有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−有機栽培のすすめ−臣先生の実践講座−

講師 臣 康雄さん

講師 臣 康雄さん

タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。

取材:農園芸ライター

久野 美由紀

久野 美由紀

2021/07/20掲載

「有機栽培のすすめ」のウェブ版連載も第7回。前回からはいよいよ実践編が始まりました。今回は、いろんな料理で活躍する、なくてはならない野菜・タマネギの栽培を解説します。

第7回 有機栽培実践編2 タマネギ

久野

今回は何の野菜を教えていただけるんですか?

臣先生

用途が広く、血液サラサラ効果でも知られるタマネギにしよう。苗を買ってもいいが、自分で育苗して、たくさん収穫してほしいね。

タマネギ

作型

タマネギを本州以南で栽培する場合、特殊な品種を除いて基本的に9月中下旬ごろタネをまき、11月中下旬に植え付けます。収穫は早生種なら4月中旬、最も遅い晩生種で6月中旬ごろとなります。その後は収穫物を保存して利用しますが、一般に早くとれる品種ほど貯蔵可能な期間は短く、中生、晩生と遅くなるに従ってその期間は延びていきます。

品種

タマネギは、早生種と中生種や晩生種を組み合わせれば、4月のみずみずしい新タマネギから始まって、長い期間貯蔵して食べることが可能です。私が市民農園で使っているのは「マッハ」「OK黄」「アトン」「猩々赤」ですが、さらに貯蔵性を求めるなら「ネオアース」や「ケルたま」を入れてもよいし、もちろん早生種や中生種も別のものでもかまいません。ご自分の好みで自由に選んでください。

マッハ 早生種で早ければ4月中旬から収穫でき、みずみずしい新タマネギが楽しめる。早めにとれば葉もおいしく利用可能。
OK黄 昔からある中生種で作りやすく、苗もホームセンターなどで多く販売されている。吊り玉にしておけば12月まで貯蔵できる、バランスのとれた品種。
アトン 玉太りのよい中生種で、収量が上がる。吊り玉貯蔵で12月まで利用できる。
猩々赤 晩生の辛みが少ない赤タマネギ。鱗片が厚く、水分が多いのでサラダに向くが、その分腐りやすいので早めに消費する。

タネまき

タネまきで大切なのは、適期を守ることです。早まきすると大苗に育ちすぎて、分球やトウ立ちの原因になり、反対にまき遅れると小苗になって活着が遅れ、小さな玉しかできなくなってしまいます。

タネまきの1カ月ほど前に施肥し、耕して育苗用の畝を立てます。表面がでこぼこしていると発芽がそろいにくいので、板などを使いって平らにならしておきましょう(写真①)。深さ6〜8mm程度のまき溝を、約10cm間隔でつけていきます(写真②)。溝があまり深いと、発芽が悪くなるので注意してください。

① 畝の表面に凹凸があると発芽がそろいにくいので、板などを使って平らにならす。

② 板で約10cm間隔にまき溝をつけていく。大量に栽培する場合は、このような道具をつくっておくと、簡単に等間隔のまき溝がつけられる。

タネは親指と人差し指でつまみ、ひねるようにして1cm程度の間隔でまき溝へ落としていきます(写真③)。まき終わったら、覆土代わりのもみ殻を畝全体へ厚めにふっておきましょう(写真④)。なお、新しいもみ殻は水をはじくため、古いものの方が適します。土をかけてもよいのですが、まき溝が深いと発芽が悪くなるので注意が必要です。

畝の上に板を置き、足で踏むなどして鎮圧します(写真⑤⑥)。この作業によりタネと土が密着し、水分を吸いやすくなります。

③ 親指と人差し指でタネをつまみ、ひねるようにまき溝へ落としていく。

④ 覆土代わりに畝全体へもみ殻をかける。土が隠れるぐらい厚めに。

⑤ 板を置き、足で踏んで鎮圧する。

⑥ 板に乗るなどして体重をかけ、タネと土をしっかり密着させる。

その後、水をやりますが、ジョウロのハス口を下へ向け、ムラなくじっくりやるよう心掛けます(写真⑦)。水の量は土の状態を見て調節してください。

最後に畝全体へ、トンネル状に寒冷紗をかけておきます。これは、タネや発芽直後の苗が雨でたたかれるのを防ぐためです(写真⑧〜⑪)。タマネギにあまりムシはつかないので、害虫防除が目的ではありません。
寒冷紗は必ずピンと張ってください。たるんだ箇所があるとそこに雨水がたまり、ボトッと落ちて苗を傷めてしまうことがあるからです。

⑦ ジョウロのハス口を下へ向け、ムラなくじっくり水をかける。

⑧ 畝に支柱を渡す。

⑨ 寒冷紗をかける。

⑩ 寒冷紗を端でしっかり固定し、さらに上から支柱を渡す。

⑪ 上部からスソまで、全体にたるみなく張るのが大切。

育苗と苗とり

タマネギが発芽して育つとともに、雑草も伸びてくるので、除草は定期的に行います(写真⑫⑬)。発芽間もないころは根の張りが弱いので、雑草と一緒に抜いてしまわないよう注意してください。

⑫ 発芽間もないころは、雑草と一緒に苗まで抜かないよう注意。

⑬ タネまきから4週間後の状態。

植え付けの前日または当日に苗とりをします。フォークを条間へ差し込んで土ごと苗を掘り上げ、1本ずつバラして水洗いします。品種ごとにきちんと分類し、植え付けやすいように束ねるなど準備しておきましょう(写真⑭〜⑯)。

⑭ フォークを条間へ差し込み、土ごと苗を掘り上げる。

⑮ 掘り出した苗を1本ずつにバラし、水洗いして、束ねておく。

タマネギ栽培の秘訣はよい苗を植えることで、理想的なのは手帳用の鉛筆(通常の鉛筆よりやや細い)程度に育ったものです(写真⑯)。これより大きいと低温に反応しやすくなり、花芽分化してトウ立ちしてしまいます。逆にあまり小さな苗だと冬の寒さで枯死したり、十分肥大しなかったりするので、植える前に除いておきましょう。

⑯ 太さが手帳用の鉛筆程度のものがよい苗。

畝立てと植え付け

タマネギは連作に比較的強いので、前回と同じ畝で栽培しても特に問題ありません。ある程度の耐湿性はもちますが、過度に水分があると根腐れを起こすことがあるので、水はけには気を配りましょう。
栽培期間が長いため、元肥は一般的な作物よりやや多めに入れてください。植え付けの1カ月ほど前に施肥し、耕して畝を立てます。

条間20cm、株間12〜15cmで植え付けます(写真⑰⑱)。間隔を広くすれば玉は肥大し、狭くすれば小さくなります。貯蔵性のよいかたく締まった玉を作るには株間12cm程度が適当ですが、大玉になる「アトン」などは15cmほどとるとよいでしょう。畝幅150cm、畝面120cmの場合、20cm間隔で5本の条をつけ、それに沿って植えていきます。

畝間と株間の目安(畝幅150cm、畝面120cmの場合)

⑰ 条間20cmになるよう線を引く。

⑱ 株間12〜15cmで、条の線の上に苗を置いていく。

植え穴を軽く掘り、苗を入れて土を被せ、株元をぐっと押さえます(写真⑲⑳)。その際、根はなるべく広げた方がよく、また深植えしないよう気をつけます。土は茎の白い部分が隠れる程度に被せましょう。それより上の、葉の出ている所まで埋めてしまうと、腐りやすく、縦長の玉が出やすくなります。逆に浅く植えすぎて、根が露出するのも禁物です。

⑲ 軽く穴を掘って苗を入れる。

⑳ 土を寄せ、株元をぐっと押さえる。

植え終わったら土をならし、水がたまらないようにします。水やりをして土と根を密着させ、全体に薄くもみ殻をふっておきましょう(写真㉑)。乾燥防止、雑草防止、泥はね防止の効果があります。
穴あきマルチを利用する場合は中央に棒を挿し、根がはみ出さないように苗を入れていきます。作業はしづらいのですが、雑草防止の利点もあります。

㉑ 植え終わったら土をならし、水をやってもみ殻を薄くふる。

管理作業

タマネギの管理で最も重要なのは追肥でしょう。行うのは年末の12月、1月中下旬、2月中下旬の3回です。
まず12月の追肥は、根の働きをよくして身体をしっかり作るために行います(写真㉒)。次の1月中下旬の追肥は、トウ立ち(ネギ坊主)を防止するためです(写真㉓)。タマネギは肥料切れ状態になると、子孫を早く残すため、花を咲かせてタネを作ろうとします。つまり、追肥を行うことで花が咲くのを防げるのです。最後の2月中下旬の追肥は、止め肥といって玉を太らせるためのものです(写真㉔)。これ以降に追肥すると、玉が腐りやすくなるので、行わないようにしましょう。

㉒ 1回目の追肥は根の働きをよくするため。

㉓ 2回目の追肥はトウ立ち防止のため。

㉔ 3回目の追肥は玉太りをよくするため。このころには雑草も多くなるので、草抜きは欠かせない。

肥料は畝にパラパラまく程度でよく、あまりやりすぎないようにします。株元にやると根を傷めるので、少し離して条間や株間などへまくようにしましょう。
なお、マルチ栽培で追肥する場合は、マルチをはいで施すか、液肥を使用するようにします(写真㉕)。

㉕ マルチ栽培の場合は、マルチをはいで施肥するか、液肥を用いる。

収穫と貯蔵

4月になると玉は目に見えて肥大し、早生種から順に収穫期を迎えます(写真㉖)。葉が倒伏すると、収穫期が近づいた合図で、倒伏から約1週間後が適期となります。ただし、早生種の場合は葉もおいしく食べられるので、倒伏前でも順次抜き取っていくとよいでしょう。また、トウ立ちしてネギ坊主ができてしまったものも、早めであれば利用できます。見つけたら抜いて食べてしまいましょう。

収穫は晴天の日を選んで行います。できれば晴天が2〜3日続くころ、抜いた後に畑へ寝かせて十分乾かしておくと、病気の予防になり、日もちもよくなるのですが、梅雨の時期でもあり、それはなかなか難しいでしょう(写真㉗)。

㉖ 中央が早生の「マッハ」、右が中生の「アトン」、左が晩生の「猩々赤」。5月上旬、「マッハ」は収穫期に達したが、「猩々赤」はまだまだ。

㉗ 晴天の日が続けば、この状態で3日ほどおくのが望ましい。

㉘ 早生の「マッハ」は葉にぬめりと甘みがあり、ネギとはまた違った風味でおいしい。

そこで、抜いたらすぐ根を切り、葉を短く切って(写真㉙)ヒモでしばったうえで、風通しのよい日陰の場所で吊しておきます。とにかくよく乾かすことが大切。中生種なら年内いっぱいからうまくすれば年明けまで、晩生種なら翌春までの貯蔵が可能になります。
収穫時、貯蔵時とも、病気のものがあればすぐに取り除きましょう。一緒にしているとほかの玉にもうつるので、腐ったものがないかマメにチェックするのも長期保存のコツです。

㉙ 吊り貯蔵用に根と葉を切った「アトン」「OK黄」。日陰の風通しのよい所で吊しておく。

㉚ 見事なネギ坊主ができたタマネギ。年内の高温により、厳寒期の前に生育が進みすぎたのが原因。

臣先生

タマネギは年中必要な野菜だから、できるだけ長く保存して使いたいものだね。

久野
タマネギを使う料理はたくさんありすぎて、数え切れないぐらいです。自分の作ったものが長く利用できるとうれしいですよね。