有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−

講師 臣 康雄さん

講師 臣 康雄さん

タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。

取材:農園芸ライター

久野 美由紀

久野 美由紀

2020/02/20掲載

「タキイ最前線」本誌で連載中の「有機栽培のすすめ」。本誌では、有機栽培を実践する市民農園におじゃまし、体験をレポートしています。ネット版では実践の具体的な方法を、講師の臣さんより伝授。第4回では強い作物を育てるために、実際にどう畑をつくるかについて解説します。

第4回 畝立ての考え方

畝立ての前に気をつけること

久野

これまでは堆肥や土づくりについて学びました。では、いよいよ実際に畑をつくっていくわけですね。

臣先生

堆肥を施して畝立てをして…となるわけだが、その前に少し畑を観察してみよう。

まず、畑に生えている雑草を見てみましょう。もし、スギナが生えていたら、その土はかなり酸性に傾いているということです。
適正な酸度はpH6〜6.5の弱酸性で、酸性がそれより強くなりすぎると作物が生育しなくなります。品目にもよりますが、ホウレンソウなどはその代表例。一方でスイートコーンなどイネ科の作物は、酸性土でも比較的よく育ちます。
逆にアルカリ性へ傾くと、微量要素が分解されにくくなって欠乏状態になり、病気が出やすくなります。ジャガイモのそうか病などはその一つです

畑でスギナを見かけたら、掘り起こして地下茎とともに取り除き、かき殻石灰などの有機石灰を堆肥と一緒に施してやります。酸度が適正になってくれば、生える雑草はスギナからハコベやスベリヒユに変わってきます。雑草からでもある程度判断できるのです。
なお、鶏ふんにはアルカリ分がかなり含まれます。これを常用している2カ所の市民農園で酸度を測ってみたところ、pHは6〜6.5の適正値に収まっていました。
野菜を継続して作っていると、どうしても土は酸性になりがちですが、定期的に鶏ふんを施していれば、過剰に傾くことは少ないと思われます。ホウレンソウの場合のみ、作付け前に意識して、かき殻石灰や草木灰を入れておくとよいでしょう。

ハコベが生えていれば、その土は適性な酸度であるということ。有機栽培の市民農園では、そのような野草がよく見られる。

雑草以外で注意するのは、畑の水はけのよしあしです。いつも水がたまったような状態だと、根を十分張らせることができず、病気も出やすくなります。乾きやすいか湿りやすいかを見極め、余分な水をどこへ流すか考えておきましょう。

畝立ての実際

久野
まずはどういう畑なのか、分かっていないといけないのですね。
臣先生

じゃあ、畝立てのやり方をざっと説明してみよう。

堆肥の量

堆肥の種類にもよりますが、完熟堆肥を用いるなら植える1カ月前に畑へ施しておけば問題ありません。例えば、春野菜を5月の連休に植え付ける場合は、4月の初めにとりかかればよいでしょう。私の教えている市民農園では、1区画が約30㎡で、使用量の目安は土壌改良目的の堆肥が120㎏、鶏ふんが10㎏となります。もし酸性が強い場合は、かき殻石灰なども加えるようにし、畑に混ぜ込んで土となじませておきます。
ただし、これはあくまで目安であって、チッソ分はあまり入れすぎないように、というのが私の持論です。なぜなら、人間はあまり手助けしすぎず、植物本来の力を引き出したいからです。

植物は吸収した硝酸体チッソを体内で分解し、アミノ酸を生成します。しかし、肥料が多すぎてチッソ過多になると、植物は十分分解することができず、体内に残されたままになってしまいます。それが原因で、病害などさまざまな弊害をもたらすのです。
つまり、この面積だからこれだけの量、と決めるのではなく、植物が完全に分解して吸収できるだけの量を与えてやることです。最初は少なめの、確実に分解できる量だけ入れておいて、顔色を見ながら与えていきます。よく観察し、少し葉の色が薄くなってきたな、と思ったら、パラパラと鶏ふんを振ってやるのです。そのとき、根元に振ると濃度が高すぎて障害を起こすことがあるので、できれば根が伸びる先の方へ施すようにします。2条に植えていたら、その間に振るとよいでしょう。

実をいうと、できれば堆肥は全面に施すより、30〜40cmの深さの溝を掘って施用し、埋め戻しておく方がよいのです。すると、根は養分を求めて深く入っていくため、しっかりした根を張らせることができます。全面に施すと根はそれほど働く必要がないので、浅く張るようになってしまい、大雨や干ばつの影響を受けやすくなるのです。
ただ、溝を掘るとなると、なかなか実行するのは難しいでしょう。そこで、一つの方法として、前回説明した、畝の通路に堆肥や鶏ふんを施しておいて、1作を終えたら、それを芯にして次の畝を立てる…というものがあります。堆肥の位置が少し浅くなりますが、簡単で労力もかからない、家庭菜園におすすめのやり方です。

排水を考える

畝を立てる一番の目的は排水です。前項でも触れましたが、水をどう流すか常に念頭へ置きながら、畝をつくっていきます。
まず、よほど排水のよい土地でなければ、15cm以上の高畝にしておいた方がよいでしょう。大雨が降った場合でも水に浸かるのが避けられます。また、畑の周囲や畝の間の通路(畝間)には、排水する方向が低くなるようゆるい傾斜をつけ、水の流れをよくしてやります。

畝の土は、一番下がゴロゴロ、その上はコロコロ、一番上はパラパラ、このような3層になった形がよいといわれています。表面はある程度細かい土でないと、まいたタネが落ち着かず、発芽がそろわなくなるからですが、下の方はダイコンなどの根菜類でなければ、多少石や土のかたまりがあっても問題ありません。ゴロゴロにして隙間をつくってやった方が、通気性も排水性もよくなります。
私が実行しているのは、畝へスコップをいっぱいに突っ込んで、土を割るやり方です。こうすると、30cm程度の深さまで粗く砕いた状態になります。土を持ち上げて起こす必要はありません。こうしておいてから管理機(耕うん機)をかけると、表面は細かい土になり、下へいくほど粗くなるのです。

大雨で畝間に水がたまるような場合は特に注意。高畝にして傾斜をつけ、水の通りをよくする。

このまままっすぐ土へスコップを入れ、土の層を割る、隙間をあけてやるイメージで。

マルチの効用

畝を立てた後に、場合によってはマルチを張ります。一般的には、水分保持と雑草抑制が主な目的です。
ただし、ただ畝を覆えばよいわけではなく、十分な水分のある状態で行うことです。一度張ってしまったら、乾燥していても後から水をやることができず、マルチを剥ぐことになってしまいます。そこで、直前に雨が降ったときに行うか、自分で水をまいてやるか、土にたっぷり水を含ませておくようにしましょう。

家庭菜園でよく使われるのは、安価な黒ポリマルチです。主な目的は水分保持と草抑えで、地温も若干上がります。
地温の上昇を目的とするなら透明マルチが最適ですが、光を通してしまうので雑草抑制にはなりません。その両方を兼ね備えたものがグリーンマルチで、雑草も抑えるし、光をある程度通すから地温も上がります。
ほかに、光を反射して地温を下げる白黒マルチ、地温を下げてなおかつアブラムシよけにもなるシルバーマルチなど、種類によってさまざまです。いずれにせよ、使う時期や目的を見極めて選ぶことが大切です。

マルチを張るときは、十分な水分のある状態で。写真の黒ポリマルチは水分保持と雑草抑制効果が期待できる。

久野
これで準備は万端ですね。 おいしくて身体によい野菜が作れること、間違いなしです!
臣先生

それが、健全な土づくり、畑づくりをして強い作物を育てれば、虫も病気もつかない、というわけではないんだな。

久野
そう簡単ではないのですね。
臣先生

病害虫を出さないために、いろいろな防除法が考えられている。次回はそれらを取り上げてみよう。