品種ピックアップ

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2022/7/20掲載

異常気象に負けない、
「根深ネギ」栽培のポイントと品種の選定

ネギは年中安定した需要があるため直売所の人気アイテムです。特に薬味需要が高まる夏から鍋需要が高まる冬にかけては売り場に欠かせない存在と言えます。しかし、近年の夏の高温化、豪雨災害や大型台風の増加により、夏から秋にかけてのネギの栽培は年々困難になっています。
今回は育苗、畑の準備、定植、その後の管理に焦点を当て、異常気象に負けない栽培のポイントについて解説します。

タキイ研究農場 内藤 泰之

育苗 —— 根張りのよい健全な苗作りを

潅水管理

均一な潅水でそろいと根張りがよい苗作りを目指します。本葉展開までは乾かさないように、それ以降、朝はしっかり潅水し、夕方には乾いている量を潅水します。トレイや苗床の位置によって潅水量を調整することがポイントです。気温が高いときは周縁部の乾燥に、気温が低く晴れ間がない場合は内側の過湿に注意し、水分のムラがないよう心掛けます。

剪葉

徒長した苗は根張りが悪く、定植後の活着不良につながります。育苗中に2〜3回剪葉することで太くて根張りのよい苗に仕上がります。

根深ネギのタネまき

[セルトレイ(200穴)]

200穴のセルトレイが育てやすい。
1セルに2〜3粒まいて覆土する。

セルトレイ(200穴)

[地床育苗]

厚さ1cmぐらいの板で深さ6〜8mmくらいの溝をつくり、5mmぐらいの間隔で播種する。
2〜3回間引いて、本葉3〜4枚までに株間2〜3cm程度にする。砂または有機質の多い土(床土)で覆い、たっぷり潅水する。

地床育苗

畑の準備——排水性の確保と適切な施肥設計

ネギは過湿を嫌う作物です。排水性を重視し、畑を準備します。緑肥の栽培や土壌改良剤の投入により、土壌の物理性を改善するとともに、暗渠や明渠を設置し、排水を促します。また近年使用が増加しているのが酸素供給剤です。「オキソパワー5」などの酸素供給剤を元肥と同時にすき込むことで、大雨後の根の窒息を防ぎ、湿害を回避することが期待できます。

ネギは追肥主体の栽培が適しています。特に秋冬どり作型では元肥が多いと夏までにやわらかく生育し、厳しい暑さと湿害などによる病気・腐敗の発生につながります。元肥3:追肥7の割合での施用を目安とします。

>酸素供給剤「オキソパワー5」は4〜5カ月の長期間にわたり持続的に土壌へ酸素を供給、10kgから約400ℓの酸素を供給します。かたくしまる圃場でも、団粒化を促進し、土壌をやわらかくします。定植前に10a当り40〜60kgを全面散粒し、すき込みます。

酸素供給剤「オキソパワー5」は4〜5カ月の長期間にわたり持続的に土壌へ酸素を供給、10kgから約400ℓの酸素を供給します。かたくしまる圃場でも、団粒化を促進し、土壌をやわらかくします。定植前に10a当り40〜60kgを全面散粒し、すき込みます。

定植——スムーズな活着を図る

降雨前に定植できれば理想的ですが、天候は思い通りにはいきません。以下のポイントを押さえ、スムーズな活着につなげます。
定植当日にはたっぷりと水を含ませておきます。チェーンポットやセル苗を使用する場合、紙筒や育苗時の培土が見えないように植えます。特に高温時期に定植する場合は、葉の分岐が埋まらない程度にやや深植えにすることで乾燥や高温の害を防ぎます。

定植:適湿な土壌水分の下、株間2〜3cmに定植する。

定植:適湿な土壌水分の下、株間2〜3cmに定植する。

夏前から盛夏期の管理——適期の土寄せ

ネギの生育適温は16〜20℃前後であり、高温はネギにとって大きなストレスとなります。またネギが弱っている盛夏期の土寄せは、断根や葉が埋まることにより、さらに弱り、病気や欠株につながります。盛夏期の土寄せを可能な限り控えるためには夏までの準備が重要です。
定植溝がある場合は、冠水害や茎盤部が高温・過乾湿で傷むのを防ぐために埋め戻しを完了させます。また8〜9月に収穫する場合は、暑さのピークを迎えるまでにできる限りの土寄せをしておきます。
軟白長確保のために、夏場土寄せする場合は、ストレス軽減のため一気に寄せすぎない、葉の5枚目以上首元付近まで埋めすぎない、高温時は避け朝夕の涼しい時間帯に行う、断根のダメージを軽減するため通路には一つ飛ばしで入るなど、注意が必要です。

根深ネギの土寄せと追肥

根深ネギの土寄せと追肥

発根促進に「ホスベジ10」

土寄せ前後に殺菌剤を散布し傷口からの病原菌の侵入を予防することも重要です。
また生育期間を通して発根促進効果がある亜リン酸資材「ホスベジ10」を葉面散布すると根張りがよくなり生育が安定するのでおすすめです。

葉面散布剤「ホスベジ10」は吸収効率の高い亜リン酸により、根の働きを活性化させ、葉を丈夫にするなどの効果が期待できます。ネギ類では発根促進と初期活着をよくします。

葉面散布剤「ホスベジ10」は吸収効率の高い亜リン酸により、根の働きを活性化させ、葉を丈夫にするなどの効果が期待できます。ネギ類では発根促進と初期活着をよくします。

台風と大雨対策——事前の対策で被害を最小限に

台風や大雨が予想される場合、事前の対策で被害を最小限に抑えましょう。強い風が予想される場合、地上部が風で倒伏しないよう、通常(葉を5枚以上残す)より多めに土寄せを行います。
また事前の殺菌剤散布によりネギ周辺の病原菌密度を低減させておくことで、風雨で傷ついた植物体への病原菌の侵入を軽減することができます。さらに被害が大きかった場合、植物体の回復を図るため葉面散布剤を散布します。

異常気象に負けない品種選び

「名月一文字」——耐暑性、風害への強さならこの品種

濃緑、小葉で耐暑性にすぐれる夏秋どり「名月一文字」。

濃緑、小葉で耐暑性にすぐれる夏秋どり「名月一文字」。

適作型

「名月一文字」は暑い時期でもじっくり生育できる耐暑性をもつのが特長です。首部のしまりは良好で、襟部のばらけが少ないため、襟元からの水分や病原菌の侵入による腐敗が少ない品種です。また小葉立性草姿で風害に強く、台風による強風で倒伏しにくい点も魅力です。8〜9月に収穫したい場合は早めに定植し、7月までにほぼ仕上げておくことで、盛夏期の無理な土寄せが不要となり、腐敗を減らすことができます。無理な早まきは抽苔の危険性が高まるため、播種は12月以降に行います。12月〜3月に播種し、8〜11月に収穫します。

「ホワイトスター」「ホワイトソード」——2品種のリレー栽培でリスク分散

「ホワイトスター」は肥大性と伸長性にすぐれ、栽培のしやすさが特長の品種です。1〜5月に播種し、8〜12月に収穫します。
「ホワイトソード」は低温期での生育がよく、葉は寒さ傷みに強いため、冬の低温期に長期間にわたって出荷が可能です。3〜5月に播種し、12月〜2月に収穫します。
早生性にすぐれる「ホワイトスター」、低温での生育がよい「ホワイトソード」は初心者の方にも作りやすい品種です。タイプの異なる品種を栽培することは気象変動などに対するリスク分散につながります。

ホワイトスター

やわらくておいしい、秀品率の高い「ホワイトスター」。

やわらくておいしい、秀品率の高い「ホワイトスター」。

適作型

ホワイトソード

安定した伸びと太り、そろい性抜群の「ホワイトソード」。

安定した伸びと太り、そろい性抜群の「ホワイトソード」。

適作型