品種ピックアップ
2025/2/20掲載

トマト「桃太郎みなみ」
農林水産省品種登録出願中(品種名:TTM170)
品種ピックアップ
2025/2/20掲載
トマト「桃太郎みなみ」
農林水産省品種登録出願中(品種名:TTM170)
元々は夏が冷涼と言われた夏秋産地でも、晴れた日の日中のハウス内が40℃を超える日も珍しいことではなくなりました。暑さが原因で発生する「着果不良」や「裂果」などの障害が年々増え、安定した収量を確保することが難しくなってきています。そのような現状に対応するため、品種のトレンドも「食味」重視から「栽培性重視」へと変わり、近年は「着果安定」「耐裂果」というコンセプトの品種が主流となってきています。
これまで食味のよさを前面に打ち出しシリーズ化を図ってきた「桃太郎」シリーズも、暑さによる品質低下を栽培技術で克服することが難しくなり、桃太郎系品種を作り続ける産地や生産者などからは、暑くても品質が安定しやすい「桃太郎」を求める声が高まっていました。
その声をいち早く、そして強く届けてこられたのが福島県南会津地方に生産圃場を構える南郷トマト生産組合(JA会津よつば)です。山間地ならではの気候や風土を生かし、食味のよい桃太郎系品種を作りこなすことで、産地拡大と市場からの高い評価を得て全国でも屈指の夏秋トマト産地へと発展してきましたが、近年は暑さから来る「裂果」「空洞果」発生の増加による廃棄ロスの多さが大きな課題でした。そこで当地で特性を繰り返し確認しながら育成したのが、「桃太郎みなみ(TTM170)」です。品種名の「みなみ」は南郷トマトの「南」に由来します。
見た目でも分かる秀品率の高さと「桃太郎」らしい食味のよさとの両立、そして当地の病害で課題となっていた「すすかび病」の耐病性を付与することを目標に育成しました。栽培のポイントを当組合と共に確認しながら、毎年少しずつ栽培面積を増やし、2024年度には南郷トマト(31ha)の80%以上が「桃太郎みなみ」となりました。そして、今では福島県下、東北全県、全国へと栽培の範囲が広がっています。
タキイ茨城研究農場 横川 武弘
果実がかたいことで裂果や軟化玉、網果が出にくいのが特長です。また、黄変果や空洞果、変形果、尻腐れ果の発生も少なく、総じて出荷ロスを軽減できます。空洞果については草勢の強弱の影響を受けにくいのが特長です。
花質がよく高温期でも着果が安定します。果形はスムースな腰高豊円型で200g程度の大きさを中心によくそろいます。花落ち部も小さく、また果揃いもよいので選果効率改善に期待をもてます。
節間が短いので斜め誘引や吊り下げ誘引の省力化を図れます。
これまでの「桃太郎」系夏秋用品種が持つ耐病性に加え、トマト黄化葉巻病(Ty-3a)、トマト黄化えそ病(TSWV)、根腐萎凋病(J3)そして、すすかび病耐病性を新たに付与しています。
すすかび病は、葉かび病と同じく葉裏側に発病することと、こげ茶色のビロード状の病斑を呈することが特徴の病害ですが、葉かび病の抵抗性反応と異なり、感染部位には薄い色抜けが見られます。いずれにしても胞子形成はみられないので、本耐病性により薬剤散布の負担軽減につながることが期待されます。
幼苗期から低温条件に遭遇した株は低段の果実が過肥大しやすく、その後の草勢維持に支障をきたしやすくなります。適期播種を心掛けて、生育初期では地温の確保と被覆資材の併用で、十分な保温に努めます。
初期草勢が強くなりやすいため、元肥は控えめにするか、あるいは緩効性の肥料を主体に施肥します。草勢が強くなった場合は葉面散布や下葉を数枚切るなどして草勢を落ち着かせます。着果開始後は潅水・追肥ともに不足のないように注意します。
生育中盤以降の草勢を適正に保ち、果実の肥大を安定させるため、果房当たりの果数は3〜4果を目安とします。
夏秋作型では、梅雨明け前後からの着果安定と果実肥大促進、果実のがく枯れを防ぐため、積極的な潅水を行い、定期的な葉面散布を継続します。夜間の気温が高い日や夜に風が吹く日などはがく枯れのリスクが高まるので、日中に前もってリン(P)・カリ(K)系の葉面散布を施すと効果的です。
これまでの桃太郎系品種と比べると、盛夏期の着果能力は向上していますが、一方で生育適温をはるかに超える暑さは、花粉の質や量の低下につながります。暑い日が続くときは、ハチの訪花状況や着果状況を確認しながら、ホルモン処理を併用して着果安定に努めてください。
「桃太郎みなみ」(右)は花落ち部が小さく果形がごつごつしていない。
「桃太郎みなみ」は感染した痕は見られるが、症状の進行はない。
2025年
春種特集号 vol.59
2024年
秋種特集号 vol.58