本命の春どりで能力を生かす!
そろいと色のよい春夏作兼用の早生種
2020/02/20掲載
タキイ研究農場
坂巻 有一
(さかまき ゆういち)
春ニンジンはやわらかくておいしいと人気があり、市場でも比較的高値で安定していることから、春ニンジンの作付けは年々増加傾向にあります。しかしながら栽培面では抽苔や高温期の収穫では品質保持の難しさなど、さまざまな課題が残されています。
2019年に発表した「恋むすめ」は、トンネル栽培において晩抽性があり、低温期の肥大性と根色にすぐれ、そろいがよく収穫後の変色に強いことを目標に育成した品種です。
「TCH-755」として主要産地での試作結果もふまえて、春ニンジン「恋むすめ」の特長と良品生産のポイントをご紹介いたします。ぜひ春ニンジンとしての導入をご検討ください。
「恋むすめ」適作型
最適播種期
中間地:1月中旬〜2月下旬
暖 地:11月上旬〜12月上旬
「恋むすめ」適期表
品種特性
1晩抽早生種
「恋むすめ」はトンネル栽培に向く晩抽性をもち、尻づまりのよい早生品種になります。形状の乱れが少なく、M・Lサイズによくそろい秀品率が高いのが特長です。
秀品率の高さは魅力です。
2しみ腐病に比較的強く、安心して栽培できる
根形はやや短めの五寸ニンジンで、肌は滑らかでつやがあります。早生品種の中では根部病害であるしみ腐病に安定して強く、重い土質でも発生が少ないのが特長です。
また、春ニンジンは収穫時期が5月から7月と高温下での収穫になるため、環境条件によっては収穫後に表面が黒く変色する場合があります。「恋むすめ」は比較的変色しにくいので、出荷後の品質にもすぐれます。
3葉がコンパクトで、機械収穫に最適
トンネル栽培では、気温の上昇にともない葉の生育が旺盛になり、葉長が伸びやすくなりがちです。葉が大きくなりすぎると根部の肥大不足につながります。
また、機械収穫では株元が見えにくく、機械に葉が詰まりやすいなど作業効率に影響します。
「恋むすめ」は地上部がコンパクトで草姿が立性のため、根部の肥大不足を防ぎ、機械収穫にも適します。
4夏まき栽培も可能
中間地夏まき栽培では播種期が7月下旬〜8月上旬という猛暑の時期であり、ニンジンにも農作業にも大きな負担です。「恋むすめ」は早生性と低温肥大性の特長を生かし、8月下旬の遅まき作型も可能です。
栽培のポイント
適期播種を心掛ける
「恋むすめ」の特長である低温時期の根色と尻づまりのよさを発揮できるおすすめの播種期は、中間地の1月中旬〜2月下旬、暖地の11月上旬〜12月上旬のトンネル栽培です。地上部がコンパクトで初期生育がじっくりしているため、あまり早く播種すると地上部が十分な生育ができず、肥大不足や短根の原因になるのでマルチやベタがけ資材を利用すると効果的です。きれいなニンジンを生産するために適期播種を心掛けましょう。
発芽をそろえる
ニンジンは初期生育が緩慢なため、発芽をそろえて初期生育をスムーズにすすめることが上作のポイントになります。発芽に時間がかかる春ニンジンの場合は特に重要です。圃場の準備、播種作業は適度な土壌水分のもとで行います。
春まきの場合、およそ2〜3週間程度で発芽がそろいます。発芽まで土壌の適湿を保つようにトンネルをしっかり張って密閉して乾燥に注意してください。初期の乾燥は岐根の原因に、また肥大期からの極端な乾燥や過湿条件は裂根や肥大不足、着色不良を招くため、適切な土壌水分を保つように心掛けましょう。
適切な温度管理を心掛ける
トンネル栽培において、換気による温度管理が最も重要です。発芽までは温度と湿度を十分保てるようトンネルを密閉、発芽後は生育に合わせた換気を行います。本葉7枚目までは30℃を超えない程度のやや高めの温度で管理をすることで初期生育を促します。この時期の温度が抽苔にも影響してくるので、日中は20℃以上になるよう心掛け、ディバーナリゼーション(脱春化)※をさせることで抽苔を上手に回避しましょう。
肥大期になる本葉7枚目以降は25〜28℃程度に管理して肥大を促進させます。35℃以上では地上部の生育が旺盛になりすぎて肥大遅れや色のりが悪くなるので注意が必要です。徐々に換気を大きくして順化させながら、外気温が平均10〜12℃になるころ、トンネルを外します。
※ディバーナリゼーション(脱春化)
夜間に受けた低温の影響を日中の高温管理で打ち消し、抽苔を回避する栽培。