鈴木光一のズバリご指南〜人の集まる魅力の売り場づくり〜鈴木光一のズバリご指南〜人の集まる魅力の売り場づくり〜

鈴木農場・伊東種苗店 店主
鈴木 光一(すずき こういち)

鈴木農場・伊東種苗店 店主 鈴木 光一

私は、福島県郡山市で現在まで30年間、野菜の直売所を経営してきました。また、縁あって平成8年より種苗店も兼営することになり直売所とタネ屋の両面から農業を考えるようになりました。日本農業が進む方向性のひとつは、本当にお客さまが欲しいと思える「価値のある商品づくり」をしていくことだと感じています。そのためにも、野菜の品種選びをしっかり行いましょう。

本誌『タキイ最前線』2017年春号よりスタートの新連載「鈴木光一のタキイ品種レビュー」。種苗店、農園、マルシェを経営する筆者に「直売で売れる」タキイ品種をご紹介いただいています。ここでは本誌では紹介しきれなかった、筆者の考える「商品価値を高める」ための野菜作り、販売のポイントなどを公開します。

2019春種号連載記事はこちらから

2019/07/22掲載

第6回異常気象対策への取り組み

昨今、夏の猛暑、台風の襲来、ゲリラ豪雨などから野菜の生育が思わしくないとの相談がよくあります。
多いのは次の6点です。

@トマトの夏の高温障害Aニンジンの高温・乾燥による発芽不良Bキャベツ、ブロッコリーの定植後の暑さによる活着不良C台風によるトウモロコシの倒伏Dゲリラ豪雨による浸水Eゲリラ豪雨により畑がかたくなっている

土づくり、畑づくりの大切さ

私がお客さんにおすすめするのは、まずは畑をしっかりつくることを考えてほしいということです。かつての農業は良質の堆肥をしっかりと畑に投入して土をつくることから始めていました。しかし現在は良質の堆肥が少ないこと、畜産の堆肥を入れることでリン酸・カリといった養分が過剰になることなどから堆肥による土づくりがなされなくなってきました。

そういったときにおすすめしているのが、
腐植チャージです。
腐植チャージは、泥炭を原料とした肥料です。腐植酸により、土づくりの基本である透水性・保水性を高めるための団粒化を図ること。CEC(陽イオン交換容量)を高めて施した肥料の無駄をなくすこと。根の張りをよくして、リン酸などの土壌に溜まっている養分の有効化を図ってくれます。また、腐植酸は土壌中の微生物の住みかや餌となり微生物の活性化も図ってくれます。水に溶ける腐植酸により発芽、発根も促進してくれます。
Aニンジンの発芽不良対策などにも有効です。

「腐植チャージ」と「腐植チャージリキッド」(大興貿易)。粒状のものは腐植酸を約50%配合し、2袋で堆肥1t分の腐植酸をチャージする。リキッドタイプは生育途中でも補給することができる。

異常気象の対策の基本は、土づくりであり、野菜が健全に根を張れる土台づくりが大切です。

土づくりに関しては、排水が悪く浸水しやすい畑や、かたくなっている畑には、土の物理性を改善するために、
グリーン・ベラボンもおすすめしています。
この資材は、ヤシの実をカットしてチップ状にしたもので、水はけがよくなり、土に空気が入るので土がしまりにくくなります。そして空気が入るために暑さ、寒さの影響を受けにくくなり作物のストレスを軽減してくれます。
排水性の悪い部分や、畑がしまったかたい部分に使うことも有効です。
Eゲリラ豪雨でかたくなった圃場対策に有効です。

土壌改良材「グリーン・ベラボン」(フジック)はヤシの実をカットしたもので、通気性、排水性などを改善する。効果は5年程度持続する。

2年前の秋、台風やゲリラ豪雨で畑が冠水して収量が減り、秋冬野菜が高騰したことはまだ記憶に新しいのですが、収量が減った原因は、台風により雨で畑が浸水し水分過剰で根が酸欠状態になったことがあげられます。対策としては、酸素供給剤の施用です。
オキソパワー5は、5カ月間、土中で酸素を供給し続けることで根の酸欠を防いでくれます。
Dゲリラ豪雨による浸水に有効です。
3カ月タイプのネオカルオキソや、
速効性のある1カ月タイプのネハリエース
状況に合わせて使い分けてください。

土壌改良剤・酸素供給剤などは畑に保険をかける意味で使ってくださいとおすすめしています。

「オキソパワー」(タキイオリジナル)、1袋(10kg)当たり約400ℓの酸素を約5カ月間の長期にわたり供給。水分との反応性は低いが元肥として施用して大きな持続力がある。
「ネオカルオキソ」(保土谷UPL)、1袋(10kg)当たり約340ℓの酸素を約3カ月間供給。こちらも元肥施用の長期間供給タイプ。
「ネハリエース」(保土谷UPL)、1袋(10kg)当たり約340ℓの酸素を約1カ月間供給。水分との反応性が高く表面散布でも速効性がある。

猛暑をどうやって乗り切る?

夏の暑さも問題です。30℃台後半の気温になることも珍しくない中で、トマトのハウスの雨よけ夏秋栽培では
@高温障害をいかに軽滅できるかが課題になります。
お客さんには、
タキイ涼感ホワイトを使ってもらっています。
赤外線を反射させることでハウス内の温度を最大5℃近く低下させます。トマトにとって暑さを軽減できるだけでなく、作業する人間にもやさしいとお客さんからも大変好評です。

「タキイ涼感ホワイト」(タキイオリジナル)。ネット状ポリエチレン不織布を使用することで赤外線を反射し、ハウス内の温度を低下させる。遮光率の異なる4種類の製品が用意されている。

また、夏の猛暑で秋冬野菜の
Bキャベツ、ブロッコリーの活着不良も問題になっています。
暑さと、乾燥によるものです。
そこでおすすめしているのが
ゲインウォーターです。
定植時に土にまくだけで保水力が高まります。液状なので浸透性も高く乾燥による水分流失を防いでくれます。定植後の苗の活着がよくなります。
お客さんからもキャベツの水やりの回数を減らすことができたととても評判の資材です。
Aニンジンの発芽不良対策として潅水時にこの資材を使われている方もいます。

「ゲインウォーター」(日本甜菜製糖)は乾きやすい圃場、砂地の圃場に最適。土にまくだけで保水力が高まる。

気象災害に強い品種を選ぶ

C台風によるトウモロコシの倒伏の相談もよく受けます。
株元への土寄せなどをしっかり行うなどの対策と合わせて、
草丈が低く、倒伏に強い「ランチャー82」
などの品種を紹介しています。

「ランチャー82」は食味にすぐれ、粒がしなびにくい良質イエロー種のスイートコーン。草丈が低く倒伏に強い。

猛暑や台風、ゲリラ豪雨が当たり前になってきている中で、それに対応してよい農作物を生産していくことが農業にとってとても大事なことになっています。野菜の品種特性や資材をうまく活用しながら野菜本来の力を引き出してやること、環境をつくってやることが農業です。
また、種苗店としては、それらの問題解決の的確な方法を情報として提供できることが大切だと思っています。専門店として農家と農業のこれからに寄与できるようにしたいと考えています。