のうぎょう最前線

今冬も青果物の価格は高騰するのか
〜青果物高騰時代に備える〜

2024年から2025年にかけて報道を多く耳にされたと思います。青果物における価格高騰のニュース。消費者が野菜の高騰による悲痛の声を訴えていたのが印象に残ります。その報道の一方で、生産者側に目を向けると、野菜が高騰したからといって儲かっている訳ではありません。むしろ資材費と人件費の高騰や天候不順による収量の減少と、経営は以前に増して厳しくなりつつあります。地球温暖化による異常気象は、もはや「異常」ではなく「常態」となりつつあり、食に関わる業界全てがこの問題に直面しています。
今回は、生産・加工・流通現場での対応は始まっているのか、農業法人と青果卸会社、加工工場の3つの視点を持つ株式会社坂東商会代表取締役社長 飯村誠治(いいむら せいじ)さんに、この青果物高騰時代とどう向き合っていくべきなのかお話を伺いました。

農業専門ライター 鈴木雄人(すずき ゆうと)

農業専門ライター 鈴木雄人(すずき ゆうと)

茨城県石岡市出身。農学部を卒業後、青果卸会社に就職。全国の生産地を周り、現地で得た生産者のためとなる情報を発信することで、「農業界を盛り上げていきたい」という気持ちが強まり、約2年勤めたのち退職。現在は、車中泊で全国の生産者の元を訪れ現地で得た情報をSNSやブログで発信する。
https://harenotiagri.blog/

近年の青果物の状況

まず初めに、2025年4月30日に農林水産省から発表されたデータを基に、2024年の動向を見ていきたいと思います。

野菜

国内の卸売市場における野菜では、2024(令和6)年の卸売数量は817万tと前年(854万t)に比べ約4%減少。その一方で、青果物卸売市場における取扱い金額である卸売価額は21,688億円で、前年に比べ7%増加しました。1kg当たりの平均卸売価格は266円で、前年に比べ12%上昇しています。

野菜

国内の卸売市場における野菜

資料:農林水産省統計部『青果物卸売市場調査』(以下同じ。)

果実

国内の卸売市場における果実では、2024年の卸売数量は234万tで、前年(257万t)に比べ9%減少。その一方で、卸売価額は11,226億円で、前年に比べ3%増加しました。卸売価格はs当たり480円で、前年に比べ13%上昇しています。

果実

国内の卸売市場における果実

キャベツの1年間の推移

価格高騰によって、ニュースでも多く取り扱われていたキャベツ。データによると、2024年の春ごろと2024年の冬ごろから2025年の春ごろまで価格が高騰しており、前年比や平年比を大きく上回る結果となりました。

キャベツ卸売価格(東京都中央卸売市場)の推移
2024/01/05 〜 2025/05/01

キャベツ卸売価格(東京都中央卸売市場)の推移

その一方で、市場流通量はというと、前年に比べて約25%減。グラフからは前年とそこまで変わらないように見えますが、キャベツは通年を通して安定した需要がある品目となるため、生産量が少し減少しただけで大きく市場に影響を与えてしまいます。

青果物卸売市場調査(旬別卸売数量・価格動向)(東京都・キャベツ)

青果物卸売市場調査(旬別卸売数量・価格動向)(東京都・キャベツ)

青果物の価格高騰を引き起こす要因

これらの主な要因には下記が挙げられます。

天候不順

猛暑や少雨

夏場の猛暑や雨不足は、葉物野菜(レタス、ホウレンソウなど)や果菜類(トマト、キュウリなど)の生育不良を引き起こす。結果として出荷量の減少につながる。

長雨や台風

大雨や台風は、畑へのダメージや日照不足をもたらし、作物の品質低下や収穫量減少につながる。

猛暑や少雨

冬場の気温が高いと、生育が前倒しになり一時的に安値になることもあるが、その後、本来の旬の時期に出荷量が減少し、価格が高騰することにつながる。また、病害虫の発生を引き起こす可能性も。

生産コストの上昇(円安の影響も含む)

燃油価格の高騰

ハウス栽培で使用する暖房用の燃料費や、農業機械や輸送用の燃料費が上昇。生産コストを押し上げることにつながる。

肥料や農薬価格の上昇

ウクライナ情勢などの影響を受け、肥料原料や農薬の国際価格が高騰。日本は輸入に頼っている部分が多いので、それに伴い国内価格も上昇につながる。

資材費の上昇

世界の物価上昇に伴い、ビニールハウスの資材や包装材など農業資材の価格が上昇。

人件費の上昇

日本人の最低賃金の上昇や、外国人実習生の賃金も上昇傾向。外国人労働者の雇用は国内の人手不足を補うためであって、決して安いから利用するわけではない。

農家の高齢化や後継者不足

高齢化によって減少する農業人口に比べて新規参入者が少ないこともあり、作付面積が減少。結果、生産量の低下につながる。その一方で、生産効率のよい農地は大規模経営の農業法人に集約化されているが、中山間地域の生産効率が悪い農地は耕作放棄地となる問題も見受けられる。

では、実際、これらの青果物の価格高騰に対して、どのような取り組みで対策を取る必要があるのでしょうか。

カット工場

現場の影響

天候不順により、経験豊富なプロの農家でさえ作物を安定して作れない状況が増えています。これは従来から、端境期にも同様の問題が起きていましたが、近年は、その頻度と度合いが増しているのが特徴です。

茨城県常総市にある(株)坂東商会(飯村誠治代表取締役社長)の場合では、加工用の野菜は自社農場である株式会社アグリードのほか、仕入れの約75%は外部の契約農家や産地から調達しています。契約農家が納品できないとなれば、市場で高値で仕入れてでも、顧客への供給責任を果たさなければなりません。

実際、2024年度は国産の青ネギが入手困難になり、輸入に切り替えざるを得なかったケースもあるといいます。

坂東商会のカット工場内でのパック詰め

坂東商会のカット工場内でのパック詰め

価格変動への対応は購入側の責任で

「長年のデフレマインドが根強く、コスト上昇分を販売価格に転嫁するのは非常に難しい状況」と飯村さんは指摘します。また、消費者が依然「ワンコインランチ」のような低価格志向の中で、仕入れ価格の変動を吸収しながらも、一定価格で販売し、利益を確保するのは容易ではありません。

しかし、坂東商会では、以前から仕入れができなくなるリスクを感じ、生産者との関係構築や産地の多様化を進めてきました。それに加えて、自社農場を設立し、自分達の青果物を生産する体制を整えているといいます。

飯村さんは、目先の価格変動に一喜一憂するのではなく、長期的な視点で信頼できる生産者との関係を維持し、複数の仕入れルートを確保することで、変動のリスクを軽減。さらに、「天候不順で出荷できないのは仕方がない」と生産者の状況を理解し、長い目で利益がプラスになればと無理な要求をしないことを重要視します。

責任を購入側で持つ姿勢が生産者との信頼関係につながり、結果的に安定供給につながっていると見ているといいます。

 

青果卸

現場の影響

青果卸は、生産者から品物が入ってこなくても、取引先に約束通り納品する必要があります。契約によっては、不足分を高値で仕入れて納品することになり、大きな損失を被ることもあるといいます。

飯村さんは、「うちだけではないと思います。他の卸や商社も同様の責任を負っている。欠品させないために、中間業者である我々が赤字を被ることもある」と、その厳しさを語ります。

その一方で、以前は、不作の時期があっても他の時期でトータルで見た時にカバーでき、年間を通せば利益を確保できていました。しかし近年は、「あらゆる価格のバランスが崩れ、異常気象による不作や相場変動が頻発し、年間をトータルで見た時にマイナスになるケースも出てきている」と、今までにない状況の深刻さを指摘します。

また、卸売事業は加工事業などに比べて利益率が低い傾向にあり、青果物だけでなく、物流費のコスト上昇も経営を圧迫する傾向にあるといいます。

価格変動への対応は産地へ足を運ぶこと

生産者と実需者(販売先)の間に立つ青果卸として、「単に市場で買ってきて右から左へ流すだけでは、もう成り立たない」と危惧します。その中で重要なのは、自ら産地に足を運び、生産者との関係を築き、「産地を開拓していく」こと。どこで、誰が、どんな品質のものを、どれくらい作れるのか、という情報を掴み、安定供給につなげる努力が必要となります。

また、仕入れ先の選択も幅を広げています。農協経由の仕入れだけに頼っては、「必ずしも効率的ではない」と判断し、生産者や産地との直接取引や自社の生産法人での生産を強化しているといいます。

農業生産

現場の影響

生産現場では、燃料、肥料、資材などのコスト高騰が経営を直撃しています。それにもかかわらず、天候不順で青果物が上手に育たず、売上すら上がらないことも少なくありません。

その一方で、生産量を増やして作業効率を上げたり、作業の単純化によって効率化を進めたりと、工夫することはまだあります。実際に、(株)アグリードでは生産規模は拡大傾向にあり、それに伴い作業の効率化や作業の単純化を推し進めているといいます。

とはいえ、栽培そのものに関しては、さらなる異常気象によって、将来作れなくなるのではないかといった不安は生産者の誰もが抱えている点です。価格高騰時は商品が手元にあれば売上を上げるチャンスにつながりますが、天候不順によって収穫量が減少することも考えると、農業経営のリスクを生産者は以前より感じているといいます。

株式会社アグリード

2010年創業。茨城県常総市。株式会社坂東商会の関連会社として設立された農業生産法人。約15ヘクタールの農場でキャベツやレタス類、ネギ類などを生産。取引先の要望に応じて、特別栽培や有機JASにも対応する。
ホームページ:http://ibarakiaglead.com/

株式会社アグリード

価格変動への対応

全国的な天候不順やコスト高騰を受け、「契約栽培よりも相場を見て出荷した方が有利ではないか」と考える生産者や産地の声も聞かれます。これに対し飯村さんは、「契約をやめて相場出荷がよいと言う人は、おそらく今の契約条件に満足していないだけ。」と自信の見方を示します。

契約単価が見直され、再生産可能な価格が保証されれば、生産者は再び安定した契約栽培を求めるはずです。今後は、上昇する生産コストを考慮した「再生産可能な価格」での取引を、生産者側から話を出し、実需者側と協議していくことが重要になります。

実際、アグリードの生産品目はほとんどがグループ内にはなりますが坂東商会(カット工場)へ出荷しており、契約での販売となります。手数料や箱代などを含めて考えると相場が高くても市場出荷はそこまで旨味はない」という経験から、相場というリスクを取るよりも、契約で安定した販路を構築し、なるべくリスクの少ない農業経営を目指している飯村さんの考えがあるようです。

むしろチャンス到来

加工会社、青果卸、生産法人の3つの視点から青果物の高騰とどう向き合っていくのか

この厳しい状況を、飯村さんは「むしろチャンス」と捉えています。

「農業流通も変わる時期が来た。ここで変われなければ、また元の状態に戻ってしまう。生産者だけでなく、実需側にとっても、適正な価格を実現するチャンスです」

その中で、今後の各事業体の役割については、「よそにできないこと」を追求し、他との差別化の必要性を強調します。

飯村代表取締役社長

飯村代表取締役社長

加工会社

技術力を高め、顧客の細かいニーズに応える付加価値の高い商品を提供する必要がある。人手不足時代のソリューションとしての価値を高めることを目指す。

青果卸

市場任せにせず、自ら産地を開拓し、生産者との今以上の関係を構築する必要がある。情報収集力を高め、変化に即座に対応できる姿を目指す。例えば、買い物困難対策として移動スーパー事業を展開するなど、単なる卸売にとどまらない新たな取り組みも必要になるかもしれない。

生産法人

市場ニーズに基づいた「売れるもの」を簡略的に効率的に生産し、コスト管理を徹底して安定供給を目指す。生産品目の取捨選択を早いスピードで判断。

また、これら生産から販売までのサプライチェーン全体で効率化と価値向上を図ることが、価格高騰時代を乗り切る鍵となるのではないかといいます。

それに加えて、「異常気象を見越した産地の変化にも対応が必要」と飯村さんは生産者側へリクエストをいいます。

「これまで作れていた場所で作れなくなり、産地が北上。サツマイモが北海道で作られる時代です。実需側は広い視野で新たな産地を開拓し、我々から気候やニーズに合わせた新しい品目を提案していく。生産者も新たな可能性を考え品目の検討をする必要がある。国や県に頼るのではなく、自分たち自身でトライすることも大切」と、主体的な行動の重要性を訴えます。

今後の価格について

最後に、今後、野菜や果物の価格は安定していくのか尋ねたところ、飯村さんは悲観的な見方を示しました。

「国がもう少し関与しない限り、この不安定な状況はずっと続くと思います。他の先進国のように、最低価格の維持など、何らかの形で国がコントロールしないと、生産者が疲弊してしまう」

今春からまき起こった令和の米騒動を見ていても異常気象だけでなく、自由競争によるデフレと、現在の物価高騰・コスト増という歪みが、業界全体を苦しめている構造的な問題であり、国の政策転換がない限り、価格の不安定さは続くと予想しています。

野菜の高値傾向は複合的要因

青果物の価格高騰は、天候だけでなく、長年のデフレ、生産コスト上昇、流通構造、国の政策など、様々な要因が絡み合った複合的な結果問題です。

飯村さんが指摘するように、個々の企業の努力だけでは限界があるかもしれません。「国の関与もないと、みんな疲れちゃうよ」という言葉は重く響きます。

生産者、流通業者、加工業者、そして私たち消費者が、それぞれの立場で現状を理解し、協力し、持続可能な食の未来のために、社会全体の仕組みづくりを考えていく必要がありそうです。青果物を取り巻く環境は今後も厳しいかもしれません。それでも、変化を恐れず、知恵を絞り、誠実に向き合うことでしか、道は拓けないのではないでしょうか。

キャベツ写真
×

タキイ最前線のバックナンバーをご覧いただけますタキイ最前線のバックナンバーをご覧いただけます