2018/02/20掲載
2017年6月7日、熊本県菊池郡菊陽町に「タキイ熊本研究農場」を開設いたしました。タキイでは国内7番目、九州初となる研究農場では、九州に適した品種育成がその大きな目的です。露地栽培圃場が2.3ha、ハウス15棟、研究建屋が1棟の全面積4.7haの規模です。当農場は熊本市の東側に隣接し、阿蘇熊本空港から15分、九州自動車道熊本ICから約20分と、アクセスしやすい場所にあります。土壌は阿蘇山系のクロボク土壌が深く堆積し、野菜栽培に欠かせない地下水も豊富です。
育種を手掛ける品目は「トマト」「ニンジン」「レタス」が当面の中心ですが、開設後のお披露目オープンデーとなった11月14~15日の2日間は、現在九州の産地で展開するタキイ優良品種各種を展示。ご招待した九州の得意先である種苗店関係者様や、JA関係の生産者様、九州の試験場、普及センター様など、参加者の注目と期待を集めました。オープンデーを彩った品種を紹介します。
展示ハウスで賑わったのはトマトの展示ハウスです。現在熊本で本格導入が進む大玉トマト「桃太郎ホープ」は、「桃太郎ピース」とあわせて八代でもシェアを高めています。どちらもTYLCV耐病性Ty-3a型をもち、黄化葉巻病に強い品種です。低温伸長性にすぐれ促成・抑制長期に適する「桃太郎ホープ」は糖酸比のバランスがよく桃太郎としての良食味を十分に備えていることで評価されています。またミニトマトでは同じくTYLCV耐病性Ty-3a型の「TY千果」は玉名などミニトマトが多い産地で注目を集めていました。
トマト展示ハウスに隣接するハウスでは「PC筑陽」が栽培されていました。「PC筑陽」は九州で主力品種の長ナス「筑陽」タイプで、促成栽培での作業時間割合の25%を占めるといわれる着果処理を削減可能です。九州では福岡や佐賀県で導入が始まっています。
機械収穫に最適で!熊本や長崎で人気の年内~冬どり品種の「翔馬」と「優馬」。
太りとそろい、肌つやのよい早生種の「翔馬」は年内どりで立性の草姿。「優馬」は耐寒性が強い冬どり種で葉の耐寒性にすぐれる品種です。
育成中の品種展示では暖地春どりトンネル栽培に向く品種が注目されました。「TCH-755」は晩抽で草勢が大人しく葉勝になりにくく低温着色にすぐれ尻詰りのよい早生タイプ。「TCH-756」は晩抽で栽培性の安定した春夏兼用種で割れにくい中早生種。どちらもしみ腐病に強くこれからの導入が期待されています。
業務加工用の需要が伸びる中で、契約栽培の増加と産地リレーが確立しつつあります。実需者側は周年安定供給とリスク分散のため、鹿児島、熊本のような「大産地」からの供給に加え、「中小産地」(宮崎、長崎、佐賀)の新規産地での作付けも増えています。価格も安定していますが、これには品種と栽培技術の向上も寄与してきました。タキイでは寒玉系品種として定番の「彩里」「おきな」「夢ごろも」に加え、端境期の4月どりを狙う新品種の「夢舞妓」や5月出荷が可能なYR若空、年内出荷可能の中生種「TCA-540」、冬どりで良食味の「TCA-422」などを展示しました。
タキイの新シリーズホウレンソウが続々登場。ベと病レース12抵抗性をもつ新シリーズは、作業性と収量をさらに両立させました。「TSP-525」は秋冬どり、「TSP-526」は春秋どり、「TSP-536」は夏どりの品種です。これらの品種はすでに一部試作もされ、参加者の中にはその評判を聞きつけて、注目される方も多くみられました。発売間近の3品種を皮切りに、バリエーションを増やしていく予定です。
日本の消費者は野菜の国産志向が強いものの、全国的に農業就業人口や栽培面積が減少しています。そうした中、九州では熊本県は冬春トマトが全国一位の出荷量を誇り、ニンジンは長崎県が作付面積6位、熊本県が7位、宮崎県が9位、鹿児島県が9位と続き、レタスは福岡県が5位、長崎県が6位、熊本県が9位といったように野菜供給基地として役割は高まっています。九州は5ha以上の経営体数の増加率が全国を上回り、販売金額規模別でも1500万円以上の経営体が増加しています。また、九州は農業就業人口の割合が大きく、さらに農業就業人口を上回る農業産出額を生み出しています。
こうした九州産地に近いアクセスで、九州の気候、土壌を肌で感じ、より産地からの情報や試作のフィードバックを積み重ね、優良品種を開発していきたいと思います。
2024年
春種特集号 vol.57
2023年
秋種特集号 vol.56