品種ピックアップ
2023/2/20掲載
品種ピックアップ
2023/2/20掲載
編集部
中央アメリカ原産のマメ科の一年草で、若莢を丸ごと食べるものを「サヤインゲン」、成熟した豆を食べるものを「インゲンマメ」と呼んでいます。江戸時代(1654年)に中国の高僧・隠元(インゲン)が日本に伝えたといわれており、命日の4月3日をインゲンマメの日と制定されました。仏教とともに精進料理が広がり、豆類は肉や魚を食べない僧にとって貴重な栄養源でした。明治初期には多くの品種が欧米から導入され、種実用と莢用インゲンの栽培が行われました。昭和30年代には交配が進められ新しい品種も誕生しました。栄養価が高く、色どりよく和食、洋食、中華とどんな料理にも合うインゲンは戦後、栽培面積が急増していきました。
生長が早く1年に3度も収穫できることから関西では「三度豆」(さんどまめ)と呼ばれるインゲンは12〜13cmの中莢で子実の目立ちが少ない莢が好まれています。関東では「どじょうインゲン」と呼ばれる長莢で味と歯切れがよく、子実が目立つものが多く使われています。地域によって好みがあり、つるなしとつるあり、丸莢、丸平莢、平莢のインゲンが栽培されています。
昭和47年に発表されたスジなし「さつきみどり」の改良種。コンパクトな草丈で、そろいよく良質
作りやすい極早生の豊産種。肉厚でおいしい
昭和44年に発表された「初みどり」の改良種。極早生、収量が多く濃緑莢で12〜13cm によくそろう。秀品率が高く、莢ばなれがよく収穫が容易
極濃緑莢で収量性、秀品性が高い。
莢長14〜15cm、太さ約8mmのスリムな莢形で市場性にすぐれる
耐暑性にすぐれる小莢の良質豊産種
おいしく多収。
家庭菜園で人気
どじょうインゲンタイプ。
そろいがよく多収
曲がりが少なく秀品率が高い。若莢どり可能、やわらかくおいしい
昭和40年代、米の生産調整(減反政策)により、水田を利用した野菜栽培が盛んになっていました。中でもインゲンは一年を通して需要があり、栽培も容易、短期間で栽培でき安定した収入が得られると、ますます高品質化が求められていました。昭和47年、つるなしインゲン「さつきみどり」が発表されると、生産者からは「市場で有利な早出し出荷ができて、支柱不要で輪作にも組み入れやすい」と高く評価されました。市場では莢色が濃緑色の丸莢で外観がよく、スジがなくやわらかくおいしいと高値で取り引きされました。青果・加工のいずれにも利用できる「さつきみどり」は人気の品種となっていきました。
「初みどり」の出荷(昭和51年長野県)多収で青果・加工用に需要があった。
昔からの習慣でついついスジをむいてしまう…。今ではスジなしが当たり前ですが、ひと昔前はスジ取りが必要でした。弁当や料理の彩り、栄養価の高い健康野菜として利用されることが多くなり、冷凍品もたくさん出回るようになりました。「さつきみどり」が発売された当時、莢の緑色が失われないよう加工されたインゲンの缶詰もあり、一年を通して需要が高かったことがうかがえます。
経済成長とともに消費者のニーズも多様化し、野菜の外観や食味に高品質なものを求める傾向が強くなってきました。また、良質な若莢出荷ができるようになり高値で取り引きされる反面、大量に安い輸入品が国産インゲンの脅威となり、ますます差別化が必要でした。出荷先の好みや作型、圃場に合わせ選択できるよう「初みどり2号」「ケンタッキー101」など多様な品種が発表されました。
関西市場向けの丸莢「初みどり2号」。
収量の多い「ケンタッキー101」。
つるあり種は長期間収穫でき、腰を曲げずに収穫できますが支柱立てが必要です。つるなし種は早出し出荷で有利な取り引きができますが、短期間の収穫になるため播種期をずらして栽培しなければいけません。軽量で収穫も容易、水田転作の換金作物としてインゲンは人気がありました。平成4年、関東、関西のどちらの市場でも出荷できる新しいタイプのインゲン「スラットワンダー」が発売されると、莢色、食味、そろいや日もちがよく、若莢出荷に最適の品種として注目されました。秀品率が高く、そろいのよい品種で、全作業の7割近い労力がかかる出荷調製作業が軽減されると生産者からも高く評価されました。
平莢インゲンの代表品種「モロッコ」は肉厚でおいしい、家庭菜園で人気のインゲンです。
当時大ヒットした映画の舞台が地中海のモロッコだったからこの名前がついたとか!?
「さつきみどり」は5月(さつき)に従来品種に比べ濃緑のインゲンができることから名付けられたといわれています。
「モロッコ」は家庭菜園のインゲンで人気No.1。
2011年、つるなしインゲン「恋みどり」が発表されました。従来品種にはない極濃緑の莢色で、店もちがよく消費者に鮮度感をアピールできます。莢ぞろい、色つやがよく高い市場性をもち、生産者からは収量性と秀品性にすぐれ高値で取り引きできると好評です。播種後55日程度で収穫が可能、管理作業も容易で圃場の空いたスペースで栽培でき、輪作体系にも組み込みやすい品種です。短期、省力作物の特長を生かした栽培は高齢者や女性の生産者に適しており、今後、さまざまな場面で活用できると期待されています。
一斉収穫できるタイプで株ごと収穫し、あとから調製作業に取り掛かることができる。
2025年
春種特集号 vol.59
2024年
秋種特集号 vol.58