タキイ交配 名月一文字

濃緑・小葉耐暑性にすぐれる夏秋どり1本ネギ

2019/02/20掲載

雨村 拓央

茨城研究農場

雨村 拓央
(あめむら たくお)

2017年は秋台風の影響で、産地の多くが被害を受け、その結果ネギの価格が高騰し、春まで高い価格で取引されました。ここ数年の市場価格を見てもネギは価格の暴落が少なく、比較的高い価格で取引されています。もうかる野菜のひとつとして、新たに作付けする産地もあり、全国的に見ると作付面積は微減でとどまっています。
ネギは高温・多湿を嫌う作物のため夏秋どりの中心産地は、北海道や東北などの冷涼な気候の産地に集中していますが、近年の温暖化により、それらの地域でも耐暑性にすぐれる品種が必要となります。さらに台風の発生により大きな被害を受けないよう、できる限り葉(葉身)をコンパクトにし、風による倒伏が少ない品種が求められます。
そこで、葉身を短く小葉立性にし、濃緑、硬葉で、さらには襟部のばらけを遅くすることで倒伏や耐暑性にすぐれる品種の育成を目標としました。

作型

「名月一文字」は全般緩やかに生育するため収穫までの日数を長く確保することが必要です。また高温期でも緩やかに生育する一方、晩秋から冬場の低温期にかけて生育が鈍り、休眠に入るタイミングが秋冬系の品種より早くなります。したがって秋冬どりの播種期で栽培すると軟白長が足りなくなるため注意が必要です。一般地では11月まで、冷涼地では10月までに収穫を終えるよう播種、定植時期を計画します。

「名月一文字」適期表

「名月一文字」適期表
ポイント

品種特性

「名月一文字」

1濃緑、小葉立性で管理作業が容易

「名月一文字」は、草姿が濃緑で小葉立性のため土寄せや薬剤散布などの管理作業が容易に行えます。草丈は85〜95p、葉鞘部は35〜40pとコンパクトで風による倒伏の被害が少ない品種です。

2首しまりにすぐれ、襟部のばらけが
遅いため在圃性にすぐれる

首部のしまりがよく、襟部のばらけが遅い品種です。特に高温期に襟部がばらけると、そこから軟腐菌が侵入し発病しやすくなります。

3そろい性と耐病性にすぐれる

本種はクズの発生が少なく、Lサイズ中心によくそろう秀品率の高い品種です。さび病やべと病にも比較的強いものの、予防を中心とした薬剤散布は必要です。

4出荷調製が容易で、良食味

皮むきが容易で、葉身も短いためごみの量を軽減できます。また、黒柄系ながら肉質は緻密で繊維質は少なく、味が濃いため、焼き物や煮物料理に適します。

栽培のポイント

土寄せ・肥培管理

生育に合わせた緩やかで持続的な肥効体系が効果的です。有機系肥料や緩効型の肥料を組み合わせながら、追肥を少量ずつこまめに施すことが上作のポイントです。
特に高温期はネギの活性が弱まるため、土寄せや多量の施肥はストレスとなり、軟腐病などの発生を助長します。また高温期に襟部が隠れるまで土寄せを施すと、襟部から病原菌が侵入し、病害のリスクが高まりますので、土を寄せすぎないようにすることも重要です。

病害対策

耐病性に関しては、品種間差もありますが、基本どのネギも罹病しますので、予防を中心とした薬剤散布が重要です。高温期に問題となる軟腐病に関しては、治癒剤はないため高温期を迎える前に、土寄せの際に「オリゼメート粒剤」などを混和することが必要です。
さらに高温期はネギアザミウマなどの害虫も発生しやすくなり、商品価値も下がりますので、粒剤、水和剤などを組み合わせながら発生がひどくなる前に抑えることが重要です。

おすすめ資材

オキゾパワー10ネギの根は酸素要求量が高いため、土寄せすると根は上部の方に伸長します。近年の異常気象、ゲリラ豪雨によりネギの根が冠水し腐敗する現象が各地で問題になっています。酸素供給剤のひとつである「オキソパワー5」は、酸素供給期間が約5カ月と長いため長期にわたり、根の呼吸を助け根張りをよくし、作物の健全な生育を助けます。元肥として10a当たり40〜60 ㎏全面散粒混和で利用するのがおすすめです。
亜リン酸肥料「ホスベジ10」も発根を促す肥料としておすすめです。

「一文字」「ホワイト」シリーズそれぞれの使い分け

「ホワイトスター」に代表される「ホワイト」シリーズは、伸長性、肥大性にすぐれるなど生育が旺盛で、播種から収穫までの日数が短いタイプの品種です。夏どりや年内どりには「ホワイトスター」を、耐寒性が必要な作型では「ホワイトソード」をおすすめします。
一方、小葉で緩やかに生育し、襟部のばらけが遅く在圃性にすぐれる「一文字」シリーズは、現在、晩抽系の「初夏一文字」と今回発表の夏秋どり種「名月一文字」の2品種ですが、今後、秋冬どり種を発表し、シリーズを充実させていきます。

※文中で紹介している農薬は、タキイでは取り扱いのないものもございます。ご了承ください。
 また、農薬をご使用の際は必ず登録の有無や使用方法をご確認ください。(編集部)