タキイ交配 吉兵衛

べと病抵抗性シリーズに新顔登場!
株張りがすぐれ栽培容易な多収の中早生種

2020/07/20掲載

林 宏信

タキイ茨城研究農場

林 宏信
(はやし ひろのぶ)

出荷調製作業に時間がかかるホウレンソウでは、時間あたりにどれだけの束数ができるかが、出荷量を決める重要な要因となっており、品種には収量性はもちろんのこと、収穫作業性についても高いレベルが求められています。
タキイでは収量性と作業性を高いレベルで両立した品種を目標に育成を進め、2018年に生育旺盛で栽培容易な夏どり「タフスカイ」秋・春どり「福兵衛」冬どり「伸兵衛」を発表、各産地で高い評価をいただいております。さらに「多収」+「高作業性」シリーズを充実させ、全国産地の多様なニーズにお応えできるよう、じっくり生育する在圃型品種の育成も進めてまいりました。
今回、秋・春どり在圃型品種として「TSP-538」の3年にわたる産地試作を行ったところ、高い評価を得られましたので、「吉兵衛」として発表する運びとなりました。

「吉兵衛」適期表

「吉兵衛」適期表
べと病R
ポイント

品種特性

1秋〜年内どり、春どりの在圃種

比較的ゆっくり生育し、暖かい時期でも葉柄が長くなりにくい特長をもっており、秋〜年内どり、春どりの栽培に適した在圃型品種です。当社試験では9月下旬の播種でおおむね「福兵衛」より5〜7日程度遅く収穫適期となります。

2葉枚数が多く株張りがすぐれる

べと病抵抗性シリーズの中では最も葉枚数が多く、特に株張りがすぐれます。葉柄は折れにくく、葉の長さが均一で草丈がよくそろうため収穫調製作業も容易な品種です。

3播種期幅が広く栽培容易

秋の下降気温、春の上昇気温の両方に対応できる播種期幅の広い品種です。

栽培のポイント

播種適期を守る

「吉兵衛」は在圃型品種といえども、春の上昇気温下では生育が早くなる傾向があり、良品出荷のためにも播種適期に沿った栽培をおすすめします。また、低温下の生育は緩慢になるため、厳寒期どりの栽培は避けてください。

総合的なべと病対策

べと病はレース分化の起こりやすい病害で、近年、新しいレースの発生するサイクルが早くなっています。抵抗性品種の利用のみではなく、総合的な防除を併用し、登録農薬による予防的な防除を心掛けてください。

タキイのホウレンソウべと病R12抵抗性シリーズの特長

収量性と作業性の両立を目標として3つの共通する特長をもっています。

①葉柄が太く、株張りよく多収
②葉柄はしなやかで折れにくく収穫調製作業が容易
③べと病抵抗性

葉柄が太い多収品種でありながら、葉柄の折れやすさを改善し、収量性と作業性の両立を実現しました。各作型で熟期の異なる品種をそろえることで、栽培時期、体系に適した品種を選んでいただけます。

R12品種の生育速度の比較

栽培地域ごとに品種を組み合わせて

萎凋病に強い耐病性をもつ「タフスカイ」
作型幅が広く、年内どり〜早春どりに適した早生種「福兵衛」
秋〜年内どり、春どり栽培に適した在圃型品種「吉兵衛」

「吉兵衛」は秋・春どりの在圃型品種となり、「福兵衛」、「タフスカイ」と組み合わせることで秋〜年内どり、春どりで端境期を短かくし安定した栽培・収穫が期待できます。

一般地での使い方

9月中下旬まき
栽培期間を通じて気温が高く推移するため、株が細くなりやすく、株張りがすぐれる「吉兵衛」の特長が発揮できる作型です。ただし、萎凋病が発生する圃場では萎凋病耐病性の「タフスカイ」のご使用をおすすめします。
10月上中旬まき
徐々に気温が下がり、在圃性を発揮できる作型です。早生型の「福兵衛」在圃型の「吉兵衛」から栽培体系に適した品種をお選びください。秋の長雨で圃場の準備が遅れることが多く、「吉兵衛」と「福兵衛」を同時に播種すれば1回の播種で収穫時期をずらすことができ、効率的な栽培が可能です。
2月まき
徐々に気温が上昇し、全体的に生育が早くなりますが、「吉兵衛」は比較的ゆっくり生育するため、在圃性を重視する方におすすめです。
3月まき
気温が高くなり生育が促進されるため、「吉兵衛」もほかの播種期よりも早く伸びる傾向がありますので、取り遅れないようにご注意ください。この時期は「タフスカイ」も播種適期となります。よりゆっくりした生育を好まれる方には「タフスカイ」もおすすめです。

冷涼地での使い方

9月まき
まだ気温の高い9月上中旬は「吉兵衛」の株張りのよさが生きてくる時期です。9月下旬以降の播種では徐々に生育がじっくりしてきますので、保温を施し生育温度を確保してください。
2月中旬〜3月下旬まき
低温期の播種となりますが、初期生育は旺盛で株張りは安定します。3月下旬の播種では収穫期の温度が上昇しますので、よく換気を行い、がっちり仕上げることが良作のポイントです。