産地ルポ

栽培技術

2021/2/22掲載

春ニンジン栽培のポイント
〜低温期の発芽と抽苔対策〜

ニンジンはβ-カロテンが豊富で、サラダから煮炊き料理まで幅広く使え、食卓の彩りに欠かすことのできない野菜の一つです。
ニンジンの栽培にチャレンジする際、タネをまいたのに発芽してこない、発芽したけどまばらになってしまう、どうしたら上手に発芽させられるのか、という質問を多くいただきます。夏まき、春まきで気温などの条件は異なりますが、発芽のポイントを押さえておけば対策することができます。
そこで、今回は夏まきよりも栽培が難しい春ニンジンの栽培における、特に低温期において発芽を上手にそろえるコツと、抽苔対策についてご紹介いたします。

研究農場 野菜第4グループ 坂巻有一

発芽の条件

タネが発芽するために必要な条件が3つあります。「適切な温度」「水」「空気(酸素)」です。この3つの条件がそろい、ニンジンなどの「好光性種子」の場合、さらに「光が当たること」が加わって発芽することができます。

発芽の条件

発芽の条件

ニンジンの発芽

ニンジンの発芽

ニンジンの発芽適温は15〜25℃です。35℃以上の高温、3℃以下の低温だと発芽しません。適温下ではおよそ7〜10日ほどで発芽しますが、10℃以下の場合は2〜3週間もかかります。そのため低温期に発芽をそろえることは難しいとされています。

低温期には、まず「適切な温度」を確保することが肝要です。地温を確保するためにポリビニールなどで畝をマルチングしたり、不織布などのベタがけ資材を利用したりすることで3〜5℃地温を上昇させることができます。さらにビニールトンネルを併用することができれば、かなり効果的です。

ベタがけ資材の使用例

ベタがけ資材の使用例

ベタがけ資材の使用例

タネは発芽するために「水」を吸収しなければなりません。成熟したタネは乾燥しているため、水を与える必要があります。ニンジンのタネは特に吸水力が弱いため、発芽まで乾燥させないことが必要です。生種子なら播種前に一晩流水に浸しておき、水気をとって播種するのがおすすめです。ペレット種子を家庭菜園で手まきする場合は、せっかくのペレットがむだでは? と思われるかもしれませんが、ペレットにヒビが入る程度に軽く潰してからまくと、吸水しやすくなるので、毎回発芽に失敗するという方は一度お試しを。

ニンジンの種子は小さいため、播種しやすいように加工されたペレット種子がある。

ニンジンの種子は小さいため、播種しやすいように加工されたペレット種子がある。

ニンジンは好光性種子なので覆土は0.5〜1p程度と、厚くなりすぎないように注意しましょう。春まきでは前述のマルチングを行うことで、保温と保湿効果が期待できます。特に厳寒期に播種する場合は、できる限りマルチングを行いましょう。

抽苔対策

春まきのニンジンは、特に抽苔の危険が大きくなります。ニンジンは、ある程度の大きさに育って一定期間低温(10℃以下)に当たってしまうと花芽ができてしまい、その後の高温、長日で抽苔(トウ立ち)します。低温感応性は品種によっても異なりますが、本葉4〜6枚のころが低温に敏感な時期です。特に播種期が早いほど抽苔する可能性が高くなります。播種時期の設定、晩抽性品種の選定、ベタがけ資材の活用が大切です。

畑の準備

畑作りの際、適切な水分条件で耕すことが大切です。よい土壌は隙間が適度にあって水分と空気を含むことができるバランスにすぐれています(土壌の三相構造:@固相、A液相、B気相)。発芽をしやすくし、その後も順調に生育させるためには、土づくりはもちろんのことですが、適度な水分バランスと十分な土の砕土が重要です。水は温度が上がりにくい性質があるので、土壌水分が多すぎると、低温期の春まきではなかなか地温が上がらなくなります。発芽の遅れ、根の伸長阻害などにつながりますのでご注意ください。

播種時期の目安と品種選定

上級者であればマルチング、ベタがけ資材とビニールトンネルを使用した1月〜2月中旬まきにチャレンジしてみてください。生育に合わせたトンネル内温度管理が必要になってきます。ビニールの裾を開けて適切な換気を行い、日中の温度を20〜25℃に保つことで抽苔のリスクを回避することができます(ディバーナリゼーション)。品種は、低温期の発芽、肥大性、着色性にすぐれる早生品種の「恋むすめ」がおすすめです。

「恋むすめ」は低温期の肥大性にすぐれる晩抽早生種。しみ腐病にも比較的強い

「恋むすめ」は低温期の肥大性にすぐれる晩抽早生種。しみ腐病にも比較的強い

土質を選ばず幅広い作型に適し、作りやすい「向陽二号」。

土質を選ばず幅広い作型に適し、作りやすいw

2月下旬〜3月まきならマルチングとベタがけ資材を使用して栽培することが可能です(3月下旬ならベタがけ資材のみでの栽培が可能です)。さらに、ベタがけ資材は2重にして使用すると効果抜群です。ただし、この播種時期では栽培期間が長くなり、収穫時期が梅雨と高温の時期になるので、根部病害のしみ腐病に注意する必要があります。品種は、被害を受けにくい早生品種の「恋むすめ」と、しみ腐病に強い「向陽二号」がおすすめです。「恋むすめ」は早生品種なので遅まき・早どりが可能で、「向陽二号」は病気に強いため、高温期収穫に適します。両品種を使い分けることで収穫期間を長く楽しむことができます。