農園芸ライター 久野美由紀
2024/03/19掲載
2023年春夏に挑戦した3品目のうち、残るはエダマメのみ。3回にわたるこの季のレポートも、ようやく完了です。
ジャガイモを収穫した後、空いたプランターへ植える品目として、提案されたのがエダマメです。タネをポットまきして育てておけば、ちょうどよいタイミングで植え付けられるとのこと。
エダマメにもいろいろありますが、「せっかくだから早晩性を実感してみたら?」とすすめられ、早生の「早生黒頭巾」、中早生の「快豆黒頭巾」、晩生の「鶴の子大豆」の3品種を作ることになりました。
最初にタネをまくのは、もちろん「早生黒頭巾」。連休中にまいて1カ月ほど育苗し、ジャガイモの収穫を終えたプランターへ植え付けるスケジュールです。
まく前に、豊作さんから1点だけ注意事項が送られてきました。
エダマメのタネは、絶対水に漬けてはダメですよ。急速に吸水してしまい、割れて発芽しなくなります。
マメ類のタネを、水に漬けてはいけないことは聞いていたのですが、急速に水を吸って割れるから…というのは初耳でした。というか、水を吸いすぎたら腐るのだと勘違いしていました(汗)。
5月3日、ポリポットを4個用意し、「たねまき培土」を詰めて2粒ずつタネを落とし覆土。2本立ちで栽培するつもりです。水をやり、トレイに入れて底に薄く1pほど水を張っておきました。暑さで干上がるのを防ぐための措置です。
おそらく次の帰宅時は芽が出ているだろうと、楽しみにしていました。
ところが、ジャガイモとキュウリでも悩まされたように、連休終盤にこの時期としては異例の大雨。5月7日に帰宅してみればトレイは水があふれんばかりで、中のポットはまるで泳いでいるような状態です。マメ類にとっては最悪で、発芽の兆候もほとんど見られません。
それでも、これから動きがあるかもしれない…とわずかな望みをかけましたが、数日待って発芽したのはたったの2本。おそらく残りのタネは窒息したか、割れたかしたのでしょう。8粒中2粒の発芽は想定外で、少し頭が混乱してしまいました。
タネまき直後に底面給水トレイを使うと、やはり過湿の懸念が出てきます。良質な培養土を使っていれば、初期の発芽に必要な水分は十分確保されるので、トレイは無理に使わず、あくまで生育が進んだ後の水切れ防止に使用するのがおすすめです。
なお、エダマメは基本的に移植するより直まきの方が望ましい品目です。タネが余っているなら、少々遅れても直まきした方がよかったかもしれません。
芽が出ないと分かった時点で、直まきすればよかったのですね。予想外の事態が起こっても、すぐ頭を切り替えて対応することが必要だと感じました。
植え付けたのは6月5日です。ジャガイモ収穫後のプランターを使う予定でしたが、苗が足りず、やむなく小さめのプランターに変更。二つのポットの苗を寄せて植え付け、2本立ちにしました。なお、培養土はキュウリと同じ「タキイの培養土」を用い、エダマメもこれで統一しました。
「早生黒頭巾」で懲りたため、中早生の「快豆黒頭巾」ではポットを底面給水トレイへ入れないことにしました。乾燥したら仕方ない、少なくとも大量の雨水でおぼれるよりはマシなはずです。
そして、6月11日に「快豆黒頭巾」をタネまき。ポリポット4個に2粒ずつ落としていくのは前回と同じで、同時にプランターへの直まきも行いました。まいた後はどちらもたっぷり水をやり、あとはそのまま放置。今度こそ無事に芽が出るよう祈りました。
一方、植え付けた「早生黒頭巾」は無事活着したようで、これからさらに大きくなると思いきや、すぐに花が咲き始めました。早生品種だけあって、樹の生育はそこそこに、実をつける方へエネルギーを使うのですね。
「快豆黒頭巾」ではタネまき直後だけ水を与え、その後は放置したのがよかったのか、4日後の6月11日にはポット8粒、プランター4粒のすべてが発芽。さすがにホッと胸をなでおろしました。
発芽した「快豆黒頭巾」は、ポットもプランターも見る度に大きく育っていきました。
一方の「早生黒頭巾」は茎葉の生育が止まったようで、それと同時に莢がぐっと増えてきました。もちろん、中のマメができるのはこれからですが、莢がつくと「エダマメを作っている」気分になれて、筆者の中でぐっと盛り上がってきました(笑)。
そして、最後にタネをまくのが晩生の「鶴の子大豆」です。6月22日、「快豆黒頭巾」と同じようにタネまき。ポットの数だけ4個から6個に増やしましたが、これはうまくダイズになってくれたら、手作りみそを仕込みたいとの密かな野望?があったからです。必要量を収穫するには多めの苗が必要で、ベランダ以外にも、実家でジャガイモの後に地植えしようと思っていました。
「快豆黒頭巾」ではうまく発芽したので、これでいけると思ったのですが、「鶴の子大豆」は芽が出ないものもあり、さらにその後の生育もバラバラです。この要因は品種特性なのか、それとも暑すぎる気候が災いしたのか……。ちゃんと育ったものを組み合わせれば、「快豆黒頭巾」と同数は育てられそうですが、実家で地植えして大量に収穫し、みそを仕込むという目論見は崩れ去ってしまいました。
6月下旬では、日の当たる所での播種と発芽は、温度的に厳しかったかもしれません。数日経っても発芽しなければ、すぐ追いまきするなど、次の手順を考えた方がよいでしょう。春の栽培は播種が数日遅れたところで、収穫までの日数はあまり変わりませんから。
みそが作れるほど収穫したいなら、実家の畑のジャガイモが終わった後、そのまま直まきすればよかったですね。
やはり高温下の発芽は、なかなか難しいものがあるのですね。うまくいかなければすぐ次に行くこと。特にエダマメなどは苗作りにこだわらず、もっと直まきを考えた方がよさそうです。
なお、プランターの直まき分も、右側の1本は発芽はしたのですがまともに育たず、短い茎だけ出ている状態。これを抜いて、正常な苗を補植することにしました。
「鶴の子大豆」がようやく大きくなり始めたころ、最初に植えた「早生黒頭巾」は莢がぐっとふくらんできました。一つ二つならとれそうでしたが、塩ゆでするにはある程度の数が必要で、しばらく様子を見ることに。とにかく収穫は目前のようです。
中早生の「快豆黒頭巾」は、これまた雨で植え付けが延び延びになり、7月8日にようやく実行。幸い、葉が黄ばむなど老化苗の兆候はなく、その後も伸びていきました。「早生黒頭巾」は20p程度で茎葉の生育は止まったのに、中早生品種だと樹自体をもっと大きくしてから実をならせるということでしょうか。品種写真で見るだけでは、なかなか分からない違いです。
7月14日には「鶴の子大豆」の植え付けも行い、ようやく育苗〜植え付けの作業が一段落しました。
そして7月18日、いよいよ「早生黒頭巾」の収穫です。莢が半分以上ぷっくりとふくらんで、樹は2本でもまとまった数ができています。22日には残りの莢も収穫。樹はほとんど枯れあがっているのに、莢はちゃんと育っているのが不思議でした。
「早生黒頭巾」が終了し、あとは「快豆黒頭巾」と「鶴の子大豆」の二つ。どちらも順調に花が咲き、莢がついています。プランターの「快豆黒頭巾」が伸びすぎて倒れてしまったので、支柱を立てて樹を支えることに。鉢の方は倒れていませんが、念のためこちらにも立てて誘引しておきました。なぜか「鶴の子大豆」は、同じぐらいまで伸びても倒れず、このあたりにも品種の違いを感じました。
2023年は前年をもしのぐ猛暑となり、1日水が切れただけで枯れるおそれが出てきます。対策として、鉢は水を満たした底面給水トレイへ入れ、プランターはバケツからひもをたらして給水。さらに気温が上がるとバケツの数を増やして対応しました。
それでも水切れは起きそうなため、豊作さんに教えてもらった「段ボールで囲う」ことを実践。大きめの段ボールで周囲を囲むだけですが、これが意外な効果を発揮しました。前年はたっぷりトレイに水を満たしても、おそらく半分は蒸発してなくなっていたのですが、今回は3日後でも水が残っていることが多いのです。残っていなくても土はカラカラに乾いてはおらず、樹が枯れる気配はありません。
トマトとエダマメの水分要求量の違いはあるにせよ、蒸発が防げ、おそらく土の温度も下げられて、この段ボールにはかなり助けられました。
8月に入ると「快豆黒頭巾」の莢はさらに太り、収獲の近さをうかがわせました。「鶴の子大豆」も莢ができ始めています。
8月8日には「快豆黒頭巾」の収穫を開始。プランター、鉢ともほとんど差はなく、どれも鈴なりといってよい莢のつき方です。続く12日にも収穫を行い、かなりの数をとることができました。
「快豆黒頭巾」はこれで9割方とり終えたことになり、おそらくあと一度で終わり。その後は「鶴の子大豆」が待っています。こちらの莢はまだふくらみかけたばかりなので、ちょうどよいタイミングでリレーできそうです。
しかし、このままうまく終わらないのが、筆者の栽培なのでした。タネまきでつまづいた「早生黒頭巾」を除けば、猛暑対策も効いて、過去最高といってもよい出来だったのに、ここでまさかの強い台風がやってきたのです。
当初の予報では関東地方へ向かうことになっていて、筆者の住む近畿地方に大きな被害はなさそうでした。それが、台風は次第に進路を変え、気がつけば近畿直撃の様相を呈してきたのです。筆者は12日の収穫を終えてから実家へ戻っており、間際に対策することは不可能です。なるべく被害なく通りすぎているよう願いながら、お盆明けに自宅へ帰りました。
しかし、願いもむなしく、樹はなぎ倒され、囲いの段ボールはちぎれかけるという、無残な光景を目の当たりにすることとなったのです。まさかこれほどとは思っておらず、見た瞬間は絶句してしまいました。
ただ、よく見れば倒れているのは「鶴の子大豆」だけ。「快豆黒頭巾」はしっかり立っているし、葉もかなり残っています。
これはどう考えても支柱のおかげでしょう。倒れてくる茎を支えるために支柱を立てていましたが、それが台風からも守ってくれることとなったのです。「鶴の子大豆」には支柱の必要がなかったことが、結果的にあだとなったのでした。
正直なところ、収穫がほぼ終わっている「快豆黒頭巾」より、これからの「鶴の子大豆」に助かってほしかったです。なにせ、まだ一つも収穫していないのですから。なんとか助かる道はないのでしょうか?
台風は避けようがないので、やむを得ないですね。農業をやっていれば何度かは遭遇するできごとです。
倒れたエダマメは、風で揺さぶられて根も浮いていると思われるので、回復は厳しいかもしれません。1週間ほど様子を見てしんなりしたままなら、無理に引っ張るより諦めて次に切り替える方がよいかも。
やはり倒れてしまったものは難しそうです。それでも「もしかしたら」の思いから、「鶴の子大豆」の倒れた樹を起こし、支柱に誘引して株元を押さえてやりました。しかし、すぐに鉢の倒れた樹が枯れ始め、数日後にはプランターも同じようになってきて、だめなのは明らか。なんとか充実した莢を探して収穫しましたが、本当にわずかで、あっけない幕切れとなってしまったのでした。
出だしこそつまづいたものの、記録的な大雨で予定が狂わされたり、とにかく暑すぎたり、異常気象続きだったわりにはよくできていたと思います。写真がうまく撮れなくて伝わらないかもしれませんが、カタログと同じように莢がついていて、自分が作ってもこんなにとれるんだと驚いたぐらいでした。最後の台風がすべてさらっていったのが残念です。
早生から晩生まで3品種を栽培したことにより、結果的にリスクが分散できたし、よい比較になったと思います。
確かにリスク分散ができたのは大きかったです。少なくとも「快豆黒頭巾」は大成功といってよい出来でしたから。それに、早生品種は短い丈で莢をつけ始め、それ以降の品種はもっと生長してからになること、晩生品種には高温期のタネまきの難しさや、台風のリスクがあること、早晩生でさまざまな違いがあることを実感できました。
また、タネまきの際に過湿は厳禁だとか、支柱に誘引しておけば台風の被害を軽減できるとか、自分なりに学習したことも多かったです。こうやって、次の栽培に生かしていけばよいのですね。
料理は定番の塩ゆでのほか、ずんだ餅にも挑戦してみました。ゆでて砂糖を混ぜてつぶすだけという簡単な工程で、売っているようなずんだあんができて満足(笑)。できれば「鶴の子大豆」をダイズにして、みそを仕込みたかったですね。それは次に栽培したときの課題にしておきます。
今回は「ジャガイモ」「キュウリ」「エダマメ」の3品目を栽培しましたが、異常気象の影響を受けないものはなかったと思います。特に5月の大雨と8月の台風には翻弄されました。
栽培は、気候やアクシデントに対して、予想できる部分については先回りして対策しておくのが鉄則です。
「作物は、人の足音を聞いて育つ」と言います。限られた手間と時間の中で、できるだけ作物を観察することが次につながります。失敗もよい経験。楽しんでいきましょう。
ここ数年は、毎年のように異常気象だと言われています。もう「異常」な状態が、通常になっているのかもしれません。いろんな事態を想定して、ある程度のことには対応していく必要がありそう。そのうえで、楽しんで栽培していきたいですね。
2025年
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