品種ピックアップ

品種ピックアップ

2022/2/21掲載

ピーマンを日本の食卓へ
「京みどり」とタキイのピーマンたち

戦後、家庭の食卓にピーマン登場

ピーマンが日本に伝えられたのは16世紀ごろと言われています。明治時代に欧米から数品種が導入されましたが戦後、進駐軍用にアメリカ生まれの品種である「カリフォルニアワンダー」が栽培されるようになるまで、日本では肉料理に向く肉厚大獅子型のピーマンの需要は低く、大きな産地もありませんでした。昭和30年代になると食生活の洋風化(洋食ブーム)がすすみ、和洋中華にと幅広く調理でき、ビタミンC豊富で美容にもよい健康野菜として注目を集めました。昭和30年代から20年ほどの間で急速に市場を拡大したピーマンは時代に応じて品種開発されてきました。

肉厚大獅子型の「カリフォルニアワンダー」。

肉厚大獅子型の「カリフォルニアワンダー」。

タキイ選抜 初代育成品種の「平安栄光」

タキイでは、昭和37(1962)年に「平安栄光」、翌年の昭和38年に期待のF1ピーマン「エース」が発表され、昭和41年に「ニューエース」、昭和43年「京みどり」と短期間に次々と新品種が発表されました。昭和37年に発表された「平安栄光」の自社記事によると「ピーマンが重要そ菜のひとつとして注目を浴びてきたのは、ピーマンがニンジンと並んで代表的な栄養そ菜であること、同時に料理の種類が多く、かつ簡単で和洋いずれにも向くことが需要を大きくしたものといえよう。」と記されています。
昭和31年〜36年の市場入荷の図表(図1)からよくわかるように、これほど急速に入荷量が伸びた品目は例を見ません。

昭和37年園芸新知識11月号より

昭和37年園芸新知識11月号より

一方、栽培の面から見れば、育苗が極めて容易で低温時のホルモン散布が不要、誘引、整枝など管理の面で労力が少ないこと、また収穫期間が長く、荷扱いが楽であるなど有利な多くの特長をもっていることから生産が一気に拡大しました。ピーマン需要の急激な増加は一般家庭に浸透したことが要因で、これまでの肉詰め料理に適した大獅子型ではなく、中肉獅子型のいずれの料理にも向く品種が求められるようになってきたことがうかがえます。

中獅子型の交配種も登場「エースピーマン」

ピーマンが食卓に普及するにつれ、5月の高値時期からの早期出荷を目指し新たに育成されたのが、極早生でスタミナがあり初期から多収をねらえる「エース」です。「平安栄光」より少し小さめの中獅子型で肉の厚さは中程度。カリフォルニア系のピーマンに対し、「エース」は多様な料理に応用でき、市場性が極めて高い品種でハウス、大型トンネルなどの極早出し栽培に特性を発揮しました。

新品種が次々と登場

「平安栄光」「エース」に続き、昭和41年に発表された濃緑中型の「ニューエース」は高知や静岡などの産地から注目されました。価格が安定し、バラ詰め出荷、荷傷みがなく長距離輸送にもたえるピーマンは市場性も高く、栽培面では作りやすく病害にも比較的強いため需要は上伸を続けていました。

品種表

ピーマンの袋詰め計量器 開発秘話

ひと昔前、八百屋ではカゴに盛られたピーマンがバラ売りで並べられていましたが、昭和40年ごろのスーパーでは1袋150gの「定量詰め」が主流となっていました。大きさや形状がバラバラのピーマンを一定量パッケージすることは、農家にとって手間のかかる作業となっていました。ある農業組合から「形や大きさが異なるピーマンを設定重量の2g以内の誤差で袋詰めできる機械が欲しい」という要望を受け昭和47年、大手計量器メーカが「組み合わせ計量器」を開発しました。商品を計量し、設定した重量に最も近い組み合わせを選びだして袋詰めする技術。世界初の計量器は大きなインパクトを与えそれ以降、食品だけでなく工業製品にも応用されるようになりました。世界シェア50%、国内シェア75%を誇る世界水準のこの技術は、ピーマンの袋詰めから始ったそうです。

京阪神市場で人気「京みどり」の特長

小型化していったピーマンは夏場の高温期に辛みが出ることがあり、長期間の収穫が可能であるにもかかわらず、途中で栽培を切り上げるなど生産者を悩ます大問題となっていました。昭和43年に発表された「京みどり」は、果重25〜30gの中型ピーマンで、辛みの心配がなくつやのある濃緑色で果皮は薄く、盛夏にも退色が少ない商品価値の高い品種です。ポリ袋5〜6個入りで150g。当時の流通、消費に対し最適のサイズ感も人気の要因でした。「ニューエース」のように極早生ではないものの、草勢が強く長期間にわたり多収で三重、兵庫、徳島、岡山、広島に産地化がすすんでいきました。

昭和43年に発表された「京みどり」。ハウスから冷涼地の夏秋どりまで作型が広い。

昭和43年に発表された「京みどり」。
ハウスから冷涼地の夏秋どりまで作型が広い。

旺盛な生育ぶりに驚く生産者(昭和51年、兵庫県)

旺盛な生育ぶりに驚く生産者(昭和51年、兵庫県)

生産者からみた「京みどり」

「京みどり」は辛みが出にくいだけでなく、大きくなっても果肉が比較的やわらかい。この2点が従来のものと比べ大きな特長といえます。カリフォルニア系を栽培していた生産者も、病害虫の多発や収量・品質の低下から「京みどり」に切り換えるようになりました。ピーマンは収量の多少が収益に影響しやすいため「京みどり」の多収性は生産者にとって有利でした。また、果形や果重のそろいがよく収穫後の調整作業の省力化につながると導入を検討する産地が増えていきました。

平均30g、5果でちょど150g入ポリ袋ができる(昭和51年、兵庫県)

平均30g、5果でちょど150g入ポリ袋ができる(昭和51年、兵庫県)

集荷場に集められたピーマン(昭和56年、岡山県)

集荷場に集められたピーマン(昭和56年、岡山県)

ピーマンの自動包装機(昭和56年、岡山県)

ピーマンの自動包装機(昭和56年、岡山県)

京阪神市場へ出荷される「京みどり」(昭和56年、岡山県)

京阪神市場へ出荷される「京みどり」(昭和56年、岡山県)

家庭菜園におすすめ「京みどり」

発表から半世紀以上が過ぎ、現在は家庭菜園にイチ押し品種としてロングセラーを続けています。初心者でも栽培しやすく、たくさん収穫でき果肉がやわらかくおいしい。草姿が立性で枝が垂れにくく管理がしやすいと春の菜園用苗販売も依然人気の品種となっています。また「ニューエース」は肉詰め料理にピッタリだと再び見直されています。

長期間、たくさん収穫できると家庭菜園で好評の「京みどり」。

長期間、たくさん収穫できると家庭菜園で好評の「京みどり」。

中型肉厚の「ニューエース」は肉詰めにおすすめ。

中型肉厚の「ニューエース」は肉詰めにおすすめ。

タキイのピーマンたち

ピーマンが普及するようになった背景には、気候、風土に適した独特の品種が育成され、栄養を重視する食文化の変化がうまくかみ合わされた影響がうかがえます。現在は甘くてカラフルなカラーピーマン、苦みが少なく子どもにも食べやすい「ピー太郎」など多彩なラインナップがそろっています。

肉厚で甘みがあるカラーピーマン。

肉厚で甘みがあるカラーピーマン。

肉厚ジューシー!カロテン豊富な「ピー太郎」。

肉厚ジューシー!カロテン豊富な「ピー太郎」。