兵庫県南あわじ市 株式会社広瀬青果 伝統の淡路タマネギ独自のブランド展開で「ケルたま」の販売拡大を図る南あわじ市広瀬青果の戦略

2020/07/20更新

地域概況

養宜のタマネギ

南あわじ市におけるタマネギ栽培の歴史は古く、明治21年ごろの「泉州玉葱」導入から始まりました。大正時代には大阪泉南郡の栽培技術を基にした淡路方式の栽培技術が確立し、経済栽培が実施されていきます。戦後は栽培面積を拡大。昭和39年収穫面積は3,000haに達し、日本一の生産額を誇る地位を築きました。

兵庫県南あわじ市
茎部の重なりの幅が詰まっている方がいいタマネギになるという。
茎部の重なりの幅が詰まっている方がいいタマネギになるという。
6月上旬、倒伏をはじめた「ケルたま」。
6月上旬、倒伏をはじめた「ケルたま」。

広瀬青果の栽培と経営

株式会社広瀬青果(南あわじ市八木養宜上)を率いる広瀬哲典社長は当地で4代続く地元生産者でもあります。3代目の父、寿さんから引き継いだ広瀬青果を、平成29年に株式会社化。自社農場の総栽培面積28haでタマネギのほか、ハクサイ(8ha)、キャベツ(8ha)を生産されています。メインであるタマネギの栽培面積は11ha。広瀬青果のタマネギ青果の取扱高は契約農家分と合わせて年間2200t。淡路島では最大規模です。

タマネギは自社産の皮付きのレギュラー品以外に、加工用のむき玉、徳島産や北海道産も扱っており、周年の取り扱いを実現しています。また、ハクサイはキムチの材料に、年間10万ケースの出荷実績があります。鉄コンで出荷されるキャベツは「夢ごろも」「夢舞妓」「彩音」といった寒玉系で、お好み焼きやたこ焼きの材料として実績を重ねておられます。

広瀬青果の栽培と経営
広瀬社長を挟んで右に長男の康旭さん、左に次兄の詳大さん。兄弟とも社長の勧めでタキイ園芸専門学校を卒業した。タマネギ生産日本一をめざし、将来は自社の加工工場をもって海外への輸出も果たしたいと兄弟の夢は大きい。

広瀬さんの商売の基本は契約取引前提の農業です。そこには株式会社化し従業員を雇うために「自分の設定した金額で売りたい」という考え方があります。そのためには市場に物がないときでも得意先にしっかり手当てをする。例えば市場の相場が200〜300円高く関東産がひと箱12sしかないときでも、広瀬の箱には18s入っていて、しかも外葉は取ってある、というように箱数を稼ぐのではなく契約先が歩どまりのよいしっかり計算できる内容で納入することで担当者の信頼を得ていれば、市場価格が安くなっても必ず注文が来るといいます。

「ほかが80%の歩どまりのときに広瀬は105%で出荷する」となれば、私が担当者でも間違いなく発注をかけるでしょう。さらに天候予想や他産地の情報を得て先を読むことも大切。今年は寒くなると思えば契約先の生産者に5日早まきをすすめる。他の生育が遅れる中、高値の荷物を載せて毎日トラックで出荷していく姿を見せれば、生産者の信頼も得られ荷物は集まってきます。川下と川上双方の信頼の積み重ねが社長の商売の信条です。

集荷されたむき玉ネギ
集荷されたむき玉ネギ
昨年産の冷蔵貯蔵された「ケルたま」。尻部も全く動いていない。
昨年産の冷蔵貯蔵された「ケルたま」。尻部も全く動いていない。

「ケルたま」を世に出したい

ケルたまの栽培は2ha、9月25日播種の12月10日定植がメイン。
ケルたまの栽培は2ha、9月25日播種の12月10日定植がメイン。

広瀬さんのメインはやはりタマネギ。品質の高い淡路のタマネギがしのぎを削る中で広瀬さんがこだわるのは「さらにプレミアムな付加価値を持ったタマネギ」。品質とおいしさ、そこに「機能性」も加えたい。広瀬さんの理想とする「自分で売値を設定できる」取引を継続するためには必要な要素です。

タキイの「ファイトリッチ」シリーズにラインナップされる「ケルたま」は、ケルセチン成分が強化された晩生の機能性タマネギです。この品種にほれ込んで以来、「何とか知名度を上げてブランドとして確立したい」と販売手段を考える日々。タマネギは1年通じて売れる野菜。晩生品種は栽培時間がかかると同時に収穫が梅雨時期にかかってしまう。かといって早く定植しては病気のリスクも高い。難しい作型で栽培するにはプレミアムな価格販売での実現が必要だというわけです。

「同業者にも『ケルたま』を扱ったものの、やめていった者もいましたが売り方が悪いだけ。せっかく意欲的な品種を開発した育成者のためにも、消費者の口に入るようにすることが私たち青果を扱う者の仕事です」という広瀬さん。「ケルたま」については一部の量販店では品種名を明記し、「加熱調理向きのタマネギ」として差別化販売されています。「ケルたま」を導入して今作で5作目。50aの作付けでスタートした「ケルたま」の栽培面積は現在2haに拡大。今年は引き合いも増え昨年の面積では足りないといいます。

「ケルたま」の魅力を伝えて、世に出していきたいという広瀬社長。
「ケルたま」の魅力を伝えて、世に出していきたいという広瀬社長。
ケルたまは仕上がってから一気に倒れる傾向がある。
ケルたまは仕上がってから一気に倒れる傾向がある。

機能性をアピールして「ケルたま」加工品の展開

晩生で長期貯蔵がきく「ケルたま」。「ケルたま」の加熱調理でのおいしさに着目し、加工品での販売も力を入れています。2018年には「ケルたま」の「たまねぎスープ」と「味噌汁」を開発、販売を始めました。特にベジタリアン向けに動物性原料を含まないものとし、独自のロゴを用いてアピールされています。こちらも、関西スーパーさんなどの量販店へ納めるほか、道の駅やネット通販を通じて直販も行い、好評を博しています。2019年には「ケルたま」の機能性をアピールするために、「ケル玉の誘惑ドレッシング」も発売され、これらには「ファイトリッチ」のロゴも記されています。

加工品販売にも力を入れる一方、日々販売先には食べ方も提案する広瀬さん。「ケルたまのハムカツはすごくおいしい。夏場のソテーは甘さがくどくて少ししつこいけどカレーには絶品。私のお勧めはアメリカで定番のオニオンブロッサム。大玉のケルたまならボリューム感がありますよ」。

広瀬青果の「オニオンスープ」「お味噌汁」「ドレッシング」など。ちなみに「丸に寿」は広瀬青果さんの屋号。
広瀬青果の「オニオンスープ」「お味噌汁」「ドレッシング」など。ちなみに「丸に寿」は広瀬青果さんの屋号。

「まだまだケルたまは世に出せると思って頑張っています」という広瀬さん。タキイには今後も晩生品種以外のファイトリッチのタマネギの育成に期待を持っておられます。

昭和60年、3000haの栽培が淡路タマネギの最盛で、現在は半分程度に面積に減少する中、生産力を高め、量と機能性の両方でプレミアムなアイテムにしていくことを目標に日々販売を伸ばしておられます。