農園芸ライター 久野美由紀
2024/07/29掲載
2023年秋冬の栽培品目として、前回はロメインレタスを取り上げました。今回は次に取りかかった、ダイコン栽培の模様をお伝えします。
葉根菜の栽培がまったくダメだった筆者も、この連載のおかげで、葉菜類は曲がりなりにも収穫までたどり着けました。なら、次は根菜類を…との希望に、豊作さんから提案されたのが、ダイコン「紅三太」と、次回ご紹介するカブ「スワン」です。
「紅三太」は一度取材したことがありますが、色合いの美しさが印象的で、ミニサイズだからプランターで作れないかなあ…などと考えていました。今回挑戦できるのは願ったりかなったり。タネまきに向けて、がぜんやる気が出てきました。
秋まきダイコンは、一般的に8月の終わりから9月にかけてまくイメージがあります。「紅三太」の適期表を確認したところ、播種期は9月頭〜10月中旬とのこと。この期間に、何回かタネまきすればよいのでしょうか?
播種できる期間は9月頭〜10月中旬ですが、その中でも作りやすいのは9月10日ごろです。年々夏の暑さが長引いており、適期表の範囲内でも、早い時期は残暑で発芽不良や生理障害が生じるリスクがあります。家庭菜園では無理をせず、一番栽培しやすい時期、作型を選んでください。
9月10日前後を目安に、1週間ほどあけて2回に分け播種するのがよいでしょう。特に今年は暑いので、あまり早すぎない方がよいかもしれません。
適期表の範囲内でも、特に作りやすい時期があるのですね。
早まき分は特に害虫の影響を受けやすいので、播種したらすぐネットで覆うことをおすすめします。コナガやカブラハバチの幼虫(真っ黒いイモムシ)が知らず知らずのうちにびっしりつき、そうなると芯まで食われるので被害甚大です。
ネット用の支柱には、曲げられる、または曲げ加工されたものを用いるとよいでしょう。「サンサンネット」を適当な大きさに切ってかけ、洗濯ばさみできっちりとめてください。
タネまきは9月10日前後、2回に分けて行うこと、まいたらすぐネットをかけること。この三つが特に注意する点のようです。
タネを入手し、「サンサンネット」はタキイネット通販で注文。支柱は曲げられるものを購入し、プランターの幅に合わせて調節することにしました。
1回目のタネまきをしたのは9月9日です。縦に伸びるダイコンに合わせ、プランターはやや深めのものを用意。培養土を入れてタネをまき、不在の間の水不足防止に底面給水トレイも使用しました。なお、「紅三太」の品種説明には、「株間×条間ともに15〜20cm程度」とあったのですが、このプランターで15cmも株間をとると、本数が少なくなってしまうので、株間10cm程度に狭めました。
「紅三太」は葉が比較的立つ品種なので、株間10cmでも大丈夫です。このサイズのプランターなら、4×2の8株分で問題ないでしょう。
続いて支柱立てとネット張りです。曲げた支柱をプランターの隅にしばりつけ、「サンサンネット」を被せて洗濯ばさみでとめれば完成。インターネットの情報を参考にしましたが、思ったより簡単にできて、害虫対策も万全そうです。
底面吸水とのことですが、ダイコンは最初に水が切れると直根の伸びが悪くなり、短くなったりまた根になったりします。初めだけは気をつけてください。
以降は気温の高い状態が続くと、肥料の吸収が旺盛になるので注意が必要です。極端な乾燥や過湿にならないようにしましょう。
発芽後に水切れすると、生育にかなり悪影響があるのですね。タネまき後数日は留守にするため、底面給水トレイにたっぷり水を満たしておきました。幸い、ひどい残暑の中でもトレイの水がなくなることなく、6日後にはすべてのタネが発芽して、青々とした双葉が展開しているのを確認できました。
この翌日の9月16日が、1回目をまいてからちょうど1週間後。2回目を行うことにしていたのですが、9月10日過ぎから真夏に戻ったかのような暑い日が続いていて、まいていいものか少し迷いました。
気候だけ見れば真夏の状況なので、まくのも躊躇しますね。しかし、あまり遅らせてしまうと、そんな年に限って急激に秋がやってきたりするので、判断が難しいです。
確かに、この後突然涼しくならないとも限りません。本来、秋野菜のまき遅れは厳禁のはずだし、予定通り行うことにしました。
キャベツやハクサイなど結球する品目には注意が必要ですが、今回のミニダイコンなどはそこまで神経質にならなくてもよいと思います。プランターに余裕があればあと1回、さらに1週間おいてまいてもおもしろいでしょう。
9月下旬ごろまでは、家庭菜園でも作りやすい範囲内ということですね。今回は、余分に作ると資材が足りなくなるので、やめておきましたが、また来年挑戦してみてもいいかもしれません。
2回目のタネまきはすべて1回目と同じように行いました。播種日だけが1週間遅れです。1週間の違いがどう影響するか、今後の比較も楽しみになってきました。
ダイコンの間引きは3回で、1回目は双葉が開いたとき、2回目は本葉2〜3枚のとき、3回目は本葉5〜6枚のときに行うのだそうです。9月16日の時点で、最初にまいた分は双葉が完全に開いていて、ちょうど1回目の間引き時期になります。葉がハート形をしていないなど、発芽不良のものを抜くとのこと。ほとんどがきれいに展開している中、1本だけ双葉がそろっていないものがあり、それを抜いただけで初回の間引きは終わりとなりました。
さらに4日後の9月20日、本葉3枚程度に育っていたので、次の間引きを行うことに。1カ所3本から2本にするのですが、生育の遅れたものはほとんどなく、間引く株を選ぶのに困るほどです。
また、2回目タネまき分の発芽も確認できました。まいた日は9月でも一番暑いぐらいで、影響が心配されましたが、幸い発芽率はまずまず。1回目のようにすべて発芽とはいきませんでしたが、発芽不良の株はなく、この時点で間引くものはありませんでした。
最終的に1カ所1本にするときは、全体の大きさがそろうように間引いた方が、生育のバラつきが出にくく、その後の生育もそろって育てやすくなると思います。
大きいものを残すのではなく、全体がそろうようにするのですね。
9月25日、1回目のタネまき分は本葉5枚ほどに生長したので、最後の間引きで1穴1本に。前回同様、そろいがよすぎてどれを抜いても大差ない感じです。結局、なるべく株間と条間が均等になるように、位置がずれたものを抜くことにしました。
また、2回目タネまき分は、本葉がまだ2枚程度で次の間引きには少し早かったのですが、数日作業できないため、この段階で1穴3本から2本にしてしまうことに。炎天下のタネまきでも影響はほぼなく、1回目分と同様にそろい良好なのはうれしい誤算です。
ダイコンは本来暑さに強い方ではなく、高温時に無理して播種すると、外観は正常に見えても、黒芯症状などの生理障害が出る場合があります。それだけ念頭に置いておいてください。
そして9月30日、本葉5枚より少し早めですが、2回目分の最終間引きを行いました。相変わらずそろいがよく、生育遅れの株は見られません。
一方の1回目分は、5日前に最終間引きを終えてから生育が加速しているようです。葉が育っているのはもちろん、株元がしっかりしてきて、そろそろ根が肥大しそうです。
後はこのまま待てば、ダイコンになってくれるはず。1プランター8株×2、計16株の収穫が待ち遠しくなってきました。
播種 | 間引き | |||
---|---|---|---|---|
子葉 (発芽不良のもの) |
本葉2〜3枚 (3本→2本) |
本葉5〜6枚 (2本→1本) |
||
1回目 | 9/9 | 9/16 | 9/20 | 9/25 |
2回目 | 9/16 | なし | 9/25 | 9/30 |
10月に入ると、さすがに長い夏も終わったようで、かなり涼しくなってきました。豊作さんからも「急に秋めいてきましたね。ようやく適温期になり、どんどん育っているかと思います」というメールをいただき、やっと秋野菜に向いた気候になったことを実感。底面給水トレイも外すことができました。
それにしても、間引きを終えると葉の生育が一気に加速しますね。9月にはまだ余裕のあったネットの中が、葉で一杯になってきています。
順調そうで何よりです。今年は猛暑がいつまでも続いたので、結果的に遅めの播種で正解だったかもしれません。
なお、底面給水は非常用なので、用土の量が多い場合はあまり神経質にならなくてもよいかと思います。加湿のほうが悪影響があるので。
その後も問題なく生長を続け、10月なかばには突如暑い日が続いたりしましたが、「紅三太」には影響なし。10月下旬になると、収穫のめどが立つほどに根が肥大してきました。小さいながらも、ちゃんとダイコンになってきています。
このように、後は収穫を待つばかり…のはずだったのに、やはり最後まで無傷とはいかないのが筆者の栽培です。前述した「10月なかばの暑さ」のせいか、20日すぎに同時栽培のカブにアブラムシが発生。洗い流すなどしても完全には駆除できず、11月初めには「紅三太」のプランターにも移ってきたのです。ホースの水をかけてみましたが、カブと同様、完全に取り除くのはさすがに無理です。
それだけではありません。なんと、1回目分の株にはアオムシ?までついています。季節外れの陽気のせいか、チョウが飛び回っていたのは知っていましたが、ネットを張っていれば大丈夫だと思っていました。おそらく、撮影などでネットを開けたわずかな隙に、入り込まれたのでしょう。
根は順調に肥大しているだけに、被害が拡大しないことを祈るばかりでした。
その後は秋の気候に戻ったためか、5日後の11月12日にはアブラムシの数もかなり減りました。アオムシも見かけないし、なんとか虫害も落ち着いたようです。
そして、1回目タネまき分の中でも生育のよい1株が、上へぐっと伸びてきていました。まずまず太っているし、これならばと試しに抜いてみることにしました。
根は先端部の方が肥大していて、一番太っている部分で根径約5cm、上の細い部分は4cmほど。品種説明には5cmと書いてあったので、もう少し太ってほしかったのですが、それでも間違いなくダイコンになっています。2回目分の根もかなり育ってきたし、後は順に収穫していけそうです。
順調に1個体収穫できて何よりです。
通常なら9月上中旬まきの場合、45日〜50日で収穫になるのですが、今回は葉が大きくできているので、その分根の肥大のタイミングが遅れたのでしょう。栽培日数的には十分なので、根径5cmを待たずに少し小さめ(根径3〜4cm)でも試しに収穫してみてください。極端に収穫が遅れると、ス入りのおそれがあります。
尻太になっているのは、やや過熟ぎみのためで、品種特性でもあり何ら問題ありません。生育期間の温度が高かったので、熟期も進んだと思われます。
下の方だけ太くなっていても、特に問題ないのですね。確かに、味はえぐみや辛みがなくておいしいし、彩りもきれい。スライスしてしまえば、尻が多少太くても関係ありません。
翌週には2回目分の収穫が始められ、その後も肥大したものから少しずつとっていきました。ここまで、1回目分は尻太ぎみながらよく肥大し、2回目分はすんなりしているけれど小ぶり、といった感じに見えます。
11月末までに半分近くをとり終え、プランターも寂しくなってきました。葉も心なしか元気がなくなってきた気がします。もう栽培も終わりかな…と思いながら近寄ってみると……。そこには見たくない光景が広がっていました。「サンサンネット」の表面には、内部に入り込もうとして阻まれたアブラムシが、何十匹もくっついていたのです!
しかも上からだけでなく、ネットの裾から入り込もうとした痕跡も残っています。ネットを開けてみれば、葉はすっかりアブラムシにとりつかれていました。元気なく見えたのはこのせいでしょうか。どんなにぴっちりネットを張っていても、わずかな隙間を見つけて侵入してくる。アブラムシの嗅覚というか勘というか、そういうものにある意味感心してしまいました。
1カ月ほど前に発生したとき、「紅三太」のプランターにそれほど被害はありませんでした。そして、その後は気にならない程度にまで減っていたのです。ただ、カブのプランターではなかなか被害が収まらず、ベランダに残っていたアブラムシが、12月とは思えない陽気のせい?で勢いを増してきたのかもしれません。一応ざっと洗い流してみましたが、大した効果はなさそうでした。
12月までアブラムシの発生が見られるのは、よほど温度も含めた環境がよいのかもしれません。普通はもっと早めに収まるはずなのですが、ベランダではコンクリートが日当たりで蓄熱し、さらに「サンサンネット」で保温され、結果的に高めの温度下に置かれることになったのでしょう。
アブラムシの被害はなかなか収まらず、そのせいか葉は徐々に元気を失っていきました。それまでは、プランターに残しておけば順々に肥大していたのですが、このころからはほとんど変わらなくなりました。さらに、突然の寒波襲来もあって勢いはガクンと衰えたため、クリスマスごろに小さな株をまとめて収穫。「紅三太」栽培は終了となりました。
結局はアブラムシが蔓延してしまいましたが、12月初めまでにとれたものはそこそこ肥大していました。それは、暑い時期を虫害なく乗り切れたからで、「サンサンネット」の効果は大きかったと思います。
「サンサンネット」のような防虫被覆資材は、やはり必須でしたね。栽培にどこまで手間と経費をかけられるかは、個々の判断になりますが、害虫の被害が出たときのダメージや手間を考えると、毎日管理できない場合などは特に被覆資材は使った方がよいでしょう。再利用もできますしね。
大小こそあれ、植えた16株はすべて収穫できたし、まずまずの結果といっていいんじゃないでしょうか。
経過の写真を見た限りでは、アブラムシの被害はあっても順調に生育していたと感じました。
収穫後半は勢いが衰えたとのことですが、播種日からして12月に入ると過熟になり、寒さ傷みで味も落ちてきます。12月上旬ころが最終と考えてよいのではないでしょうか。
12月に入ってから衰えたのは、アブラムシの影響というより、適期収穫の範囲を超えたのが大きかったということでしょうか。それでもス入りしたものはなく、最後まで楽しんで食べられました。
毎回すべてスムーズには行かないのが栽培ですが、何度か経験するうちに、作型や水やりのタイミング、管理の守るべきポイントが分かってきます。次回に生かすべく、このように記録を残しておくとよいでしょうね。
とれたものは、主にサラダの彩りに使いました。「ロマリア」のシーザーサラダに、スライスした「紅三太」を数枚散らしただけで、鮮やかさが増すようです。根径4〜5cmというのも、こうして使うのにちょうどいい大きさ。食べるとパリッとした歯ごたえが感じられ、ほかの食材とは違う食感が楽しめます。
また、「紅三太」のスライスを主役にしたダイコンサラダは、さっぱりとした味わいで、何度も食べたくなるおいしさでした。
アブラムシには少々メンタルを削られましたが、総じてよい結果といえる「紅三太」栽培でした。
今回挑戦したもう1品目、カブ「スワン」栽培の模様は8月5日(月)に更新する予定です。
どうぞお楽しみに!
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57