講師 臣 康雄さん
タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。
取材:農園芸ライター
久野 美由紀
講師 臣 康雄さん
タキイ研究農場で野菜育種に従事し、退職後は大学客員教授や企業コンサルタントとして活動。有機栽培の普及にも積極的に取り組んでいる。
取材:農園芸ライター
久野 美由紀
2022/02/21掲載
「有機栽培のすすめ」実践編の第3回は、ダイコン、カブ、ニンジンの根菜類3品目を取り上げます。いずれも家庭菜園の定番なので、ぜひ作ってみてください。
今回はよく食卓に登場する、根菜三つがテーマですね。
旬の秋冬はもちろん、春にも作れる。いろんな季節に重宝する野菜だな。
ダイコンやカブといえば、「日本の野菜」というイメージですね。
どちらも「日本書紀」など古い書物に記載されていて、1200年以上前からわれわれの祖先に親しまれてきた野菜だからね。寒い季節に熱々の煮物は最高だし、漬物の定番素材でもある。
長い年月をかけた日本人の工夫が、栽培法や料理法に込められているんですね。
ダイコンやカブの旬といえば秋冬で、9月ごろ播種し、10月下旬〜12月上旬に収獲する秋まきの作型が最も作りやすく、おいしく味わえます。また、3〜4月ごろ播種し、初夏に収獲する春まきの作型も、比較的よく作られます。トンネル栽培にすれば冬まきもOK。品種を使い分けることで、さまざまなシーズンでの作付けが可能です。
ダイコンやカブでは数々の品種が販売されており、どれを買えばよいか迷う方も多いことでしょう。私が指導する市民農園では、ダイコンは「耐病総太り」「三太郎」「夏みの早生三号」、カブは「耐病ひかり」など、主に昔ながらの品種を選んでいますが、これらは作りやすく、少々病害虫の被害を受けても、大勢に影響が少ない利点があるからです。 また、春まきなど作付け時期によっては、トウ立ちしやすくなるので、その場合は晩抽性の品種を選択しましょう。
耐病総太り | 昭和49年の発売以来、ロングセラーを続ける青首ダイコンの代名詞。作りやすくて特にス入りが遅く、肉質も上々。 |
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三太郎 | 扱いやすい短形ダイコンで、秋どり栽培だけでなく冬〜春どり栽培にも向くので、さまざまな時期にまける。ス入りが遅く、裂根もしにくいため、畑に長く置け、家庭菜園で使いやすい。肉質も緻密。 |
夏みの早生三号 | 萎黄病やウイルス病などの病害に強く、耐暑性にもすぐれる、夏まき向けの品種。肌色・肉質ともにすぐれる。 |
耐病ひかり | 小カブ〜中大カブまで好みの大きさで収穫できる、作りやすい万能品種。つやがあり、ス入りや根割れの心配が少ない。 |
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ダイコンとカブはアブラナ科に属するので、連作障害を避けるため、前回アブラナ科野菜を作付けしてから、1年は間隔をあけるようにしてください。狭い面積の家庭菜園で、間隔をあける(輪作する)のは難しいかもしれませんが、多種類の野菜を入れることにより病虫害が抑えられるメリットもあります。
ダイコンは耐湿性が弱く、乾燥を好むため、日当たりと水はけのよい場所を選びます。肥料をやりすぎると、葉が茂りすぎていわゆる「つるぼけ」の状態になってしまうので、元肥は控えめにし、生育中期から後半にかけて追肥で調整していきます。
さらに、最も気をつけなければならないのが、「ダイコン十耕」という言葉の通り、しっかり耕すことです。根はまっすく伸びるため、途中に小石や未熟堆肥などの障害物があると、先が二つに分かれる又根の原因になってしまいます。元肥を入れてできるだけ深くよく耕し、畝も高くしてやりましょう。
畝幅120cmなら2条植え、60cmなら1条植えとし、株間は25cm程度あけるようにします。浅くまき溝をつけ、1カ所3〜4粒のタネをまいて軽く覆土します。覆土代わりにもみ殻を使ってもかまいません。発芽をよくするため、タネと土が密着するよう覆土の上からしっかり鎮圧しましょう。
発芽後は本葉4〜5枚までに間引きを済ませ、1カ所1本にします。
ダイコン(畝幅120cm、2条まき)
カブもダイコン同様に、日当たりのよい場所を好みます。乾燥気味が望ましいのですが、畝の乾きと湿りの変動が激しいと、裂根や変形の原因となるため、暑い時期などは特に常時適湿となるよう心掛けます。
施肥は元肥主体とします。初期に養分が不足すると、ス入りの原因ともなります。
カブの根は60cm程度と、意外と深くまで伸びるため、ダイコン同様元肥を入れて深くまで耕し、畝を立てます。
小カブの場合、幅100cm程度の畝に4条の浅いまき溝をつけます。カブのタネは比較的細かいので、まき溝には凸凹ができないようにし、発芽をそろえます。1〜2p間隔でタネを条まきして軽く覆土し、ダイコン同様しっかり鎮圧しておきましょう。
生育するに従って適宜間引き、最終的に株間8〜15cmにします。中カブなら3条で株間20〜30cm、大カブなら2条で株間30〜45cmと、大きさによって調整してください。
小カブ(畝幅100cm、4条まき)
8月末に1カ所3粒まきし、10日あまり経過したダイコン。本葉4〜5枚までに間引いて1カ所1本にする。
タネまきから10日あまり、芽が出そろってきた小カブ。ここから少しずつ間引いていく。
近ごろは年によって気候変動が激しく、暖冬だったり、厳しい寒さがきたり、なかなか予測が難しいのが現状です。面積に余裕がある場合は、ある程度時期を分散してタネをまくことをおすすめします。
なお、害虫の被害を避けるため、12月〜1月にまくことも可能ですが、ダイコン、カブ、ハクサイなどのアブラナ科の野菜は、発芽するころ低温にあうとトウ立ちしやすくなります。冬季にタネをまく場合は、ビニールトンネルをかけて日中の温度を上げることで、夜間の低温をいわば消去し、トウ立ちを防止することができるのです。その場合、ビニールの端を土で押さえるなどして隙き間をつくらず、密閉することが必要で、マルチをするとさらに効果的です。もちろん、晩抽性の品種を選ぶことも大事な要素です。
ダイコンの場合、間引きを終えて1カ所1株にしたら、追肥を行います。このとき、株元に施すと肥料焼けしてしまうので、葉の広がった先のあたりを目安にし、軽く耕して土寄せしておきましょう。土中の通気がよくなって、生育を促す効果があります。収獲までにこれを3回程度行います。
カブは、小カブなら追肥は必要ありません。中〜大カブなら最終間引き後に1回施肥し、軽く耕して土寄せをします。
タネまきから1カ月弱、9月下旬のダイコン。1カ所1本に間引き、追肥を行う。
間引きを終えると、ダイコンの生育は目に見えて進んでいく。写真は10月下旬の状態。
マルチ栽培は雑草抑制の効果が高い。
カブは目的の大きさに合わせて適宜間引き、中〜大カブにする場合は最終間引き後に追肥を行う。
アブラナ科野菜は、害虫が比較的多い作物です。特に、畑を飛び回るチョウは悩みのタネ。葉に卵を産みつけるため、孵化した幼虫のアオムシが葉を食害し穴だらけにしてしまいます。ほかにダイコンサルハムシ、キスジノミハムシなどもアブラナ科野菜でよく見る害虫です。
これらを予防するには、まず健康な野菜に育てることです。害虫は、植物の発する「におい」に引き寄せられます。つまり、細胞膜や表皮がしっかりしたものを作れば、においが漏れにくいのです。土づくりを行い強く育てることで、害虫を防げるのはこのような理由からです。
しかし、いくら土づくりをしても、被害をゼロにするのは難しいでしょう。そこで大切なのが、野菜をよく観察することです。特に、虫は葉の裏へ卵を産みつけることが多いため、ざっと眺めるだけでなく、葉を裏返して確認するようにします。また、やわらかい新芽は幼虫が好むので、成長点付近もチェックしておきましょう。
ほかに、コンパニオンプランツを取り入れるのも一つの方法です。
アブラナ科野菜には、レタスやシュンギクといったキク科の野菜を混植することで、害虫の忌避効果が生まれます。近くに植えさえすればよいので、簡単に実行できます。
土中のセンチュウ対策としても、コンパニオンプランツは有効です。有機物を施して土中の微生物を増やすのは対策の基本ですが、さらに間作や前作に相性のよい植物を植えてみましょう。
ネコブセンチュウはアブラナ科だけでなく多くの野菜の根にじゅず玉状のこぶをつくり、生育を衰えさせますが、これは前作にスイートコーンやピーマンを栽培することで被害が軽減されます。また、ネグサレセンチュウは、間作や前作にマリーゴールドを作ることで駆除が可能になります。
アブラナ科野菜の重要病害としては、根こぶ病があります。酸性で排水の悪い土地に多発し、一度発病するとなかなか根絶できないやっかいな病害です。もし家庭菜園で発生した場合は、石灰を施して酸性土壌を矯正し、排水をよくして土を改良すること、イネ科などアブラナ科以外の野菜と輪作すること、などの対策をとるようにしましょう。
害虫は葉の裏に潜んでいることが多いので、必ず裏返して確認する。
作型や品種にもよりますが、ダイコン、カブとも、播種から2カ月程度で収獲期を迎えます。あまり長く畑に置くと、割れやス入りが発生する恐れがあるので、適期に抜くよう心掛けましょう。
収穫期に達したら、ス入りやトウ立ちの前に抜くよう心掛ける。
家庭菜園で少しずつ使いたい場合は、晩抽性の品種を使うと畑に長く置ける。写真は2月まで置いたもの。
3月にタネまきし、5月に収穫期を迎えた小カブ。保温することで、春まきでもうまく作れる。
私はおでんのダイコンが大好きなんです。カブも煮るとおいしいし、寒い季節には欠かせませんよね。
身体を温めてくれるから、よけいおいしく感じるのかもしれない。まさに旬を楽しめる品目だな。
ニンジン栽培は難しいと聞きますが……。
難しいのはとにかく発芽だな。逆にいえば、それさえうまくいけば、あとはわりと楽に作れるんだよ。
ニンジンでは、6月下旬〜8月上旬に播種し、11月〜2月にかけて収獲する夏まきの作型が一般的です。ほかに3月中旬〜4月に播種し、7〜8月に収獲する春まきの作型もあり、品種を工夫すれば周年栽培も可能ですが、家庭菜園では夏まきで作られることが多いでしょう。
ニンジンには、オレンジ色の西洋種と濃い赤色の東洋種があり、現在ではニンジンといえぱ西洋種を思い浮かべる方がほとんどでしょう。東洋種は金時ニンジンとも呼ばれ、おせち料理など限られた場面で使用されることが多いようです。
栽培が容易なのはやはり西洋種で、私のおすすめは昔ながらの「向陽二号」「夏蒔鮮紅五寸」「いなり五寸」などです。
向陽二号 | トウ立ちが遅く、耐暑性にもすぐれ、春まき、夏まきに幅広く使える五寸ニンジンの代表的な品種。土質を選ばずどこでも作りやすいうえ、よく太ってつやもよい。 |
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夏蒔鮮紅五寸 | 暑さに強く、生育旺盛で作りやすい夏まき、年内〜冬どりの品種。多く収穫できる。 |
いなり五寸 | 寒い時期の生育と肥大がよい、春まき専用品種。トウ立ちが遅く根割れも少ないので、安定して収穫できる。 |
連作障害を避けるため、前回の作付けから1年は間隔をあけるようにします。日当たりのよい場所を選び、肥料切れを防ぐため、元肥には長もちする緩効性肥料を使用しましょう。施肥し、深くよく耕して土を砕き、幅80cm程度の畝を立てます。
ニンジン栽培で最も難しいのが、いかに発芽させるかです。特に暑い中での播種となる夏まきニンジンは、難易度が高くなります。
畝に2条のまき溝をつけ、1cm程度の間隔でタネを条まきしていきます。ある程度密にまき、一斉に発芽させた方が、競い合ってその後の生育がよくなります。また、ニンジンは好光性種子で、発芽に光を必要とするため、覆土はタネが隠れる程度に薄く行ってください。
まき終わったら十分に水をやり、しっかり鎮圧します。できれば板などを置いて足でグッと踏み、土とタネを密着させてやるとよいでしょう。これはタネと土をなじませ、土中の水分を吸収しやすくするためです。ニンジンのタネは播種後に一度でも乾くと発芽しなくなるので、芽が出そろうまでは毎日水をやるようにします。
ニンジン栽培で最も重要なのが、いかに発芽させるか。鎮圧して土中の水分を吸収しやすくすることで、きれいに芽が出そろう。
ニンジン(畝幅80cm、2条まき)
タネを多めにまくため、適切な間引きが必要です。遅れると、ニンジン同士がじゃましあって太りが悪くなり、間引くときに残すニンジンを傷つけてしまうこともあります。ニンジンの間引き菜は、お浸しや天ぷらにするとおいしく食べられるので、間引きながら収獲していく感覚でもよいでしょう。
間引きは2回ほどに分けて行います。1回目は本葉2〜3枚ごろ、2回目は本葉5〜6枚ごろ、勢いの弱い株を間引き、最終的に株間10〜12cmになるようにします。
ニンジンの肥料切れは禁物です。追肥の回数を多くし、遅くまでコンスタントに肥効を保つよう心掛けます。2回目の間引き後は、追肥したら株元へ土寄せしておきましょう。ニンジンの肩が露出したままだと、日光が当たって緑に変色してしまうからです。
9月下旬、タネまきの約1カ月後。込んできたら間引いていき、最終的に株間10〜12cmにする。
10月下旬の状態。1カ月でかなり育っているのが分かる。
収獲の目安はタネまき後110〜130日です。極端に収穫が遅れると、品種によってはひどく裂根することがあるので注意しましょう。
収穫期になると、葉はこんもりと茂ってくる。
11月下旬、よく太ったニンジンが収穫できた。
難しいと思っていましたが、なんだか私にも作れそうな気がしてきました。
ポイントをつかめば大丈夫。周囲に上手な人がいたら、その人はどう栽培しているか、違いをいち早くつかむことだな。
うまい人のやり方を見るんですね。ほかにはどんなことを心掛けていますか?
金をかけずに汗をかく、ということだ。落ち葉やもみ殻、米ぬかなど手に入りやすい資材を利用して土づくりする。農薬を使わず安全・安心な野菜を確保する。身体と頭を使って活性化を図る。これに勝る道楽はないと思うよ。
2024年
秋種特集号 vol.58
2024年
春種特集号 vol.57