〜宿根草を育てよう・秋の植物園〜」
2019/07/22掲載
日本には四季があります。あまりにも当たり前のことですが、現実には忙しい日々の中で、気温の変化に四季を感じるだけになりがちです。
でも、植物園で木々や草花の姿が変わる様子を日々眺めていると、改めてそのありがたさを感じることができます。日常よりいっそう四季を感じる景色を求めて来園される方も多いのではないでしょうか。
日本では四季で環境が変わるため、花や葉の彩(いろどり)を味わう時間は短くなってしまいますが、一方で春夏秋冬の気温や日長に合わせたバラエティ豊かな品種の植物を楽しめるのが特徴です。
植物園は四季の変化を体感できる場所。年始には立派な門松も。
暦に合わせて種子をまき、季節が過ぎると枯れていく植物を一年草といいます。それに対して、年を越してこのサイクルを繰り返す植物を多年草といいます。日本の一年草は冬の低温や春先の霜、夏の高温などで枯れてしまいます。四季は植物の生命を育むとともに、その終焉を突きつけるものでもあるのです。
では、四季のない熱帯雨林気候の地域ではどうでしょうか。日本では夏の野菜の代表とされる一年草のナスですが、熱帯雨林では寒さに当たることがないため、年を超えて多年草として生育しています。私もナスをガラス温室内で試験栽培したことがありますが、適切な剪定を行えば3年間続けて同じ株を栽培することができました。
つまり、環境を変えれば一年草でも多年草になることがあるのです。そういう観点から見ると、多年草は環境を変えずとも日本の四季を乗り越えることのできる植物であるといえます。
日本では一年草のナスも熱帯雨林では多年草に。
サルビア・レウカンタ
メキシコ、熱帯アメリカ原産。アメジストセージとも呼ばれ、紫色の花にはビロード状の毛がある。
多年草の中でも宿根草は、地上部が枯れてしまいますが地下部が生き残って越年する植物を指します。宿根草は芽吹きから開花と、季節に応じた生育を一年草と同じように楽しむことができます。その中でも比較的簡単に栽培できる宿根草をご紹介します。
サルビア・レウカンタは、9月から11月ごろに紫色の可憐な花を咲かせる草丈1mほどの宿根草です。性質は丈夫で病害虫の心配はほとんどありませんが、高温乾燥でハダニが発生するので、葉水などで防ぎます。日なたでよく育ちます。逆に日当たりが悪いと株が徒長し、花つきも悪くなるので気をつけましょう。
開花がはじまる9月からは、2週間に1回液肥を施すなど肥料切れに注意しましょう。また、冬には茎葉が枯れますが、株元を腐葉土などで厚めに覆って防寒すれば翌年には芽吹きます。
次にご紹介するのはシュウメイギクです。本来、シュウメイギクは京都貴船でみられるキブネギクを指すのですが、今は近縁種の園芸品種も併せてシュウメイギクと総称されています。8月下旬から11月末までピンクや白のかわいい花を咲かせます。
暑さ寒さ両方に強い性質をもっていますが、根は高温や乾燥に弱いので、株元を腐葉土で覆うなどして地温の上昇を防ぎます。また、風通しが悪いとうどんこ病が発生し、見ばえが悪くなるので注意しましょう。冬には茎葉が枯れて、春に再び芽を吹くまで休眠します。
シュウメイギク
キクの名がつくが、キンポウゲ科の植物でイチリンソウと同じ仲間。
さて、植物園では秋に向けて様々なイベントで皆様をお迎えしますが、特にお伝えしたいのは、来園者の方々からのご要望も多かった「紅葉ライトアップ」を本年度令和元年から開催いたします。紅葉が最も深い期間、11月15日から12月1日まで、園内の神社である半木神社から蓮池周辺を始め、各所ポイントで毎晩点灯します。
紅葉は、冬の準備をするため葉に貯めたエネルギーを樹体に回収することから起きる現象です。私たちは樹々の営みに目で触れ、秋や冬の訪れを感じます。植物の生育を見て四季を強く感じるのは、植物が人よりも正直に季節に応えているからかもしれません。
先にも記したように、来園された皆さんが植物園で特に季節を感じるのは、園内の植物がいっせいに季節の移ろいに合わせて変わるからではないでしょうか。これは、全ての植物は生命の営みを一つ進めているだけなのですが、日常の中で私たちは季節を感じにくくなっているようです。今回ご紹介した宿根草などを庭先やプランターに栽培して、日々の生活の中に季節を取り戻してみてはどうでしょうか。
初イベント「紅葉ライトアップ」はもちろんのこと、様々な木の紅葉が観察できる。正門前のケヤキ並木も美しく染まる。
今年で第53回となる菊花展、パステルカラーのコスモス花壇など、秋の植物園は見どころがいっぱい。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57