京都府立植物園のガーデナーがご紹介! 飾る楽しみ、育てる喜び… 植物の楽しみ方ガイド京都府立植物園のガーデナーがご紹介! 飾る楽しみ、育てる喜び… 植物の楽しみ方ガイド

花や植物を身近に感じる暮らしは、生活に彩りと癒しを与えてくれます。これから園芸を始めたい方でも楽しんで取り入れていただける花や植物の親しみ方や育て方を、植物園のガーデナーに解説していただきます。
第8回「静かに春を待つ、小さな命
〜秋植え球根の楽しみ方〜」
京都府立植物園 技術課主幹 田中 淳夫(たなか あつお)

2021/7/20掲載

今年も強い日差しが毎日ふりそそぐ、厳しい夏がやって来ました。暑さは困りものですが、夏は色鮮やかで情熱的な花や、パステル調の涼しげな花などバリエーション豊かな花が楽しめる季節です。一方で、やがて訪れる冬には咲く花種も減り、花壇や庭先のプランターも少し寂しく映ります。そこで、春に向けて球根を植えるのはいかがでしょうか。球根を植えれば春先に咲く花はもちろん、冬の間も土の中に命の営みが感じられて、寂しさも少し和らぐかもしれません。

球根の種類

球根には春植え、夏植え、秋植えがあります。春や夏に植える品種の球根は、根茎や塊根と呼ばれるものが多く、これらは地下茎や根が肥大したものです。カンナやダリアなどがそれに当たります。一方、秋植えの品種は鱗茎や球茎など、茎に短い葉が重なり合ったものや茎そのものが肥大化したものなどで、こちらがいわゆる皆さんがイメージする球根です。

春や夏に植える品種の球根

塊茎 カラー アネモネ
塊根 ダリア
根茎 カンナ

秋に植える品種の球根

鱗茎 ヒヤシンス断面 ユリ
球茎 グラジオラス フリージア

今回は、代表的な秋植えの球根植物をご紹介します。秋植え球根植物は、冬の寒さに一定の期間さらされることよって花芽が分化し、花茎が伸び始めるという特性があります。この「一定の期間」というのが重要で、あまりに遅く植えると寒さにさらされる時間が短くなって、花が咲かないこともあります。春先に開花を楽しむためには、時期を逃さず早めに作業を行っておくことをおすすめします。

球根といえばチューリップ

春に咲く花として定番のチューリップは、植物園でも相変わらず大人気です。当園では桜との対比を楽しんでもらうために、真紅で草丈の高い品種を選んでいますが、多くの種類があるため、実際に植える場所をイメージして球根を選ぶのが重要です。花色はもちろん、花形もさまざまなので選定を迷ってしまったり、いろいろなものを植えたくなったりするかもしれませんが、できるだけ同じ品種でそろえる方が、同時に咲いてボリューム感が出ます。

桜とチューリップの色の対比が美しい。
桜とチューリップの色の対比が美しい。

チューリップの生育は日当たりに左右されます。日の当たるよい場所を選び、11月中に植えましょう。株間は短くても開花しますが、花がぶつからないように15〜25cmの株間を取り、条ごとにチドリ状で植えれば正面から見た際に美しく見えます。条間は株間と同じ長さが最適です。植え穴の深さは、球根の高さに対して倍が目安です。芽を上にして覆土し、軽く押さえてすぐに潅水しましょう。芽が出てくるまでは、基本的に潅水は不要で、雨天時に雨がかかれば十分です。ただし、使い古しのものなど、あまりよくない土を使うと表面が固まり、芽の先が傷んでしまいます。そうなってしまったら表面の土を軽く砕いて潅水しましょう。花芽が上がってからは茎が少し首を傾げるタイミングで株元に潅水すればよいでしょう。

チューリップ「クリスマスドリーム」
チューリップ「クリスマスドリーム」

● 一般的なチューリップの作型

一般的なチューリップの作型

スイセンの花の向きをそろえるには

スイセンも色々な花色・花形があるので好みのものを選びましょう。植え付け時期は、年内に咲くニホンズイセンなどもあるので、10月中が無難です。植え方や育て方はチューリップと変わりませんが、スイセンは半日陰でも花を咲かせます。

ただし半日陰での生育だと、同じ方向に花が咲くという、スイセンに特徴的な花の咲き方になりません。スイセンは、日が当たっているのとは逆側の花首付近の茎に、オーキシンを発生させる性質があります。オーキシンにより、茎の片側のみ生長が促されるため、結果として花首が日の当たる方を向くように曲がるのです。しかし日照が不足していると、このような特定の部分でのオーキシン発生が起こらないため、花の向きはバラバラになります。花の向きをきれいにそろえたいのであれば、日当たりのよい場所を選びましょう。

スイセン「タリア」
スイセン「タリア」

● 一般的なスイセンの作型

一般的なスイセンの作型

クロッカス

寒咲きクロッカス「ブルーパール」
寒咲きクロッカス「ブルーパール」

日当たりのよい場所にチューリップと同じように植えます。クロッカスは耐暑性が強く、夏には休眠して翌年にも分球した球根から花が上がってくる多年草です。しかし新たに分球した球根は少し地上部に近い位置に形成され、数年たつとかなり浅い所に球根が集まることになります。結果として地表の影響を受けやすくなり乾燥や過湿により球根が全滅することがあります。これは他の球根植物にもよく見られる現象で、しばしば毎年楽しめたクロッカスやムスカリが急に咲かなくなったと相談を受けますが、原因はこれによるものです。

対処法としては、2〜3年ごとに、葉が枯れれば球根を掘り返し、日陰干しで保存して、10月から11月の間に球根丈の倍の深さに掘った穴に定植します。こうすればクロッカスの花が、ある年、急に咲かなくなるのを防ぐことができます。

● 一般的なクロッカスの作型

一般的なクロッカスの作型

これら3種類の球根を植栽すれば、まずはスイセン、続いてクロッカス、チューリップと途切れることなく、早春から春まで花を楽しむことができます。

今回紹介した3種以外にも、日当たりのよいところであればアネモネやラナンキュラス、フリージア、半日陰ならヒヤシンスやムスカリなども育てられます。ただ、ラナンキュラスやフリージアは耐寒性がやや弱いため、氷点下の日が2日以上続く地域では栽培できません。

秋植えの球根植物は、寒い冬を乗り越えて花を咲かせるだけに、春に花が咲いたときの喜びもひとしおです。そんな気持ちも味わえますので、ぜひ挑戦してみてください。

切り花にして庭と部屋、二つのシーンで楽しむことができる。
切り花にして庭と部屋、二つのシーンで楽しむことができる。