農園芸ライター 久野美由紀
2024/03/05掲載
2023年春夏に作ったのは、ジャガイモ、キュウリ、エダマメの3品目。前回のジャガイモに引き続き、今回はキュウリ栽培を取り上げます。
4月に入りジャガイモの芽が出始めるころ、筆者はキュウリに取りかかろうとしていました。過去にも作ったことはありますが、収穫は1株10本もいかず、とても成功とは呼べないものでした。
そんな筆者におすすめされた品種は、病気に強くよいものがとれる「VR夏すずみ」と、四葉系で歯ごたえのよい「シャキット」。ともに家庭菜園でも人気の品種で、以前筆者が栽培したのも「シャキット」でした。今回は1株10本の壁を越えたいと、タネまきの準備を始めたのでありました。
これまで、タネはセルトレイにまいてコタツの中で発芽させ、ある程度芽が出そろってから外に出していました。ただ、発芽のタイミングがどうしてもずれるため、早いものはコタツの中で徒長気味になってしまいます。これでよいのか不安になって、豊作さんのご意見をうかがうことにしました。
キュウリは5月の連休明けには植え付けたいので、4月上旬に播種の準備を始めるとよいでしょう。
やり方は従来通り、コタツ方式でかまいません。芽が出たらすぐ外へ出して光に当てると、徒長が少なくなります。発芽まではしっかり温度をかけ、その後はすぐにシメるのがよいかと。
コタツでよいと聞いて一安心。4月8日にポリポットへまいて、低めの温度にしたコタツの中へセットしました。
基本的にタネを水に漬けるのは、オクラのような硬実種子など水を吸いにくいものぐらいで、それ以外はあえてやる必要はないと考えます。場合によっては、長く水に漬かりすぎて窒息してしまったり、発芽初期の病害予防に施された種子処理剤が水で流れてしまったりと、逆効果になりかねません。良質な培養土を使っていれば、通常の水分管理で十分芽が出ます。
まいてからは一度しっかり底面吸水させ、その後の水やりはほどほどにしてください。この時期はそれほど乾燥しないので、あまり神経質に水をやりすぎると、過湿になるおそれがあります。
タネは一晩水に漬けるもの…と思い込んでいたのですが、水を吸いにくい種子でないかぎり、そのまままけばよいのですね。
芽が動き出したらすぐにコタツから出し、温度を生育適温まで下げてやることが、徒長防止のコツです。桜の散るころが、外に出せる目安になります。
なお、霜の予報があるときは、室内へ避難させるか、もしくは夜間のみビニールや不織布で保温してください。
今回、セルトレイでなくポリポットを使ったのは、発芽したものから外へ出せるようにするためです。セルトレイだと、ある程度芽が出そろうまでコタツの中で待たねばならず、早いものは高確率で徒長してしまうからです。
幸い、2日後の10日には二つほど発芽を確認。残りもいくつか発芽の兆候が見え、去年の4月の暖かさもあって、まとめてベランダへ出すことにしました。
加温をやめるのは少し早いかも…という不安はあったのですが、芽は次々に出て、15日にはすべての発芽を確認。その後も順調に生育していきました。早すぎかと危ぶんだタイミングが、実はちょうどよかったのかもしれません。
その後も本葉が1枚、2枚と出て、順調に育っていきました。
あとは植え付けを待つばかりだったのですが、ここで問題が発生。ジャガイモの項でも触れましたが、去年の5月はとにかく雨が多く、葉が叩かれてボロボロになるものが出てきました。
さらに、実家にいる日が増えたため、帰宅と晴れの日のタイミングがなかなか合ってくれず、本来は連休明けに植え付ける予定だったのに、5月下旬になっても苗のまま。ポットの大きさに対して、明らかに苗が育ちすぎてしまい、どうにか晴れてくれと祈る思いでした。
5月末になると、葉が徐々に黄ばんできました。ここで植え付けないと手遅れになりそうで、5月30日、買い置きしてあった「タキイの培養土」を使い、9号鉢2個へ植え付けることにしました。
植え付けは早い方が活着がよく、その後の生育度合いが大きく変わります。写真を見ると23日の状態が限界で、30日には若干黄ばんでいて活着不良を起こしそうです。なお、苗の段階で花が咲いているものは、植え付けてもほぼ期待できないのであきらめましょう。
作業には、この時期までにやった方がよいものと、やらなくてはならないものがあります。キュウリの植え付けは後者で、必ず適期に行わなくてはなりません。
やはり遅かったですか……。23日の時点では青々としていたので、雨がパラついていても、無理して作業した方がよかった気がします。
タネが余っているなら、これから直播した方が結果がよくなるかもしれません。いろいろと制約がある中で、できないこともあるでしょうから、そのときは次にどうするとか、先に予想し準備できるようにしていくと、次年度につながると思います。
豊作さんのアドバイスを受け、6月5日にプランターへ直まきを行いました。両品種を1株ずつ、前回老化苗を植え付けた鉢と比較してみるつもりです。心配された鉢のキュウリは、意外にもすくすく伸びていて、これならなんとか育ちそうでした。
プランターへまいたタネは問題なく発芽。気温が上がって、双葉の生育も早いように感じます。鉢植えの方も問題なく育っているようでした。
10.5pのポリポットで30日を超えての育苗は、さすがに厳しいかと思いましたが、結果的にはなんとかなったようですね。ただ、誰にでもおすすめできることではないので、その点は注意してください。
鉢のキュウリに雌花がつき始めると、生育が加速してきました。日ごとにどんどん伸びていくので、6月15日、とりあえず間に合わせの支柱を1本。プランターの方は本葉が出てきました。
そして6月22日、鉢のキュウリはさらに丈が伸びて葉も一気に茂り、よく見れば収穫サイズの実がぶら下がっていました。上の写真ではまだ生育途中な感じなのに、たった1週間で驚くほど見た目が変わっています。キュウリの生育の早さを、改めて実感。植え付けるとすぐに雄花、雌花と咲いて、収穫できるのは、初心者でも取り組みやすい品目だと思いました。
1週間前に立てた支柱1本では心もとないので、もう1本増やして2本にし、上部へ横に短い支柱を渡して固定。今後出てくる子づる、孫づるに備えました。
6月も終わりに近づくと、プランターの株も上へ伸びてきました。タネまきからまだ20日あまりですが、かなり旺盛に育っています。7月4日にはキュウリネットを張って、準備は万端でした。
植え付けは遅れたものの、ここまでかなり調子よく進んでいたと思います。両品種とも週に1〜2本はとれていたし、果形や色も上々。7月8日には親づるが支柱の先端に達したので摘芯し、14日には伸びてきた子づるの整枝も開始しました。プランターの収穫も始められて、うまくいっているように見えました。
6月になれば温度も上がって、プランターへの直まき分は順調に生育していますね。葉がポットの苗より大きく、よい状態です。
ただ、このあたりから、まめに管理できないことが弱点となって表れてきました。キュウリはとにかく生育が早く、数日目を離した隙に子づる孫づるが驚くほど伸びて、どれを切ってよいかわからなくなってしまいます。しかも、プランターの「VR夏すずみ」が、ネットではなく隣の鉢の支柱に絡みつき、よけいごちゃごちゃになってしまいました。
また、鉢のキュウリには、このころから変形果が見られるようになりました。猛暑の影響か、管理がうまくできなかったせいで衰えたのか、その割合は徐々に増えていきました。
7月になると、収穫が増えたことによるなり疲れに加え、気温が上がって水と肥料の不足傾向が進むので、変形果実が増えてきます。よほどうまくこまめに手をかけないと、これ以降も上手に栽培を続けるのは難しいものがあります。このあたりで手じまいするのも一つの考え方です。
後でまいた分は比較的元気ですから、リレー方式でプランター分を主力にするのもよいかと思います。
プランターの株は元気だったのですが、親づるが鉢の支柱へ伸びたことでごちゃごちゃになり、その後はさらに絡みあって手がつけられなくなりました。結局、細かな管理をするのはここで断念。水やりと追肥だけして、細々と収穫を続けました。ただ、あまりに暑かったためか、どんどん元気がなくなって、秋になる前にはほぼ終了となってしまいました。
この前年に作ったトマトとオクラなら、数日おきの管理でもなんとかなったのですが、キュウリにはさらにきめ細かな作業が必要なことを痛感しました。とにかく毎日のように見ておかないと、気づいたときにはつるが明後日の方向へ伸びてしまっているのですから。
キュウリは、ただ収穫するだけなら簡単です。しかし、長くもたせようとするなら、適切な管理が必要になってくる。整枝をうまくやることで、後半の収穫量がまったく違ってきますよ。
実際に作ってみて、本当に豊作さんの言葉通りだと思いました。整枝をあきらめて伸び放題にしてしまったあたりで、一気に衰えてしまいましたから。また、どの時点でどのつるを切るか、判断できるようになるにはもっと経験が必要だと感じました。
キュウリ栽培の名人といわれる農家さんは、10月以降も樹をもたせられるそうですが、それがどれほど難しいかを作ってみて実感したのでした。
営利農家の方は、きちんと土づくりをした畑に植え付け、常に目を配っています。プランターとでは土の量や環境耐性に大きな差があり、比較するのはあまり意味がないことです。
家庭菜園やベランダ菜園では、そこそこ収穫できたらよし、と考えるのが次にもつながっておすすめですよ。
言われてみれば、確かに前半はよいものが収穫できたし、1株10本の壁もどうにか越えられました。実は、筆者はあまりキュウリが好きではなかったのですが、取材の際にいただいたりしておいしさを知り、今では自分で作って新鮮な味わいを楽しめるようになりました。
「シャキット」のパリッとした歯ごたえはやはり格別だし、「VR夏すずみ」は濃い緑が美しく味もよかったと思います。また、余った「VR夏すずみ」の苗を知人に差し上げたのですが、その方には「あんなにスラッとしてきれいで、おいしいキュウリは初めて!」と、こちらが驚くほど絶賛されてしまいました。筆者と違って、これまでいろんな品種を栽培してきたからこそ、違いがよく分かるのかもしれませんね。
植え付ければすぐ収穫でき、新鮮な果実が楽しめる手軽さと、後半までもたせることの難しさ。キュウリの奥深さを知った今回の栽培でした。
ジャガイモ、キュウリと並行して行ったエダマメ栽培は3月19日(火)に更新する予定です。
どうぞお楽しみに!
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57