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悠々自適の菜園ライフ 〜リタイア後の野菜栽培プラン〜

定年退職後に野菜栽培を始められる方は多くいらっしゃいます。直売所へ出荷することを目的とした野菜品目の紹介や栽培技術に加え、悠々自適に菜園ライフを実践されている方々の実例にも触れて、趣味で始めた野菜作りを年金以外の実益にするためのノウハウを詳しくご紹介します。                     
※文中で紹介の資材などはタキイでは取扱いのないものもございます。(編集部)

2020/07/20掲載

農業・園芸研究家

町田信夫(まちだ のぶお)

昭和47年より群馬県高冷地の野菜担当普及員を7年、その後キャベツを中心とする園芸試験場高冷地試験地で試験研究に従事し、普及、農家指導などを実践。さらに中山間地域(標高100〜900m)の利根沼田普及、富岡地区農業指導センター、中山間地園芸研究センターを経て退職。現在、長野県の自宅で各種野菜や果樹を栽培出荷する。

町田信夫(まちだ のぶお)
最終回

直売所向け野菜の保存と品質低下対策

野菜収穫後は、鮮度や品質低下・栄養成分の変化が起こるため、作物ごとに異なった対策が必要となります。今回は、直売所へ出荷するために気を付けたい野菜の保存法や野菜の劣化対策を紹介します。

1.トマト

  1. 完熟したトマトは、5℃の冷蔵環境で果実硬度や光沢が維持されます。
  2. ポリエチレンフィルム包装すると"ガク"のしおれが少なくなります。
  3. 裂果などのある生食用トマトはジュースに、調理向けに販売されているトマトは、加熱するとうまみが増します。
トマト
「桃太郎」は直売所で定番人気のトマト。しっかり樹上完熟させて、おいしさを最大限生かしましょう。
トマト
「桃太郎ゴールド」の熟期は判別しにくいですが、しっかり橙黄色まで完熟させれば、食味も向上します。

2.キュウリ

  1. キュウリの果実の温度が上がる日中は収穫を避け、早朝に若どりします。
  2. 貯蔵適温は11〜13℃。貯蔵日数を延長できます。
  3. 品質低下の主因である"しなび"防止には、ポリエチレンフィルム包装(湿度を90〜95%に保つ)が有効な手段です。
  4. 低温(低温障害)と高温下の貯蔵は、品質低下を招きます。
キュウリ
べと病・うどんこ病に強く、秀品率が高くて栽培しやすい「夏すずみ」。

3.ピーマン

ピーマン
生育旺盛で収穫が安定する「京みどり」。家庭菜園でも作りやすい品種。
  1. 10℃(低温では種子部が褐変し、品質低下)での有孔ポリ袋(無孔ポリ袋は腐敗しやすい)保存が最も効果の高い方法です。

4.ナス

  1. ナスの果実の温度が上がる日中を避け、早朝に収穫します。
  2. 10〜15℃の温度を保ち(低温で品質低下)有孔ポリ袋(湿潤を保つ)に入れて保存すると、14日程度品質を保てます。
ナス
秀品率と多収性を兼ね備えた「千両二号」は、調理幅が広くおいしいナスとして親しまれています。

5.カボチャ

  1. 適期収穫の西洋カボチャ(粉質)は、収穫後7〜10日過ぎると、でんぷんが糖化しておいしくなります。それ以上置くと水っぽくなり、腐敗します。
  2. カボチャスープやお菓子の原材料にする場合、10日程度であれば冷蔵庫保存します。冷凍保存、または通風乾燥後粉砕すると長期保存も可能です。
カボチャ
甘みが強く、ほくほくしておいしい食味の「ほっこり133」。品質の低下が遅く収穫後の日もちがよい品種です。
カボチャ
白皮カボチャの「夢味」は、直売所でも目を引く品種。栗のような食感で食味がよく、日もち性にすぐれ長期貯蔵が可能で、長期貯蔵後に甘みが増します。
カボチャ
「ロロン」は形もユニークで甘みが強く、直売所で人気の品種です。

6.ハクサイ

  1. 寒害に強い作物で、霜を受けると糖度が増し「霜降りハクサイ」と呼ばれます。貯蔵適温は1〜2℃です。
  2. 秋冬期に寒害や雪害の少ない地域では、畑で外葉を結束して抱合部を守り、畑で保存し出荷します。
  3. 寒冷地帯では、新聞紙に包み収納庫内で保存する方法があります。また横積みにすると、貯蔵養分の消耗や腐敗を招くため、立てて貯蔵します。
ハクサイ
新聞紙で包んだ冬期のハクサイ貯蔵例。
ハクサイ
畑で球頭部を結束したハクサイ。

7.キャベツ

  1. 品種や作型により差がありますが、貯蔵性の高い作物です。
  2. 秋冬期に寒害や雪害の少ない地域では、糖度は増して食味が向上します。また畑で保存し出荷します。
  3. 0〜5℃の温度かつ湿度90〜98%(ポリ袋に入れる)の条件で貯蔵すると14日程度品質を保てます。これを過ぎると次第に黄化し腐敗します。
  4. 品質劣化を抑える機能性フィルムを使用すると、さらに長期保存が可能です。
キャベツ
新聞紙で包んだ冬期のキャベツ貯蔵例。

8.ダイコン

ダイコン
作りやすく、畑に長く置いてもス入りが遅い「耐病総太り」。
ダイコン
ダイコンの発泡スチロール箱貯蔵例(生長点を切り箱に入れる)。
  1. 貯蔵条件は、0℃で、湿度90〜95%を保つことです。
  2. 長期間氷点下にさらされると凍害を受けます(肉質が水浸状になり食味低下)。
  3. 秋冬期の貯蔵は、凍害防止と、乾燥による品質低下やス入りを防止することが必要です。
  4. 上記の条件をふまえた埋土貯蔵や雪中貯蔵が、以前から行われています。

9.根深ネギ

  1. 耐凍性が高いため畑に置いておき、順次収穫します。
  2. 冬期に土壌凍結で収穫できない地域では、凍結前に収穫し、根を乾燥させないようにして保存します。
根深ネギ
ネギを肥料袋に入れて保存する貯蔵例。

10.ニンジン

10.ニンジン
長野県飯山市鍋倉高原で作付けされる積雪前の雪の下ニンジン。
  1. 貯蔵最適条件は、0℃で湿度90%を保つことです。
  2. 低温になると糖度が増し、これらを生かした「雪の下ニンジン」などが知られています。
  3. ニンジンは、収穫後茎葉を切り、洗浄・水切り(腐敗防止)後に保存します。
※参考文献「農業技術体系 野菜編」(農文協)
"町田の目線"

町田の目線で直売所出荷のポイントをまとめてみました。

直売所に出す野菜を生産して、現金収入を得る

  1. 近年の年金の減額や健康保険料や介護保険料の天引きにより、定年後の手取りは減少しています。
  2. 野菜を作る自作地がなくても、全国で農家の高齢化に伴う遊休農地が発生しており、それらを借りて野菜を作り、直売所へ出荷販売することで現金収入を確保できます。
個人直売所で自家野菜を販売。個人直売所は、整備されていないところほど固定客がつきやすい。
個人直売所で自家野菜を販売。個人直売所は、整備されていないところほど固定客がつきやすい。
直売所施設に出荷。この直売所ではスイートコーン、半白キュウリ(入山キュウリ)、幅広インゲン(金時インゲン)が売れ筋。
直売所施設に出荷。この直売所ではスイートコーン、半白キュウリ(入山キュウリ)、幅広インゲン(金時インゲン)が売れ筋。
幅広インゲン(金時インゲン)。
幅広インゲン(金時インゲン)。

直体の健康状態や年齢上昇を考慮した、作業軽減のできる作物の導入

  1. 作る作物によって育苗・栽培管理・収穫の作業に大きな差が出てきます。
  2. 私も長年野菜栽培に携わってきたため、定年後アスパラガスなどの野菜導入も考えました。しかし、持病の腰痛で座る作業が難しく、立って作業のできる、棚ブドウ栽培を始めました。棚ブドウ栽培は、基本的に軽作業で済むため、近隣農家の方は、90歳近くになっても出荷をしています。
ミニトマト「千果」
ミニトマト「千果」。雨よけ施設は、必須です。比較的栽培が容易で高糖度になります。ただし出荷には、労力(軽作業)が必要です。

おいしい野菜をつくり直売所でリピーターを増やす

  1. 品種:高品質な野菜を作るにあたって、一番の決め手となるのは品種です。品種選定は、慎重に行います。
  2. 作型・気象条件:作物により最適な温度が異なるため、それに合った作型を選択します。一方気温が下がった状態で収穫する、「霜降りハクサイ」、「霜降りタアサイ」、「寒締めホウレンソウ」、「雪の下ニンジン」などは、寒さを受け糖度上昇で味がよくなり、商品化され出荷されています。
  3. 土壌条件:乾燥や湿害を受けやすい土壌や作物、リン酸を好む作物(タマネギ、ニンニク)、やや高めのpHを好む作物(ホウレンソウ、エンドウ、レタス)などがあります。作物導入にあたっては、畑の土壌を確認して作物にあった土壌改良や排水改良を行います。
おいしい野菜をつくり直売所でリピーターを増やす

有機栽培や○○農法は、必要なら取り入れる

  1. これまで有機農法や〇〇農法を実施している農業者と付き合いがありました。一定の評価を得ている農家は、長年試行錯誤し、取捨選択の末、優良品を出荷できています。
  2. マスコミやネットの世界でこれがいいと伝聞されるものは、必要なら導入してもよいですが、だめだったらやめることも選択肢の一つです。

農産物加工により出荷比率を向上させる

  1. 生産物は必ずA級品ができるわけではないので、B/C級品の加工販売を手がけるのも一方法です。
  2. ただし加工生産には、ノウハウの蓄積や施設、そして保健所の許可が必要です。この世界で成功している農家は、試行錯誤した結果、良品を生産販売しています。
ベニバナインゲン甘納豆は、専門業者に依頼し、販売しています。
ベニバナインゲン甘納豆は、専門業者に依頼し、販売しています。

難防除の土壌病害虫を発生させないように注意する

@バーティシリウム菌による土壌病害は、いったん発生させてしまうと薬剤を使ったとしても根絶が難しい病害です。

Aバーティシリウム菌は、ナス科(ナス、トマト、ピーマン)・マメ科・アブラナ科(ハクサイ、キャベツ)・ウリ科・アブラナ科雑草(ナズナ、タネツケバナ)などを侵します。発生すると土壌中で10年間にわたり菌(微少菌核)が生存するため、輪作が難しくなります。特にナスは影響を受けやすい作物です。

ナスの半身萎凋病。
ナスの半身萎凋病。

Bナスの防除のためには、接ぎ木、土壌消毒、栽培中の薬剤土壌潅注、収穫後早めに株を処理するなどし、微少菌核を軽減させます。

C菌密度減少効果のある、えん麦野生種(ニューオーツ、ヘイオーツ)を作付けします。

Dできるだけナス科・マメ科の連作を避け、病原菌の菌密度を増加させないようにします。

えん麦野生種。
えん麦野生種。

病害虫防除の情報は、信用できる正確なものを入手する

  1. 各県のホームページに掲載されている病害虫情報と対策を参照してください。大規模野菜産地の県の記事は、詳細かつ実用的で、他県民が見ても有益です。 
  2. 農文協発行の『農業技術体系』は、長年病害虫の研究に携わった専門家による農業の百科事典で、信頼ができます(有料なので図書館利用で活用すると無料)。
  3. タキイ種苗のホームページの病害虫に関するコーナー(長年病害虫の研究に携わった人が書いた文章)も参考にしてください。

私が独断と偏見で選んだ、作業負担が小さく、食味のよい野菜

我が家では、自家菜園(20a)に食用と試験用の野菜を作っています。近所におすそ分け(長野県では、家庭菜園で作った野菜を近所に分ける習慣がある)した中で、評価の高かった野菜を紹介します。

  1. 根深ネギ:「ホワイトソード」。低温伸張性があり、太りとそろいがよく、また肉質が緻密で煮物や焼物にした際、甘みがあります。薬味、天ぷら、焼き物で真価を発揮します。
  2. ニラ:「広巾にら」。株を数年おきに更新しないと品質低下を招きます。春先、秋には食味がよくなります。
  3. カボチャ:「ほっこり133」や、「ほっこり姫」(ミニカボチャ)は、粉質度が高く甘みが強い、高品質のカボチャです。
  4. ナバナ:「秋華」。年内の早どり栽培向き。このほか耐寒性が強く秋から春にかけて長期収穫のできる、甘みのある品種もあります。試作をして品種導入してください。
  5. 小カブ:「金町小蕪」。小カブは、浅漬け、煮食などの料理に使える作物です。どんな料理にも使え、盛夏を除く時期に播種可能です。
  6. 霜降り野菜:寒さを受けた11月から1月にかけてのハクサイ、ホウレンソウ、タアサイ、ニンジンなどは、甘みが増して「霜降り野菜」として糖度や評価も高くなります。
@根深ネギ
@根深ネギ
Aニラ
Aニラ
Bカボチャ
Bカボチャ
D小カブ
D小カブ

直売所出荷を長続きさせるコツ

直売所への野菜栽培出荷は、仕事と思わず趣味でやっている感覚で農業をすることが、長続きさせるコツです。私も、ナガノパープルやシャインマスカットの短梢ブドウを仕事と思わず楽しむようにして栽培管理し、出荷しています。

最後に、皆さんが土に親しみ、健康で趣味と実益を兼ねた、
農業ができることを祈念し、筆をおきます。
(町田信夫)

悠々自適の菜園ライフ 〜リタイア後の野菜栽培プラン〜は今回が最終回となります。
長い間ご愛読いただき、ありがとうございました。(編集部)

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