栽培技術
2021/7/20掲載
栽培技術
2021/7/20掲載
連作栽培などによって引き起こされる土壌病害の原因、有害センチュウの増加は経済栽培にとって大きな問題となっています。そもそもセンチュウとはどんな生き物か、どんなメカニズムで作物に被害を与えるのか、そして防除対策は? センチュウの被害様態、防除対策を研究する龍谷大学農学部・岩堀英晶教授に2回にわたって解説していただきます。
<後編>は2022春種特集号WEB(2022年2月ごろ)での掲載となります。
龍谷大学農学部資源生物科学科教授 岩堀 英晶
センチュウとはどんな生き物でしょうか?「聞いたことはあるけれどよく知らない」「野菜の根に寄生する悪い虫」のようなイメージを持たれている方がほとんどだと思います。あまり知られていない理由はそれらがとても小さいからです。大きさは約1mm前後で、色は透明のものがほとんどです。土壌中のセンチュウを肉眼で見ることはできませんが、どのような土の中にも数百から数千匹のセンチュウが潜んでいるのです。ただし、すべてのセンチュウが悪さをするわけではなく、ごく限られた種類の植物寄生性センチュウが作物に被害を引き起こし、慢性的な連作障害の一因となります。
センチュウの多くは地温10〜15℃で活動を始め、センチュウにとっての最適温度は20〜30℃です。最適条件下で1世代は30〜40日程度で、暖地では年に3〜4世代が繰り返されると考えられ、条件がよければ爆発的に増殖します。施設栽培やマルチ栽培のような加温条件下では世代交代も一層早くなります。このような場合、初期密度が低くとも収穫終了時には高密度となり、被害も大きくなります。土壌中では深さ10〜30cmの作土層を中心に生息し、密度がかなり高くなるまで地上部にはあまり病徴を示さないので、気づいたときにはすでにセンチュウがまん延し、減収をもたらしている場合がほとんどです。
植物に寄生するセンチュウにはたくさんの種類がいるのですが、農業で問題となっているのはネコブセンチュウ、シストセンチュウ、ネグサレセンチュウの仲間です。
以下にそれぞれについて特徴を紹介します。
土壌中に生息する0.4〜0.5mm程度の幼虫が根の先端付近から侵入し、根の組織に寄生・定着して栄養を吸収します。多数のセンチュウの寄生を受けた作物は水分吸収能力が低下し、しおれなどの症状を示します。
根にはこのセンチュウの加害に特徴的なこぶが形成され、肉眼でも被害が観察できるようになります。ネコブセンチュウにはいくつか種類があり、サツマイモネコブセンチュウが最も普通で、北海道南部から沖縄まで広く分布しています。寄主範囲は広く、特にナス科、ウリ科などの果菜類は加害を受けやすく、ニンジン、サツマイモ、サトイモ、ジャガイモなどの根菜類にも好んで寄生します。他にもキタネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウなどがあり、少しずつ加害作物が異なっています。雑草にも寄生することができるため、休閑地でもセンチュウが維持されてしまいます。
ネコブセンチュウと同様、土の中の0.5mm程度の幼虫が根の先端付近から侵入し、根の中で定着生活を送ります。肥大したメス成虫は頭を根に差し込んだ形で死に、そのままかたくなります。このような状態になったものをシストと呼びます。シストは、初めは白いのですが時間とともに褐色となり、根から離れて土壌中に混ざります。シストは乾燥や低温に対する耐久性が極めて高く、土壌中で10年以上生きることもありますので厄介です。
種類によって加害する作物が異なり、ダイズシストセンチュウはダイズ、アズキ、インゲンなど、ジャガイモシストセンチュウはジャガイモ、トマト、ナスなどに被害を及ぼします。近年外来種のジャガイモシロシストセンチュウとテンサイシストセンチュウが相次いでわが国に侵入し、そのまん延が危惧されています。
幼虫から成虫までのどの生育段階でも根に侵入することができます。ネコブセンチュウやシストセンチュウとは異なり、根の中のやわらかい部分(皮層組織)を移動・産卵しながら植物の組織を摂食・破壊します。
その結果、根のあちこちに黒斑や条斑、水泡症状が生じ、養水分の吸収は著しく低下し、末期には細根が完全に褐変し腐ります。また、多くの根菜類で寸詰まりを起こし、商品価値が低下します。
関東以北ではキタネグサレセンチュウが主に問題となり、ダイコン、ゴボウ、ニンジンなどで被害が発生します。
関東以西ではミナミネグサレセンチュウによる加害が大きく、サツマイモやサトイモで被害が出ます。そのほか、露地イチゴではクルミネグサレセンチュウの被害を受け萎凋し、露地キクではクマモトネグサレセンチュウが生育阻害を生じさせます。
センチュウはつる割病や青枯病、半身萎凋病などの土壌病害の発生を助長・激化させることも知られています。これをセンチュウ複合病と呼びます。それぞれ菌あるいはセンチュウが単独で感染するときの被害よりも、同時感染した方がより激しくなる相乗効果が見られます。発病しないような病原菌密度であってもセンチュウの加害により発病してしまうこともあります。
後編では防除対策、特に緑肥効果に焦点を当て、抑制のメカニズムとセンチュウの種類別の効果的な緑肥の種類を解説していきます。
2024年
秋種特集号 vol.58
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春種特集号 vol.57