栽培技術
2021/7/20掲載
栽培技術
2021/7/20掲載
近年、燃料価格の高騰により、ハウス栽培では省エネルギー対策が非常に重要になってきています。
ハウス暖房で広く使用されている温風暖房機では、機器自体の性能はもちろんですが、機器の維持管理や使用方法にも配慮する必要があります。まず維持管理においては、バーナ周りの点検や缶体の清掃が重要です。少なくとも年に一回は実施し、できるだけ初期性能を維持していきたいものです。そして、適切な維持管理を行った上で、温風暖房機のもつ性能を十分発揮できるような使用方法を意識しましょう。
ここでは温風暖房機の各部の中でも、非常に重要な役割を担っている「温風ダクト」について解説します。ぜひとも温風ダクトの役割を理解し、正しく使用して省エネルギー化を図ってください。
ネポン株式会社 営業技術部 中原雄太
温風暖房機は、缶体(燃焼室)内で燃料を燃焼させ、高温となった缶体に風をぶつけて熱を回収する構造になっています。燃焼で発生するガスは有害なので、煙突で屋外に排出します。また、煙突からガスを排出すると同時に、燃焼に必要である新鮮な空気をハウス内に取り入れる力も働いています。
温風暖房機(上吹タイプ)
温風暖房機(下吹タイプ)
缶体から回収した熱は、温風となって吹き出されます。しかしハウスは広いので、暖房機から直接温風を吹き出しても、室内の温度はなかなか均一になりません。
温度ムラは省エネルギー実現のためには大敵です。暖房温度が燃料消費量に与える影響は非常に大きく、条件によっても異なりますが、暖房設定室温を1℃変えるだけで燃料消費量が約10〜15%も変化するほどです。わずかな設定温度の違いで燃料コストが大きく変化する一方で、実際はハウス内の温度ムラが5℃以上あるという例も少なくありません。温度ムラが大きくてはハウス内が適切な温度にならずに、いたずらに燃料を消費するだけでなく、作物の生育にも大きな影響を及ぼしてしまいます。
そこで、温風をハウス内に配分し、温度ムラのない環境を作るために有用なのが温風ダクトです。効果的に温度ムラを改善するには、温風ダクトをうまく使うことが重要です。
温度ムラの改善には循環扇も効果的で、普及も進んでいますが、送風能力自体は温風暖房機の方が圧倒的に高く、熱を直接届けられます。そのため、温度ムラ改善にあたっては、まず温風ダクトを適切に使い、暖房機自体の性能を十分発揮できるように努め、足りない部分を循環扇で補うようにしてください。
温風暖房機の送風量はできるだけ多い方が、缶体の熱を効率的に利用することができます。そして、送風量を減らさないためには、送風抵抗になりやすい温風ダクトの抵抗をなるべく少なくするように配慮する必要があります。前提として、各機器の取扱説明書などには適正な温風ダクトの太さや本数記載されています。まずは目安として、この基準を守るようにしてください。
とはいえ、基準通りには設置しにくいことも少なくありません。特に十分な本数のダクトを設置できないことがあります。ダクトを太くすると送風抵抗を大幅に少なくできるため、設置本数が不足する場合、基準より太めの温風ダクトを使用するとよいでしょう。また、道中のつぶれや折れは、できるだけなくしてください。道中に穴を開けることも有効な手段です。
いずれにせよ、温風ダクトの送風抵抗を少なくし、できるだけ多くの送風量を確保することが重要です。枝つきダクトやコーナーダクトなど、設置自体も楽になる便利な商品もありますので、必要に応じてご利用ください。
枝つきダクト
コーナーダクト
温風ダクトの配置を考える場合、ダクトからの放熱の特徴をよく理解することが必要です。温風ダクトは薄いフィルムで作られており、表面からの放熱量が多い性質があります。そのため、ダクト内を流れるうちに、温風の温度は徐々に低下していきます。
つまり、温風の温度は暖房機の吹き出し口から近いほど高く、遠いほど低くなります。また、表面からの放熱量も温風温度が高いほど多いので、吹き出し口から近いところは温風を吹き出さなくても室温が上昇しやすい反面、遠いところでは温風を多く吹き出すようにしないと室温がなかなか上昇しないことになります。
そのため、ダクトから吹き出す風量は、温風暖房機の吹き出し口から近いところは少なく、遠いほど多くすることが基本となります。具体的な配置としては、長短の枝ダクトを配置して先端から吹き出す場合、ダクトの本数は短いものは少なく、長いものは多く必要になります(図)。道中に穴を開けて送風する場合は、吹き出し口から近いほど穴数を少なく、遠いほど多く必要です。穴径で調整する場合は、近いほど小さく、遠いほど大きい穴が必要となります。
また、熱は上昇する性質があるため、上吹きの温風暖房機では、天井面に熱がこもりやすいという欠点があります。作物と天井面との空間が広ければ熱が比較的拡散しやすいので、その場合送風量さえ確保されていれば、さほど神経質になる必要はありません。ただし作物と天井面との空間が狭い場合は、ダクトに下方向の穴を開けたり、循環扇を併用したりと、ハウス全体の空気を撹拌させるような方法も必要となってきます。
そのほか、ハウス内でも外部への放熱の多いところには、より多くの熱を送る必要があります。ハウスでは外壁全体から放熱が起こっていますが、ほぼ均一に放熱している天井面に比べ、サイドには余分な放熱面があって、冷えやすい状況にあります。そのため、サイドはダクトの本数を増やしたり、太くしたり、道中に穴を多く開けたりして、天井よりも多くの温風を送る工夫が必要です。これは立地条件によって特定箇所が冷えやすいなど、特殊事情がある場合も同様です。
図:温風ダクトの配置例(枝ダクトの場合)
温風ダクトにより熱を適正に配分することで、温度ムラの発生はかなり抑えることが可能です。そして温風ダクトを適切に配置するには、自分のハウスの暖房状況をよく知ることも重要です。ぜひ一度、真冬の深夜にハウス内に入り、自身で暖房状況を確認してみてください。温風ダクトがきちんと機能しているか確認することはもちろん、ほかにも省エネルギー化を図るためのヒントが見つかるかもしれません。
ネポンの「多段サーモヤコン」は、温風暖房機をフルに活用し、できる限りコストを抑えながら、ハウスの細やかな暖房温度管理(変温管理)と、多湿環境を抑制する湿度管理ができる簡易的な環境制御盤です。専用のコネクタを使えば、弊社のハウスカオンキと簡単に接続できるため、大掛かりな工事は不要で、導入経費が安く済むのもポイントです。
商品に関するお問い合わせは
ネポン株式会社 http://www.nepon.co.jp/
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