・19に抵抗性。収量性と作業性がよい在圃型中生種。

「伸兵衛」 収量性と作業性を兼備、低温伸長性がよい秋冬どり早生種。

「伸兵衛」
収量性と作業性を兼備、低温伸長性がよい秋冬どり早生種。

  • タキイホウレンソウ作型表
  • タキイホウレンソウ特性表

<栽培管理>春どり(3〜5月収穫)

上昇気温下での栽培となり、徒長しにくい栽培管理、品種選定がポイントです。

播種時期:12月〜4月

12月〜1月に播種する場合、発芽〜生育初期は低温下での栽培になるため、冬どり同様に中間地では有孔のビニールトンネルや「テクテク®ネオ」などを使用し、地温を確保します。
2月以降は徐々に日中の温度が上昇し、生育が進み始めます。ハウス栽培の場合は、日中サイド換気をすることで、徒長や病害の発生を防ぎます。4月以降になると一気に生育が早くなり抽苔が発生しやすい時期になるため、適期での収穫を心掛けます。
株間について12月〜1月まきは5cm2月まき以降は5〜7cmとし、収穫期に徒長がしにくい株間に設定します。

品種の選定

■12〜2月中旬まきにおすすめ「福兵衛」「徳兵衛」

「福兵衛」「徳兵衛」:両品種とも生育が旺盛な早生種で、葉柄が太く株張りがよい。「徳兵衛」は、べと病レース1〜15・17・19に抵抗性をもつため、べと病の発生が心配な方におすすめ。

「福兵衛」 収量性と作業性を兼備、生育旺盛な秋春どり早生種。

「福兵衛」
収量性と作業性を兼備、生育旺盛な秋春どり早生種。

「徳兵衛」 べと病レース1〜15・17・19に抵抗性、多収の秋春どり早生種。

「徳兵衛」
べと病レース1〜15・17・19に抵抗性、多収の秋春どり早生種。

■1〜3月まきにおすすめ「吉兵衛」

「吉兵衛」:生育がじっくりしており、徒長しにくく株張りが安定する。

「吉兵衛」 収量性と作業性を兼備、在圃性のよい秋春どり中早生種。

「吉兵衛」
収量性と作業性を兼備、在圃性のよい秋春どり中早生種。

■2〜4月まきにおすすめ:「タフスカイ」「晩抽サマーヒット」

「タフスカイ」:耐暑性にすぐれ、暑い時期でも栽培が安定する。抽苔は比較的遅い。
「晩抽サマーヒット」:生育はじっくりしており、徒長しにくく多収性にすぐれる。抽苔が遅く、春〜初夏どりに最適する。

「タフスカイ」 収量性・作業性・耐病性を兼備、すぐれた耐暑性をもつ早生種。

「タフスカイ」
収量性・作業性・耐病性を兼備、すぐれた耐暑性をもつ早生種。

「晩抽サマーヒット」(2023年春発売予定) 収量・作業・耐病性にすぐれる春夏どりの晩抽濃緑種。

「晩抽サマーヒット」(2023年春発売予定)
収量・作業・耐病性にすぐれる春夏どりの晩抽濃緑種。

  • タキイホウレンソウ作型表
  • タキイホウレンソウ特性表

タキイホウレンソウ作型(中間地・暖地)

タキイホウレンソウ作型(中間地・暖地)

タキイホウレンソウ特性比較

タキイホウレンソウ特性比較

  • ※ホウレンソウのべと病はレース分化が起こりやすいため、抵抗性品種といえども、登録農薬による早期防除に努め、栽培管理に留意する。