リレー連載 京都府立植物園のガーデナーがご紹介! 飾る楽しみ、育てる喜び… 植物の楽しみ方ガイドリレー連載 京都府立植物園のガーデナーがご紹介! 飾る楽しみ、育てる喜び… 植物の楽しみ方ガイド

花や植物を身近に感じる暮らしは、生活に彩りと癒しを与えてくれます。これから園芸を始めたい方でも楽しんで取り入れていただける花や植物の親しみ方や育て方を、植物園のガーデナーに解説していただきます。
第7回「新鮮野菜を身近に 〜小さな農園のすすめ〜」
京都府立植物園 技術課主幹 田中 淳夫(たなか あつお)

2021/2/22掲載

これから少しずつ暖かくなる季節。待ち遠しい春がすぐそこまで来ていますが、外出時の服装が難しいのもこの季節です。油断して厚手の上着を着ずに外出すると、日暮れ時に後悔することも多々あります。こんな時期に重宝するのは機能性衣料です。薄手でも暖かい下着や、ジャケットのように気温に応じて体温調整を補助してくれるものです。
この機能性という言葉を昨今はよく耳にします。特に機能性食品と印字されたパッケージをスーパーなどで目にされていると思います。機能性食品とは一般的な栄養だけではなく、身体の機能を調整する成分を含有した食品のことです。具体的には血圧や血糖値を調整したり、病気に対する抵抗力を高めたりするなどの効果が期待できます。
飲料水を始め、巷には色々な機能性食品がありますが、実は日々食べている野菜も非常にすぐれた機能性成分をもっていることをご存じでしょうか。身体の調整に重要なビタミンやポリフェノールはもちろんのこと、疾病抵抗性を向上させる抗変異原成分や老化を遅らせる活性酸素調整成分なども見つかってきています。
今回は野菜を手軽に栽培できるプランター農園やキッチンガーデンについてご紹介します。採れたて新鮮なおいしい野菜を栽培して健康的に楽しくお家時間を過ごしてみてはいかがでしょうか。

プランター農園

まずはベランダや玄関先でも簡単にできるプランター農園をご紹介します。

プランターの底には小石などを敷き詰めて排水性を高めます。土はホームセンターなどで販売されている腐葉土の入ったものを、プランターの深さ九分目まで入れます。

肥料は油かすを使いますが、肥料成分が溶け出すのに時間が必要なので、種をまく1週間前には土に混ぜ込んでおきましょう。量は土10ℓに対して大さじスプーン3杯程度です。もし苦土石灰があれば同様に大さじスプーン1杯を入れます。

イラスト1

初心者には葉野菜がおすすめ

栽培する品目として、初心者の方にはコマツナやミズナ、葉ネギやニラなどの葉野菜がおすすめです。コマツナやミズナなどのアブラナ科葉野菜は、生育も早く栽培が簡単です。ニラや葉ネギは、根を残して収穫すると再び葉が生育し、何度でも収穫できます。

コマツナのプランター栽培。
コマツナのプランター栽培。
ニラや葉ネギは、根を残せば繰り返し収穫ができる。
ニラや葉ネギは、根を残せば繰り返し収穫ができる。

コマツナやミズナは2cm間隔でタネをまき、プランターに幅があるのなら10cmの条間を空けて2条まきにします。深さ1cmほどの植え穴にタネを落とし、周りの土をやさしく被せます。最初の潅水はたっぷり行います。まずジョウロで軽く水をまき、馴染んだら土の表面に水が少し溜まるくらいまで潅水します。5日ほどで子葉、10日程で本葉が出てくるので、それぞれ間引きをして最終的に株間を10cmにします。

イラスト2

ニラや葉ネギは苗を作ってから植えるのがよいでしょう。紙コップを半分に切り、底につまようじで5つほど小さな穴を空けます。それにプランターに入れるのと同じ土を九分目まで入れて播種します。ニラならばコップ一つにつき10粒、葉ネギならば5粒程度をまき、タネをうっすらと覆う程度に覆土します。上からやさしく潅水し、土が乾燥しないように管理しましょう。草丈が10cmになったら、プランターに束のまま移植します。束と束の間は20cmほど空けてください。

ポイント 水やりのコツ

意外と難しいのが潅水です。よくある失敗が水のやり過ぎで根を傷めてしまう事例です。土の表面を指先で掘ってみて、深さ2cmあたりの土が湿っていれば大丈夫です。季節やプランターの大きさにもよりますが、1週間に2回程度潅水すれば十分です。

最初の潅水はたっぷりと。生育中は水のやり過ぎに注意。
最初の潅水はたっぷりと。生育中は水のやり過ぎに注意。

農薬を使わない病害虫対策

病害虫の防除については農薬防除が最も有効ですが、無農薬栽培に挑戦される方も多いようです。ここではそのための方法をいくつかご紹介します。

病害対策では風通しをよくすることや過湿を避けることが重要です。例えばプランターで20株のコマツナを栽培して病気が発生した場合、次は10株の栽培にすれば株間が広がり、風通しもよくなります。過湿は1回の潅水量を減らせば回避できます。いつもジョウロ一杯潅水していたとすれば、3分の2程度に加減してみてはどうでしょうか。また、肥料が少なすぎたり、多すぎたりしても病気を誘発します。株全体が黄色っぽくなっていれば肥料不足で、黒っぽい緑色なら過剰です。これを目安として次回の肥料量を調整しましょう。

害虫については寒冷紗や防虫ネットで覆うのが効果的ですが、隙間を作らないように注意しましょう。隙間があるとそこから虫が入って虫かご状態になり、逆効果となります。そして何よりも観察して捕らえることが大切です。葉が傷ついていたり、ふんがあったりすれば必ず虫がいます。こんなとき、上からのぞき込んでもなかなか虫を見つけることはできません。台のような物があれば、その上にプランターを乗せて屈み、目の高さで株を見てみましょう。葉の裏や成長点、葉と軸の隙間に虫が潜んでいることが多いので、こまめに見つけて捕殺しましょう。

寒冷紗やネットをかけるときは、隙間ができないよう、裾をしっかりとめる。
寒冷紗やネットをかけるときは、隙間ができないよう、裾をしっかりとめる。

コンパニオンプランツを利用しよう

コンパニオンプランツを利用するのも一つの方法です。まだあまり科学的に効果が解明されているわけではなく、経験則によるものですが、組み合わせて栽培すると病害虫の発生を減らす効果が期待できる植物です。今回紹介したアブラナ科葉菜類と、葉ネギ・ニラの組み合わせがこれにあたります。例えば同じプランターにコマツナとニラを混植すれば、病害虫被害の軽減が見込めます。ほかにもシュンギクとニラ、トマトとニラ、キュウリとマリーゴールド、ブロッコリーとレタス、トウモロコシとエダマメなどの組み合わせも効果があると報告されています。

葉野菜ができれば、次はハクサイやキャベツ、ブロッコリーなどにも挑戦してみましょう。また、トマトやナスの果菜類は根の量が多いのでプランター栽培には不向きですが、根量が比較的少ないトウガラシや、根が強靱なゴーヤなどは栽培することが可能です。

キッチンガーデン

次に日々のお料理で使う野菜などを育て、収穫と鑑賞の両方を楽しむことができるキッチンガーデンをご紹介します。室内でも作りやすいハーブ類がよく紹介されていますが、ここでは野菜のベビーリーフを取り上げます。

先述のミズナやコマツナも、サラダ向けのおいしいベビーリーフになりますが、おすすめの品目はルッコラ、ミブナ、ニンジン、ゴボウです。どれも一風変わった味や香りをもっており、サラダに入れるとよいアクセントになります。

ベビーリーフを使ったサラダ。いつもの一品に、彩りと栄養をプラス。
ベビーリーフを使ったサラダ。いつもの一品に、彩りと栄養をプラス。

作り方は簡単です。日当たりのよい場所を選び土、またはオアシスなどを入れた容器に、2cm間隔で播種して、潅水をします。ニンジンやゴボウのタネは吸水しにくいので、あらかじめ半日ほど水に漬けておいてからまきましょう。葉の部分が10〜15cmになれば収穫ですが、10cm程度になった葉を順々に掻き取るように収穫すれば、葉は次々と伸びてくるので長い期間収穫できます。
室内で栽培するため病害虫の発生は少ないですが、まれに培地にカビが生えたり、コケバエという小バエが発生したりします。発生したときは栽培をやめ、培地を天日に当てて十分に乾かしてから容器に戻してください。
また、ここで取り上げなかったハーブ類は、こちらの動画でセルトレイを使った栽培方法を紹介していますのでご覧ください。うまく栽培できるようになったらパンジーやビオラを利用して、エディブルフラワーにも挑戦してはいかがでしょうか。

空いたスペースを有効活用でき、インテリアとしても楽しめる。
空いたスペースを有効活用でき、インテリアとしても楽しめる。

今回ご紹介したプランター農園やキッチンガーデンは、初心者向けでもある一方で奥が深く、栽培が難しいものもあります。植物園でも正門や北山門をはじめ、季節の鉢植えやプランターを多く展示しています。花壇に比べて目立たない存在ですが、色々と工夫して栽培しているのでぜひ一度、参考にじっくりと鑑賞してください。