有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−

講師 臣 康雄さん

講師 臣 康雄さん

タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。

取材:農園芸ライター

久野 美由紀

久野 美由紀

「タキイ最前線」本誌で連載中の「有機栽培のすすめ」。本誌では、有機栽培を実践する市民農園におじゃまし、体験をレポートしています。ネット版では実践の具体的な方法を、講師の臣さんより伝授。第6回からは実践編がスタート! まずは初心者でも栽培しやすく、使い勝手のよいイモ類を取り上げます。

第6回 有機栽培実践編1 イモ類(ジャガイモ、サツマイモ、サトイモ)

久野

ここまでは有機栽培の考え方や土づくり、害虫防除などについてお聞きしました。では、いよいよ栽培ですね!

臣先生

家庭菜園や市民農園で作られている野菜の中でも、葉根菜を中心に解説しようと思うんだが、となると何があるかな?

久野

タマネギとかイモ類、あとはキャベツやハクサイ、ダイコンなどは、臣さんご指導の市民農園でも、皆さん栽培されていますよね。

臣先生

ではまず、これから植え付けできて初心者でも挑戦しやすい、イモ類を取り上げてみよう。

ジャガイモ

久野

ジャガイモといえばカレーや肉じゃが、おでんなど、いろんな料理に使えますよね。

臣先生

家庭に常備しておきたい野菜の一つだな。たくさん作っておくといい。

作型

ジャガイモには春植えと秋植えの二つの作型があり、栽培しやすいのは春植えの方です。
春植えでは2月下旬〜3月に植え付け、6月ごろ収穫します。寒い地域では植え付けを少し遅らせるようにします。秋植えは比較的温暖な地域に適し、8月下旬〜9月上旬に植え付け、11月下旬〜12月中旬ごろに収穫します。

タネイモの購入と準備

ジャガイモの栽培でまず気をつけたいのが、タネイモは購入したものを使用することです。食用のジャガイモから芽が出たものは、一見使えそうでもウイルス病などに侵されている危険性があります。失敗を防ぐには、検査に合格して販売されている、病害虫のない安全なタネイモを使うようにしましょう。
植え付ける半月ほど前に購入し、日光に当てて芽出しをしておきます。大きなイモは使う3日ほど前に半分に切り分けて切り口を乾燥させ、小さなイモは1個丸ごと使用します。ただし、秋植えの場合は切ると腐りやすくなるので、必ず丸ごと使用してください。

植え付け前に芽出しをしておく。

大きなイモは切り分けて乾燥させる。

畝立てと植え付け

タネイモと並行して、畑の準備も始めます。日当たりのよい場所を選び、連作障害を防ぐため、前回の栽培から2〜3年は間隔をあけるようにしましょう。ジャガイモはナス科なので、ナスやトマト、ピーマンなど、ほかのナス科作物の栽培状況にも注意します。
肥料は全量を元肥として入れ、追肥は行いません。土がアルカリ性に傾くと、そうか病が出やすくなるので、石灰などは使わないようにしましょう。植え付けの1カ月ほど前に施肥し、耕して畝を立てます。畝幅は、二条植えなら120cm(一条植えなら80cm)程度とします。マルチ栽培にすると、生育がよくなるうえ後の管理も楽になります。マルチは畝から浮かないよう、ピンと張ることを心掛けましょう。

条間40cm、株間30〜40cm程度で植え付けます。マルチに穴をあけて10cmほど土を掘り、タネイモの切り口を下へ向け、押しつけるように埋めて土と密着させます。土を戻し、さらに植え穴全体にふたをするよう土をかけてください。これは、マルチと土の間に空気が入ると、太陽光で熱せられ、せっかく出た芽を枯らしてしまうことがあるからです。
マルチをしない場合は、植え付けた後、乾燥防止に畝全体へもみ殻を振っておくとよいでしょう。

マルチは畝から浮かさずピンと張る。

条間40cm、株間30〜40cm程度が目安。植える位置にタネイモを置いておくと作業しやすい。

植え穴を掘り、切り口を下にしてタネイモを入れる。

イモを押しつけるように埋め、土と密着させる。

植え穴全体に土をかける。

マルチをしない場合は、畝全体にもみ殻をふっておくとよい。

管理作業

発芽し、10cm程度に伸びたら芽かきをします。一つのタネイモから、芽は3〜4本以上出てきますが、すべて残して生育させると、養分が分散して小さなイモしかとれなくなります。太くて勢いのよい芽を2本ほど残し、あとは取り除いてしまいましょう。株元を押さえ、ゆっくりと引き抜きます。
マルチをしていれば、その後の管理はほとんど必要ありません。写真のように生育も段違いなので、最初は手間でも張っておいたほうがよいでしょう。
マルチなしの場合は、必要に応じて雑草を抜き、同時に土寄せしておきます。イモは浅い場所にできるので、上から土をかけておかないと、露出して日光に当たり、青くなって毒ができてしまうからです。

植え付けから1カ月あまりの状態。10cmほどに伸びれば芽かきを行う。

植え付けから約3カ月。左はマルチなし、右はマルチあり。これだけ生育に差が出る。

収穫

植え付けから3カ月ほど経つと、葉が枯れ始めてきます。大半が枯れたら収穫適期です。晴天が続いて土が乾燥しているときに掘り上げます。湿っていると腐りやすくなるからです。
イモが十分大きくなっているか、試しに1株抜いてみてから作業を行いましょう。株の根元を持って引き抜いた後、マルチをはいで残ったイモを掘り出していきます。ジャガイモは特に、土中のいろんな場所に埋まっているので、丹念にスコップなどで掘り返し、残ったイモがないかしっかり確認してください。
表面を乾かしてから、日の当たらない涼しい場所で保存します。

根元を持ってイモを引き抜く。

マルチをはいでから、残りのイモを掘り出していく。

イモを残さないよう、スコップで掘って確認する。

収穫したての湿った状態。乾かしてから涼しい場所で保存する。

久野
ジャガイモは掘り残しがないか何度も確認して、「これで全部とった!」と思っても、必ずといっていいほど後から見つかるんですよね。
臣先生

翌年、残ったイモから芽が出ていたりする(笑)。しつこいぐらいスコップで掘り返すことだな。

サツマイモ

久野
寒い時期の焼きイモは、ホクホクして甘くて、本当においしいですよね。
臣先生

しかも、栄養価が高く、食物繊維やビタミン、カルシウムも豊富。江戸時代の大飢饉でも、桜島でサツマイモを栽培していた薩摩藩だけは、餓死者が出なかったといわれている。
八代将軍吉宗はそれを知って苗を取り寄せ、栽培を全国に広めたそうだ。昔も今も、大いに活用したい健康野菜だな。

久野
すごいですね! 女性もサツマイモが大好きですよね!

作型

5月中旬〜6月中旬ごろに植え付け、10〜11月に収穫します。品種が早生か晩生か、またその地域の気温によっても変わってきます。

畝立てと植え付け

サツマイモは耐湿性が弱く、日当たりのよい乾燥した場所を好みます。砂地のような水はけのよい土が適するので、よく水がたまる所は避けましょう。連作の影響は少ないので、毎年同じ畝で栽培してもさほど問題ありません。
肥料は一般的な作物より少なめにし、追肥も必要ありません。多肥になるとツルばかり伸びて、肝心のイモが肥大しなくなります。植え付けの1カ月ほど前に施肥し、耕して畝を立てます。畝幅は、二条植えなら120cm(一条植えなら80cm)程度とします。マルチ栽培にすると、発根が促されて生育がよくなります。マルチはジャガイモと同様、畝から浮かないようにピンと張りましょう。

苗は植え付けの前にホームセンターなどで購入しておきます。条間40cm、株間40cm程度とし、細めの棒をマルチの上から斜めに差し込んで植え穴をあけ、サツマイモの苗を差すように植えていきます。このとき、できれば葉が南側を向くようにしましょう。サツマイモの根は葉の付け根から出るので、その部分まで確実に土へ埋めてください。最後に上からしっかり押さえ、土と密着させます。
植え付けが終わったら、乾燥防止に水をまいてやりましょう。寒冷紗でベタがけしておくと、効果が高まります。

棒を斜めにぐっと差し込み、20cmほどの深さまで穴をあける。

葉が南を向くようにし、苗を深く、葉の付け根が埋まるように入れる。

しっかり押さえて土と密着させる。

植え終えたら寒冷紗でベタがけ。

水をたっぷりかけて、苗の乾燥を防ぐ。

管理作業(つる返し作業が大切)

サツマイモは芽かきなどの管理作業もいらず、栽培容易な作物ですが、一点だけ必要なのがつる返しです。つるが畝間へ伸びて土に触れるようになると、その部分からも根を出し、品種によってはイモがついてしまいます。その防止に、伸びたつるを土から離すのがつる返し作業です。
つるから出た根を土とはがし、株の上へ返すようにのせていきます。一度行ってもすぐつるが伸びて根が出てしまうので、よく注意して、見つけたら返しておくようにしましょう。

植え付け後約1カ月、ここから生育が加速する。

植え付けから約3カ月、つるが伸びて土に触れると、そこから根を出してしまう。

つるから出た根を土からはがし、株の上へのせていく。

つる返し完了。栽培中、この作業を何度か行う。

収穫

一般的に早生種なら10月、晩生でも11月には収穫できます。作業は晴天の日に行いましょう。
まず、伸びたつるを短く刈り、取り除いてからマルチをはがします。イモは割合広い範囲についているので、傷つけないように数十p離れた場所へスコップを入れ、土とともに掘り起こしていきます。とり残しのないよう、土中深くまでスコップを差し込んでください。
収穫時期は、早すぎると味がのらず、遅れて霜の降りるころになると形が悪くなり貯蔵性も落ちるので、適期収穫を心掛けましょう。

伸びたつるを短く刈り、マルチをしていればこの後はがす。

周囲から深くスコップを差し込み、イモを掘り起こす。

イモが掘り起こされた状態。こうしておいて、お子さんなどにいも掘りを楽しんでもらう。

自分の力で掘り出せたと、お子さんたちも満足。
臣先生

実は、収穫したてだとあまり甘くないんだ。1週間か10日ほど貯蔵して追熟させると、でんぷん質が糖に変化して甘みが増すんだよ。

久野
じゃあ、食べたいのをぐっとがまんして、おいしいイモになるのを待つことにします(笑)。

サトイモ

久野
サトイモは、毎年市民農園の芋煮会でおいしくいただいています。古くからの日本料理、家庭料理って感じの野菜ですね。
臣先生

原産はインドなんだが、実は稲よりも前に日本へ入ってきて、われわれの祖先にも親しまれてきたイモなんだ。山でとれる「ヤマイモ」に対して、里でとれるから「サトイモ」。これからも栽培していってほしいね。

作型

4月の終わり〜5月中旬に植え付け、年末の11〜12月に収穫します。

畝立てと植え付け

サトイモは湿気の多い場所を好み、粘土質で常に水分を含んでいるような土でよく育ちます。また、日当たりが少し悪くてもさほど問題ないので、畑の中であまり条件のよくない所では、サトイモを作ってやるとよいでしょう。ただし、連作障害が出やすく、3〜4年は間隔をあける必要があるので、それも考えて場所を選んでください。
サトイモは植え付けから収穫まで半年以上を要するため、肥料はやや多めに入れてください。植え付けの1カ月ほど前に施肥し、耕して畝を立てます。畝幅は、二条植えなら120cm(一条植えなら80cm)程度とします。

タネイモは、前年に収穫して保存しておいたものを使います。保存方法については後で述べます。なければホームセンターなどで購入しましょう。条間40cm、株間45〜50cm程度とし、タネイモの芽を上にして、7〜8cmの深さに植え付けます。

タネイモ用に保存していたものを、植え付け前に掘り出す。

掘り出したタネイモ。ところどころ発芽しているのが分かる。

タネイモを外し、一つずつ植えていく。

芽を上に向け、7〜8cmの深さに植え付ける。

管理作業(雑草防除が大切)

サトイモ栽培ではマルチをしないことが多いので、雑草防除は欠かせません。暑い時期はまめに草抜きをしてやりましょう。
植え付けてから2カ月ほど経つと、株が育って芽が複数伸びますが、そのうちの強い芽を1〜2本残し、あとの弱いわき芽は抜き取って土寄せをしておきます。そのまま放置しておくと、養分が分散して小さなイモばかりになってしまいます。その際は鶏ふんをパラパラとふって、追肥をするとよいでしょう。私は、抜いた雑草を利用し、マルチ代わりに畝へ敷きつめています。

植え付けから2カ月半後、夏季では雑草もよく育つため、まめに除草してやる。刈った草は雑草マルチとして畝に敷きつめる。

少し株から離れた所に出た弱いわき芽は抜き取って土寄せをし、鶏ふんをふっておく。

収穫

11月ごろから収穫が可能です。年末ごろまでは植えておけるので、必要なだけ何度かに分けてとってもかまいません。タネイモ用として保存するものは、最後に収獲しましょう。
茎と葉は地際で切りとり、周囲にスコップを入れて丸ごと掘り上げます。土を払い落とし、子イモを外して根は切っておきましょう。中心の大きく育った親イモは、あっさりして子イモとは別の味わいがあります。これも利用したいものです。
サトイモは低温に弱いので、冷蔵庫ではなく常温で保存してください。

葉を根元で刈りとり、株の周囲にスコップを入れ、丸ごと掘り出していく。

掘り出したサトイモ。

まずは周囲の土を払い落とす。
子イモを一つずつ外し、残った根はハサミで切りとる。

タネイモの貯蔵

最後に収獲したイモの中から、いくつかは次作のタネイモ用に保存します。タネイモ用のイモは、茎葉を切って丁寧に掘り出し、子イモと孫イモは外さないでおきます。イモをバラバラにすると、切り口(傷口)から病源菌が侵入して腐るからです。排水のよい畑に保存用の穴を掘り、タネイモの切り口を下方へ向けて積み重ねていき、もみ殻などで覆い土をかけます。雨が入らないようビニールなどを被せておきましょう。
5月ごろ、植え付け前に掘り出して、子イモを外し、タネイモとして利用します。

排水のよい場所に穴を掘り、タネイモの切り口を下方へ向けて積み重ねていく。

もみ殻などで覆って土をかけ、ビニールなどを被せて次の植え付けを待つ。

臣先生

収穫後、親イモを捨ててしまう人もいるが、あっさりしてまた違った味わいがある。すりおろしてお好み焼きに入れてもおいしいんだ。

久野
親イモは少しかたいので、すりおろすのはいい考えですね。せっかくだから、収穫したものは全部食べたいですものね。