農業・園芸研究家
町田信夫(まちだ のぶお)
昭和47年より群馬県高冷地の野菜担当普及員を7年、その後キャベツを中心とする園芸試験場高冷地試験地で試験研究に従事し、普及、農家指導などを実践。さらに中山間地域(標高100〜900m)の利根沼田普及、富岡地区農業指導センター、中山間地園芸研究センターを経て退職。現在、長野県の自宅で各種野菜や果樹を栽培出荷する。
定年退職後に野菜栽培を始められる方は多くいらっしゃいます。直売所へ出荷することを目的とした野菜品目の紹介や栽培技術に加え、悠々自適に菜園ライフを実践されている方々の実例にも触れて、趣味で始めた野菜作りを年金以外の実益にするためのノウハウを詳しくご紹介します。
※文中で紹介の資材などはタキイでは取扱いのないものもございます。(編集部)
2020/02/20掲載
農業・園芸研究家
昭和47年より群馬県高冷地の野菜担当普及員を7年、その後キャベツを中心とする園芸試験場高冷地試験地で試験研究に従事し、普及、農家指導などを実践。さらに中山間地域(標高100〜900m)の利根沼田普及、富岡地区農業指導センター、中山間地園芸研究センターを経て退職。現在、長野県の自宅で各種野菜や果樹を栽培出荷する。
今回は、定年後に群馬県で農業を始められたAさんご夫妻に、栽培しやすく直売所で売れる野菜の品種について取材しました。
Aさんの農作業場の様子。
高冷地のスイートコーン栽培では、昼夜の日格差が大きく、昼間に光合成で作られた養分を夜間に消耗しないため、糖度が高くなります。そのスイートコーンを食べた購入者は甘みに驚き、また食べたいとリピーターになるそうです。遠方からわざわざ直売所を来訪する方も。
高冷地の特性を生かして栽培されたスイートコーン。
一般的な白イボキュウリが普及する前は、各地で半白の黒イボキュウリが作られていました。今は、「鎌原キュウリ(群馬県嬬恋村)」「入山キュウリ(群馬県中之条町)」「鈴ヶ沢うり(長野県阿南町)」「相模半白節成」などが各地で伝統野菜として作られています。これらのキュウリは外観が、やや太めで色が白く、病気に弱い点も見受けられますが、食味のよさが大きな特長です。各地域では直売所に出荷される例が多く、購入目的で訪れる人もいます。種子の大部分は、自家採種されますが、種苗会社でも販売されているものもあります。
「鎌原キュウリ」は市販のキュウリと違い、やや太めで短く、半白であるため第一印象はよくないですが、一度食べると味のよさが分かり、リピーターの方が増えて直売所・直売コーナーで売れています。市販タイプの白イボキュウリも、朝どり(最もおいしい状態)で鮮度が高く売れています。
鎌原キュウリ(半白)。
白イボキュウリ(市場流通される品種)。
平莢(幅広)インゲン「モロッコ」、つるなしインゲン平莢(幅広)インゲンは、各地域で伝統野菜として栽培され「金時インゲン(群馬県中之条町)」「インゲン(群馬県南牧村)」などがあって、若莢や子実として直売所で販売されます。
平莢インゲンの「モロッコ」は、収穫適期の幅が広いことや、高冷地でとれたインゲンが食べてもやわらかいことから、以前より知名度が上がり、直売農家や定年帰農者が生産し、直売所や市場を通じてスーパーで販売されています。低標高地の栽培では、夏期はかたくなりますが早春と晩秋の栽培ではやわらかいインゲンが収穫できます。
トンネルパイプでキュウリネットを張った栽培風景。
「モロッコ」インゲンの収穫物。
つるなしインゲンの圃場。
つるなしインゲン近景。
ベニバナインゲン高冷地で作るベニバナインゲンは、大粒で見ばえがよいため高値で取り引きされています。しかし近年は温暖化のため、開花しても着莢が難しく、減収したため単価が上昇しています。
ベニバナインゲンの花。
ベニバナインゲンを莢ごと乾燥させる。
ベニバナインゲンの乾燥子実(左)と煮豆(右)。
ベニバナインゲンの甘納豆袋詰。
「モロッコ」インゲンは、直売所・直売コーナーで食味がよいことから、消費者からの評価が高い作物です。早春と晩秋につるなしインゲンを数回に分けて収穫・出荷、夏場はモロッコインゲンを出荷しています。
ベニバナインゲンは「モロッコ」とは違う子実。乾燥子実を家庭で上手に煮ることができる消費者が減少していることから、業者に甘納豆の加工を依頼し、直売所・直売コーナーに出荷販売しています。ベニバナインゲンの小粒系統は晩性の大粒種より早生で高冷地でもよく着莢します。
準高冷地や高冷地のトマト栽培では、気温の日格差が大きく糖度上昇に貢献しています。市場出荷のトマトは、出荷後店頭に並ぶ日数を考慮し、やや早めに収穫されます。直売所では、市場出荷のようなタイムラグの必要性がなく、着色がよい高糖度のトマトを消費者に提供でき評価が高く、固定客が多いようです。そのため多くの直売所農家がトマトを導入し、出荷しています。ただし露地栽培では、降雨による裂果が多くなるため雨よけハウス栽培が必要条件です。
トマト(大玉系)。
ミニトマト「千果」。
洋風料理に合うズッキーニは、栽培が容易で全国的に作付面積が増えています。大面積を経営する農家では、数回の播種、定植を繰り返し、畑を変えて収穫していきます。品種により病害に対する感受性が異なるので、品種選択はその点を考慮してください。
ズッキーニの圃場。Aさんの畑では定植後、霜が降りるまで同一の畑で収穫出荷している。
甘長トウガラシはシシトウより収穫適期の幅が広く、直売所農家に導入しやすい作物。
以前は万願寺トウガラシを作付けしていましたが、黒く着色し変形も多いことから、変形や着色の少ない甘長トウガラシを導入しました。
青汁の原材料としてケールの葉が使われています。種子は、種苗会社や長野県で育成された品種があって、出荷も容易で重量が軽く、年配の農家を中心に栽培出荷されています。
青汁の原料として知られるケール。スムージーやサラダ、ソテーなど、さまざまな料理にも使える。
契約で出荷していますが、出荷の手間はほとんどかかりません。ただしポット苗定植で根の張りが悪く、強風により根元で折れたり、倒伏して斜めになったりすると、葉の形状が悪くなるので注意しています。
ブルーベリーは、アントシアニンを多く含み生食や加工原材料として、消費者からの評価の高い品目です。ただし収穫に手間が掛かるため、観光用の摘み取り園として対応している農家もいます。近年、育成された大玉品種は、栽培地の標高によって適正品種が異なります。品種は大きくハイブッシュ系とラビットアイ系に分けられますが、導入の際は十分考慮してください。
ブルーベリーの樹。Aさんはパックに詰めて直売所・直売コーナーに出荷している。
ガーデンハックルベリーは、ツツジ科のスノキ属(ブルーベリー、ナツハゼ、クロマメノキ)と違う作物で、ナス科イヌホウズキの一種、未熟果やガクには毒性があります。完熟果を収穫し、十分アク抜きをしてジャムにします。
ガーデンハックルベリーの着莢状況。
1kgパックにして店舗の直売コーナーでジャムの原材料として販売しています。栽培は容易ですが、採取に手間がかかるためパック販売は消費者受けしてよく売れます。
それ以外に、「鷹の爪」トウガラシ、小豆、黒豆、ダイコン、ゴーヤ、短根ニンジン、ハクサイなど各種の野菜を作り出荷しています。
夏秋どり用を中心に幅広い作型に適し、品質のよい「千両二号」ナス。
「鷹の爪」トウガラシは赤くなったものを出荷。
下仁田系ネギ。
エダマメは食味のよい茶豆系の品種(左)と白毛系の品種(右)を栽培。エダマメは食味のよい茶豆系の品種(上)と白毛系の品種(下)を栽培。
個人の直売所では、園主の人柄やコミュニケーションが売り上げに直結します。家族間で話し合い、適性の高い人を販売者にしてください。リピーターを増やす方法として、負担にならない程度のおまけをしたり、購入者とよくコミュニケーションをとったりするなどがあげられます。単なる販売だけでは、直売所間の差が出てきてリピーター率が低くなります。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57