2020/07/20掲載
JA太田市管内は群馬県の南東部に位置し、標高30mから100mの穏やかに傾斜した大間々扇状地です。気候は気温平均15℃前後、降水量は年間1,100mm程度で利根川水系の豊かな水と水はけのよい平坦地から、さまざまな園芸作物が栽培されています。
農産物は、米麦を主体にネギやホウレンソウ、小玉スイカなど多彩な野菜類が生産されています。中でも春作は京浜市場を中心に出荷されるハウス栽培の「藪塚こだま西瓜」が有名で、後作として夏場にコマツナ、秋冬はホウレンソウの生産体系が確立してきました。
現在は回転が早く収益が高いホウレンソウを施設栽培だけでなく、露地栽培も含め、周年で栽培する生産者も増えています。J A太田市野菜センター運営委員会ホウレンソウ部会は出荷登録109名を数えます。センターの売り上げは昨年度37億円で、うちホウレンソウは18億円を占め、スイカの3億4000万をすでに大きく上回っています。ホウレンソウはハウスと露地がありますが、年間4回転が平均の作付けです。ホウレンソウが苦手な夏は1作コマツナを挟むこともあります。
通常7月にスイカの収穫が終わり、土壌消毒ののち8月の盆過ぎから後作が始まり、コマツナのあと、9月からホウレンソウがスタートという流れです。周年でホウレンソウをされる方や、コマツナを挟まず高値が見込める7〜8月にホウレンソウをまかれる方も増えています。しかし高温時には現在の主力品種も葉色が抜けてしまいますが、「タフスカイ」は夏期の安定した葉色が評価されています。
「盆時期に生育が止まってしまう品種もありますが、この品種は止まらない。5回転をねらうには30日で仕上がってほしいところですが、35日では仕上がりますし、夏場には十分な品質です」とは、JA営農部営農指導課担当の石川純也さんの評価です。
「とにかく発芽ぞろいがよくて、作りやすい品種だね」
こう話していただいたのはJA営農部営農指導課小沢恭平さんです。当地でのねらいどころとしては1〜3月出荷に向くのではないかと感想を持たれていました。
ホウレンソウ部会部会長の清水利行さんは、ハウスを36棟で85a、露地作90aの面積を4名で管理されています。作業の省力化とスピードアップに6条播種機を活用されています。機械による播種では1粒落としも覆土も均一に行えます。機械は一定で発芽ぞろいにも好都合だといいます。
「ホウレンソウは発芽半作以上で、一斉に発芽してくれて生育がそろえばあとは生産者の腕の見せ所。この品種は発芽と生育のそろいが抜群にいいから楽ですね」
昨年関東に被害を与えた台風19号が10月12日に襲来以降、秋は連日の雨続き。そうした条件下でも「福兵衛」はきれいに回復してきたと根の強さと栽培性の高さを感じていただけました。実際、ハウスでの草姿がどの品種よりもきれいに感じました。また、株張りがよく作業性のよさも特筆でき、収穫や調製作業に入る研修生にもよい印象を持たれています。
清水利行さんは10月5日、10月21日、24日播種分で「吉兵衛」も試作いただいていました。5日まきの「吉兵衛」は葉色が濃く、軸が短くがっちりした草姿に仕上がっていました。
「吉兵衛」は当地の主力品種より4日ほど仕上がりに日数を要したもののしっかりしたものがとれ発芽もよかったそうです。「タキイのホウレンソウは調製作業で軸が折れにくいことが共通している。立姿で収穫が早いし、葉が多いと調製でどの葉をとっていいのかわからない実習生もいるからありがたい。昔と違って収穫後、品温を下げるため冷蔵庫に入れてしまうので折れやすい品種は困りますから」
まだまだ「吉兵衛」は試作1年目で作型のどこにはまるか手探りの状態ですが、前述の石田さんは「吉兵衛」はハウスの1月中旬〜3月が使いどころで、Sサイズ以降じっくり伸びる特性を生かした作型がいいのではとの見立てでした。
「今は一株ずつをしっかり作ってごみを少なくするほうがいいですね。ハウスでも露地のように風通しをよくしてじっくり作っても箱数は出ます。特長がある品種の方が栽培に入れやすいと思いますよ」と、ベテラン指導員の目線で話していただけました。
管内でもハウスか露地、生産者の経営や考え方によって好む品種特性や使いどころは異なりますが、作業性や根張り、株張りのよさ、発芽ぞろいなど、「吉兵衛」を加えたタキイの特長あるホウレンソウがJA太田市のホウレンソウをさらに安定した特産品に寄与できるのではと感じられました。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57