品種ピックアップ
2024/7/22掲載
品種ピックアップ
2024/7/22掲載
農林水産省の発表によれば農業就業人口は年々減少している一方で、キャベツの作付面積は2021年までの16年間で約4%増加し、今現在もその規模を維持しています。背景には大産地を中心に、生産者当たりのキャベツの作付面積の増加があります。
しかし、栽培面積の拡大に必要な人材の確保が難しい生産現場では、求められる品質とサイズで適期収穫し、安定的に出荷することが困難になる場面も出てきました。
温暖化による夏〜秋口にかけて突発的な豪雨が頻発し、収穫作業が遅れた圃場では玉尻の腐敗による減収が課題となっています。腐敗の多くは、収穫適期を迎えたキャベツが強い降雨の後に倒伏してしまうことによって引き起こされ、さらに長年の連作の影響で、キャベツの難防除病害の一つである黒腐病の発生も常態化しています。
このような状況にタキイでは、「比較的収穫適期の短い中早生熟期でも裂皮 ・裂球や老化が遅く、過肥大しにくいこと」「株が倒れにくいこと」「茎がやわらかく、へん円で玉ぞろいがよいこと」「黒腐病の耐病性に特にすぐれること」、この4点を併せもつ寒玉系品種の育成を目標として開発を進めてきました。そして夏秋どりキャベツで日本一の生産量を誇る群馬県嬬恋村を中心に、3年間の試作と経済栽培の結果から、これらの品種特性が産地に貢献できると判断し、このたび「涼空」として発表することとなりました。
タキイ研究農場 城田 良裕
適期栽培では定植後75日程度で収穫期に達する寒玉系中早生種です。冷涼地の8〜9月出荷および中間・暖地の5〜6月出荷に適します。
生育の進みやすい初夏〜夏秋どり栽培でも収穫適期後の裂皮・裂球や老化が遅く、過剰な肥大球になりにくいため、一定の品質・サイズを安定的に出荷することが可能です。
また茎が短く生育後半まで根張りが持続するため、収穫適期を過ぎた後も倒伏しにくく、玉尻からの腐敗が少なく収量が上がります。
密植栽培でも玉のそろいがよく、茎がやわらかく切りやすいので、収穫作業が効率的に進みます。
玉形状がへん円に安定するため、箱詰め作業も容易です。
キャベツの難防除病害の一つである黒腐病に対し高度な耐病性を示します。また萎黄病、バーティシリウム萎凋病に対しても耐病性をもちます。
冷涼地の4月上旬〜5月まき→8月上旬から10月初旬どり、中間地の12月初旬〜1月下旬まき→5月中旬〜6月中旬どり、暖地の11月下旬〜1月下旬まき→5月上中旬〜6月上旬どりとなります。
本種は特にやせ地や乾燥しやすい畑では根張りが不十分となり、外葉〜結球葉の縁に石灰欠乏症が発生し、そこから灰色かび病、菌核病、株腐病などの病害が広がるおそれがあります。根量を確保しやすい肥沃で保水性がすぐれた畑への作付けが適しています。
石灰欠乏症の防除にはカルシウム資材の葉面散布が特に効果的です。本圃での薬剤散布を行う際には、他の薬剤との混用の可否を確認しながら葉面散布剤を施用してください。
元肥主体の肥培管理を行います。初期生育の時点で肥効を高め、外葉を大きく作ることで玉肥大を進めます。また追肥も早めに行い、生育後半まで安定した肥効を保ちます。追肥が遅れ収穫期に肥効が高まると裂球を招く場合があります。
肥効の抜けやすい圃場での作付けは避けてください。
作型表から大きく外れた冷涼地の晩秋どりでは肥大が悪くなることがあります。また、早春どりでは側枝が発生し収穫が遅れる場合があります。適期表をよく確認し、適期栽培を心掛けましょう。
本種は茎が短いため、特に菌核病、株腐病の発生に注意が必要です。それぞれに効果のある薬剤を用いて、生育初期から適切に防除を行ってください。
また、本種は黒腐病に対し高度な耐病性を示しますが、完全ではありません。べと病、根こぶ病とともに適切な防除を行ってください。
「涼空」は耐倒伏性、茎のやわらかさ、玉形状の安定性および黒腐病耐病性は「涼峰」と近似します。
作型での使い分けとして7月中旬〜8月中旬どりで「涼峰」を使用いただき、より在圃性が必要な8月下旬〜9月どりでは裂皮・裂球や老化が出にくい「涼空」が適します。
この2品種を使い分けることでロスの少ない安定したキャベツ生産ができ、計画的な出荷が可能となります。
「涼峰」
冷涼地7月中旬〜8月中旬どりでは「涼峰」を。「涼峰」は耐倒伏性や茎のやわらかさなどの特性が「涼空」と近似する。
「涼空」
8月下旬〜9月どりは在圃性が必要なので、裂皮・裂球や老化の出にくい「涼空」が適する。
2025年
春種特集号 vol.59
2024年
秋種特集号 vol.58