栽培技術

栽培技術

2022/7/20掲載

土壌に直接刺して測定できる
高精度の土壌pH・EC計
GroLine(グロライン)シリーズ

「ソイルpHテスター」(左)と「ソイルECテスター」(右)

ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社 鈴木 雄大(すずき ゆうだい)

グロラインシリーズの特徴と仕様

グロラインシリーズ

農業・水耕向けのpH/EC計グロラインシリーズ。使いやすさとすぐれたコストパフォーマンスが特徴。

ハンナは、理化学研究向けにpH計・EC計などの分析機器を開発するメーカーです。大学や研究所、食品の品質管理の現場で使用されるため、測定の信頼性や高い精度が求められます。測定精度を±0.01まで厳密に追求する世界で、技術を鍛えてきました。

農業にこの技術を応用したものが、グロラインシリーズです。養液を測定するタイプが主流ですが「ソイルpHテスター」「ソイルECテスター」は、どちらも土壌に直接突き刺せる形状をしています。また、上澄み液などの測定も可能です。測定レンジは「ソイルpHテスター」がpH0.00〜12.00(pH0.01刻み)、「ソイルECテスター」が0〜4000μS/cm(1μS/cm刻み)または0.00〜4.00mS/p(0.01mS/cm刻み)です。デザインはシンプルで、電源オフの状態からボタンを一度押して画面が表示されれば、あとは土壌に突き刺す、もしくは養液に浸けることでpH・EC値がデジタル数字で表示されます。表示されるまでの時間は、速いもので数秒と、短時間で高精度な測定が可能です。
また、水耕など養液測定に限定した場合、1台でpHとECを同時に測れる測定器もあり、ラインアップが充実しています。

pH・EC・温度の測定値が同時に画面表示できる「グロラインpH/EC計」。

pH・EC・温度の測定値が同時に画面表示できる「グロラインpH/EC計」。

測定精度の高さがメリットと説明しましたが、精度が高いゆえに、微差を測定してしまいます。土壌を測定する際、微差が顕著に現れます。例えば、肥料を土壌へ均一に散布できず、pHやECの値が0.1〜0.2あるいはそれ以上のムラが発生することがあると思います。測定精度が高いゆえに、そのムラも測定してしまうため、なぜ測定結果がそろわないのか?という疑問を生みかねません。
このようなデメリットを簡単に解消するには、研究の世界で一般的に用いられる算術平均を使うことがおすすめです。異なる3カ所を測定して、その平均値を算出すれば、数学的に土壌のpH・EC値を定義することができます。
また、土壌に突き刺した電極(測定部分)に土がどれくらい密着しているかによっても、数値が変動してしまいます。空隙の大きな部分を測定すれば、極端に小さな値が測定される可能性もあります。
このような場合は、土を精製水で泥団子ができるくらい湿らせてから測定します。粘り気が増した土は電極に密着しやすくなり、測定精度を高めてくれます。

精度の維持にメンテナンスが不可欠

測定器は精密機械です。ご使用いただく中で、数値の差が生じ、消耗・劣化していきます。測定精度を維持して長くご使用いただくために、数値の差を正す「校正」や、洗浄・保管に関するメンテナンスが肝心となります。例えば、パソコン作業や細かい文字を読み続けると、眼精疲労が蓄積します。適度な休憩や目薬をさすなどのケアを行えば、視力の低下を抑えられることと同様に、測定器のケアを行いましょう。

測定の要となるのが電極です。測定器は使用後に、精製水などを使用し電極の汚れを洗い流してください。特に、pH測定器はガラス電極の管理が重要です。先述の洗浄内容に加え、目視できない汚れを除去するため、定期的に電極洗浄液に浸け置きをしてください。汚れが落ちたら、商品付属の電極保護キャップに電極保存液を入れ、電極にキャップをして保管してください。電極保存液の量は、電極の先端が浸かるくらい(キャップを外したら、電極の先端に水滴が付いているくらい)が目安です。この状態で保存をしておけば、次に使用する際も精度を維持できています。保存作業を怠ると、電極が乾燥して測定誤差を生む原因になります。言うなれば、ドライアイとなり目がかすむような状態です。

写真はEC標準液。正しく測定するには電極のメンテナンスが重要。

写真はEC標準液。正しく測定するには電極のメンテナンスが重要。

保管期間が長くなると、電極保存液は蒸発/結晶化するため適期的な補充を。

保管期間が長くなると、電極保存液は蒸発/結晶化するため適期的な補充を。
※電極保存液は無色で、写真右のピンク色はイメージ。

長期間使用していない場合、電極保存液に保管していても数値が変動せず、不自然な値が表示されることがあります。また、乾燥させてしまった場合は、電極を電極保存液に1時間ほど浸けてください。電極の状態が、回復する可能性があります。測定器が不調なときは、ハンナへお問い合わせください。ハンナでは、無償点検サービスを行っております。
測定器の保管は、湿度の低い乾燥した場所でお願いします。湿気が多く、温度変化が大きい場所で保管をすると、水滴が測定器の内部基盤を腐食し破損させる可能性があるためです。

最後に、ハンナは商品開発の研究を重ね、農業従事者の皆様をサポートできるよう努めていきます。

pH・ECを測定することで分かることとは

「時すでに遅し」を防ぐ

農業は、非常に多くの変数が複雑に絡み、収穫の量や障害の原因を絞り込む手段の一つとして、pH・EC測定を活用しています。

pH測定は、健康状態を知るようなものです。農作物に適した生育環境は、主にpH5〜7と言われています。pH測定を行うことで、作物に、微量要素欠乏などの障害が発生した場合や、兆候を知ることができます。
作物が土の中の栄養素をどれだけ吸収できるかは、土壌のpHに依存します。例えば、葉の緑色が黄化し、土壌のpHが7以上のアルカリ性側に寄っていた場合、マンガン欠乏症が考えられます。このように、pH値を知ることができれば、起きている障害の原因を絞り込めます。

pHとECの数値を把握することで作物の生育状態を知ることができる。

pHとECの数値を把握することで作物の生育状態を知ることができる。

EC測定は、栄養状態を知るようなものです。例えば、生まれたての赤ちゃんと部活終わりの高校生とでは、必要な栄養量が異なるのは当然です。作物も種類・生育段階によって、最適なECがあり、土壌が、どのような状態なのかを知ることは不可欠です。
また、生育が悪いときにEC測定を行うと、施肥をしたときに比べ、ECが下がっていないケースがあります。この現象は、日照不足により光合成に必要なチッソを吸収できず、土の中の栄養素が豊富なままのため、ECが高いと仮説を立てることができます。
例えるなら、健康診断で血圧や心音から病を推定しますが、農作物においては、pHとECがその一つに該当します。pHとEC、それぞれの数値を把握することは、作物の生育状態を知るきっかけになります。

タキイ通信販売での取り扱いはございません。
商品に関するお問い合わせは、ハンナ インスツルメンツ・ジャパン株式会社まで
https://hanna.co.jp/