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  • 悠々自適の菜園ライフ 〜リタイア後の野菜栽培プラン〜 第3回 直売所出荷野菜栽培の基本 連作障害を回避する輪作と病害防除対策

悠々自適の菜園ライフ 〜リタイア後の野菜栽培プラン〜

定年退職後に野菜栽培を始められる方は多くいらっしゃいます。直売所へ出荷することを目的とした野菜品目の紹介や栽培技術に加え、悠々自適に菜園ライフを実践されている方々の実例にも触れて、趣味で始めた野菜作りを年金以外の実益にするためのノウハウを詳しくご紹介します。                     
※文中で紹介の資材などはタキイでは取扱いのないものもございます。(編集部)

2019/07/22掲載

農業・園芸研究家

町田信夫(まちだ のぶお)

昭和47年より群馬県高冷地の野菜担当普及員を7年、その後キャベツを中心とする園芸試験場高冷地試験地で試験研究に従事し、普及、農家指導などを実践。さらに中山間地域(標高100〜900m)の利根沼田普及、富岡地区農業指導センター、中山間地園芸研究センターを経て退職。現在、長野県の自宅で各種野菜や果樹を栽培出荷する。

町田信夫(まちだ のぶお)
第3回

直売所出荷野菜栽培の基本

連作障害を回避する輪作と病害防除対策

直売所に出荷する作物を決め、しっかり作付け計画を立てましょう。
そして、栽培する作物に予想される病害の防除をすることが大切です。

1.直売所に出荷する作物を決める

売り場のメインとなる野菜は、直売所などの売れ筋、食文化、土質・気象条件・標高や緯度を考慮し決定します。目新しい作物は、消費者の年齢や地域性を考慮しないと売れ残る可能性があります。

2.作付け計画を立てる

直売所に出荷する野菜は、連作障害回避と低コスト化のために輪作をします。
導入作物と主要病害虫および栽培面積を考慮して、計画的に作付けします。しかし経年的に難防除病害虫が発生する場合があるのでその際は、病害虫の実態を判断して対応策を講じます。下の図は私の畑で実践している輪作モデルです。

筆者の畑で実践している輪作モデル①(全体で600㎡)

ネギ、サツマイモ、ジャガイモ、ダイズを作り、病害を発生させないように3年輪作を心掛けています。現在まで10年経過していますが問題となる病害は発生していません。ただし、必要最低限の薬剤防除はしています。

筆者の畑で実践している輪作モデル①

予想される主な病害、病害虫(赤字は、土壌消毒などの薬剤が効きにくい難防除病害虫)

予想される主な病害、病害虫

筆者の畑で実践している輪作モデル②(全体で1000㎡)

連作障害が発生しないように共通病害のない、えん麦野生種(イネ科)を含み3〜4年輪作を心掛けます。本畑は、10年以上輪作をしておりバーティシリウム菌(種バレイショより本畑侵入)の発生が若干認められる以外、難防除病害は発生していません。

筆者の畑で実践している輪作モデル②

予想される主な病害および防除効果
(赤字は、土壌消毒などの薬剤が効きにくい難防除病害、青字は防除効果がある作物)

予想される主な病害および防除効果

3.野菜の病害防除

栽培する野菜に予想される難防除病害の防除対策を事前に行い、拡散を防ぎます。また、同一科の作物や病害名が違っても同一菌・虫により拡散の要因となります。

耕種的防除法の基本

  • ・難防除害虫が発生しないように輪作をします。また萎凋症状や生育遅延が認められたら病害名を確認して、初期防除に努めます。
  • ・共通病害の少ない作物(例えば、えん麦野生種や未成熟トウモロコシ)を輪作に導入します。
  • ・難防除病害に汚染した畑の作業後は、泥に付着してほかの畑に拡散するため、機械や長靴などを必ず水で洗浄します。ただし、汚染土壌の処理に気を遣ってください。

野菜の主な病害

①バーティシリウム菌

バーティシリウム菌による病害は、作物によって病名が異なりますが同一菌によります。作物ごとに発病・発症に差がありますが、ナス科、アブラナ科、マメ科、ウリ科、雑草などを侵し、土壌中に10年間菌(微少菌核)が生存するため、輪作が難しく、特にナスは弱い作物です。

作物の中では、ナスが最もバーティシリウム菌に弱い。導管に菌が詰まるため、葉と作物の半分が枯れてしまう。

【作物ごとの防除 方法】

ナス

接ぎ木、土壌消毒、栽培中の薬剤土壌潅注、収穫後早めに株を処理し、微少菌核を軽減させます。

キャベツ

発病の少ない品種、発病の少ない作型、定植時に根傷みが少ないセル苗、収穫後早めの土壌混和による微少菌核の軽減、菌密度軽減効果のあるえん麦野生種を作付けします。できるだけ連作を避け、本病菌の土壌中菌密度を増加させない、耕種的防除方法が基本です。

菌密度軽減効果がある、えん麦野生種。種子がつく前後の最も効果が高い時期に鋤き込む。

②根こぶ病菌による病害

アブラナ科全般に発病し減収します。ブロッコリーやハクサイ、キャベツに発病し、発生初期は、しおれなどの病徴がほとんど認められず、放置すると経年的に菌密度が上昇し、薬剤防除の効果が低くなります。古い病害ですが、いまだに産地各地で多く被害が認められます。

キャベツを定植後、根こぶ菌に感染し根が肥大、養水分吸収ができず日中しおれた状態。(写真:駒田 旦)

根こぶ病は、土壌中の菌密度と発病に深い関係があります。発病の菌密度は10×3〜7で表され、防除対策を取らず1年間放置すると10×1〜2増加します。10×3の畑では発病しない場合もありますが、10×6〜7の菌密度では、薬剤防除も効かなくなります。菌密度を上昇させないことが防除の重要なポイントです。
初発時に本病の特徴である、しおれ症状が見過ごされると2年で菌密度が10×4〜5程度まで上昇し防除しづらくなります。したがって初発を確認したらすぐ防除対策を行います。

土壌中の菌密度が10×6〜7で感染肥大したハクサイの根。この状態では、商品価値のある品物を出荷できない。(写真:駒田 旦)

【根こぶ病の耕種的防除方法】

  • ・輪作の導入
    アブラナ科作物を作らない輪作をすると1年間で10×1程度、菌密度が減少します。
  • ・対抗植物の利用
    宮重系のダイコンおよび、根こぶ病抵抗性ハクサイやキャベツを作ると根こぶ病の休眠胞子が積極的に集まり増殖できないため菌密度減少効果が高まります。ただし抵抗性ハクサイやキャベツでも発病する場合があります。
  • ・緑肥作物の利用
    イネ科作物の作付けは、輪作効果があって鋤き込みによって有機物補給もできます。
  • ・ポット苗による初期感染防止
    セル苗などは、無病の培養土で裸苗より感染が遅くなり初期感染防止を図れます。無病培養土量が多いポリポット苗は、感染時期のさらなる遅延を可能にします。逆に汚染畑での直まき栽培は、菌密度を上昇させます。
  • ・作期による防除
    発病は、温度と日長が関与します。夏秋期で早い作型と遅い作型は発病を抑えます。
  • ・土壌pHによる防除
    pHが4〜6では発病を助長し7以上で抑制します。但し7以上にすると微量養分欠乏を発生する場合があります。
  • ・排水改良による発病抑制
    本病の発病に関与する休眠胞子の遊走子は、土壌水分が大きく関係します。排水改良のためサブソイラーの使用や恒常的な排水不良畑は、暗渠やモミ殻集水暗渠の布設も防除効果を高めます。特に水田作付けした場合に排水不良畑では、感染拡大を助長しやすくなります。
  • ・菌密度を上昇させない
    根こぶ病汚染畑で、ブロッコリーやハクサイのように定植後収穫までの日数の短い作物の年2〜3期作を行うと、菌 密度の上昇を招く場合が多く認められます。

【薬剤連用による防除】

・殺菌力のある薬剤で防除し、休眠胞子を減少させます。

キャベツ根こぶ病の発病要因と防除方法

キャベツ根こぶ病の発病要因と防除方法

③ダイコンなどに発生する根くびれ病

キャベツ、ハクサイ、カブなどのアブラナ科全般に播種や育苗時に発生します。アファノマイセス菌によって引き起こされる病害で、発芽直後に感染すると茎が細くなり、その後肥大時に亀裂状態となり商品価値を落とします。アブラナ科の共通病害のため発生畑では、連作すると菌密度が高まり防除が困難になります。最適発病温度は23〜27℃で、土壌水分が多い場合多発します。アブラナ科の連作は避け、菌密度の減少のためイネ科のえん麦野生種などを作付けします(輪作モデル②参照)。

④ネギの病害 ネギ黒腐菌核病

■発病状態

ネギの生育時期に下葉が黄化し、株全体が生育不良となり、やがて枯死します。発病株は根が腐敗し、容易に引き抜けます。被害株では、地際部の感染部位に黒色の厚いかさぶた状の菌核を形成します。軽症の株では、地際部の外葉に薄く黒色の菌核を形成します。

■病原菌スクレロチウム セピボラム

病原菌は小形の菌核を多数形成して越冬し、これが感染源となって発病を繰り返します。被害株にできた菌核が土壌中に蓄積することで被害が増加します。生産地では、苗によって病原菌が持ち込まれて発生することが多く認められます。
病原菌は15〜20℃で発生し、25℃以上の夏季高温時には発生が停止します。タマネギ、ラッキョウ、ニラ、ニンニクにも発生し、多発生畑では栽培を避け、健全苗を植えます。

■薬剤防除

発病畑は土壌消毒をします。ネギ産地では、難防除病害として問題となっています。

地際部に黒色のかさぶた状の菌核を形成する。
(写真:駒田 旦)

⑤タマネギの病害 タマネギ乾腐病

■発病状態

生育の全期間と玉の貯蔵中に発生します。立毛中は、初め葉の片側が全長に、あるいは葉の全部が黄化、萎凋して、枯死します。貯蔵球での発病は茎盤部から始まり、茎盤部がまず灰褐色に変わり、ついで鱗片基部から水浸状または乾腐状に腐敗し、次第に全球におよんで、ついには外皮2〜3枚のみを残して崩壊、消失します。

■病原菌フザリウム オキシスポルム

本病は典型的な土壌伝染性病害で、多発畑では連作を避けます。一度、土壌が本病病原菌の汚染を受けると病原菌は容易に防除できず、高温期にタマネギを植えれば必ず発病します。病原菌を畑に入れないことが本病防除の第一歩です。
伝染の可能性は、苗(特に自家育苗からの感染例が多い)、運搬用・耕運用大小農機具、農具、履き物、堆厩肥(たいきゅうひ)、潅漑の経路が考えられます。これらを一つひとつ点検して、細心の注意を払って伝染源を消去して行くことが大切です。

生育中に発生した乾腐病症状。(写真:駒田 旦)

野菜の商品価値を下げる病害虫

①ダイコンのセンチュウ害 ネグサレセンチュウ

ダイコンの根部に水泡状の黒点が発生し、商品価値を落とします。特に収穫遅れは被害が激しくなります。土壌中のセンチュウ数が一定密度以上になると、バーティシリウム菌による、半身萎凋病の発生を助長します。
えん麦野生種をダイコン作付け前や前年に作付けすると、センチュウの被害が軽減できます。ただし、鋤き込み後十分に腐熟させないと岐根発生を招きます(輪作モデルA参照)。

鋤き込み適期のえん麦野生種。

②ダイコンなどに発生するキスジノミハムシ

アブラナ科作物の連作により発生密度が高まります。一定密度以上になると薬剤防除が困難になります。寒冷な地域でも成虫で越年し、その畑に定着して年3〜5回程度発生します。幼虫が根部の表面を食害し、その後根部肥大にともない穴状や鮫肌状となり商品価値を落とします。防除は、適用薬剤をポリマルチ被覆前に土壌混和して播種します。

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