栽培技術
2022/2/21掲載
栽培技術
2022/2/21掲載
土壌病害の原因となる有害センチュウから、どうやって畑を守るか。連載後編は緑肥による防除対策、そのメカニズムとともにセンチュウに対応した緑肥の種類、利用上の注意点などを、前編に引き続きセンチュウの被害様態、防除対策を研究する龍谷大学農学部・岩堀英晶教授に解説していただきます。
龍谷大学農学部資源生物科学科教授 岩堀 英晶
わが国におけるセンチュウの防除法は、主に殺センチュウ剤という農薬に頼っているのが現状です。農薬のおかげで農作物の安定生産が行われ、消費者のニーズに合ったサイズや形の作物が私たちの食卓に届けられます。しかし農薬に対する不安や人体、さらには環境への影響を考え、なるべく使用を減らしてゆく必要があります。
農林水産省は先ごろ「みどりの食糧システム戦略」を発表しました。これによりますと、2050年までに化学農薬使用量の50%低減、化学肥料使用量の30%低減、および有機農業の面積を100万ha(全体の約25%)にするなどの目標が掲げられています。この目標達成のためには、化学農薬のみに依存しない総合的な病害虫管理体系の確立と普及が必要です。
緑肥作物の利用はこの問題の解決に対する一つの有効な方法です。緑肥作物の作付けによって土壌の団粒化、土壌微生物の多様化が図られ、土壌の物理性・化学性・生物性が向上します。また、緑肥作物の中には対抗植物(センチュウ抑制作物)という、作付けすることによって土壌中のセンチュウ密度を低下させることのできるものがあります。これらを積極的に利用することによって化学農薬をなるべく用いないセンチュウ防除を行うことができます。
対抗植物には緑肥のみならず、土壌被覆、景観、飼料に用いることができるものもあり、単にセンチュウを減らすだけでなく、さまざまな役割を持ったものもあり、緑肥利用はまさに一石二鳥、いや三鳥と言えます。
緑肥作物がセンチュウの増殖を抑制するメカニズムは大きく分けて以下の4つがあり、複数のメカニズムを備えたものもあります。
@不適寄主:センチュウは根に侵入するのですが、寄主として不適なため成虫まで発育できず、増殖できません。アウェナ ストリゴサ(えん麦野生種)「ネグサレタイジ」やえん麦「たちいぶき」、ギニアグラス「ナツカゼ」、クロタラリア「ネコブキラー」などがあり、多くの緑肥作物のセンチュウ抑制メカニズムとなっています。
A殺センチュウ物質:植物体内で殺センチュウ物質を作る、あるいは根より殺センチュウ物質を分泌してセンチュウを殺します。マリーゴールドはその代表と言えるでしょう。品種としてはフレンチマリーゴールド「グランドコントロール」や「エバーグリーン」などがあります。
Bふ化促進物質:シストセンチュウのふ化促進物質を根から出して幼虫をふ化させるのですが、寄主として不適なため寄生できず、そのまま餓死させます。クリムソンクローバー「ディクシー」、あかクローバー「メジウム」がダイズシストセンチュウの対策に使われています。また、近年わが国に侵入した外来種のテンサイシストセンチュウには緑肥用ダイコン「コブ減り大根」が有効であることが明らかとなってきました。
C生物くん蒸:植物中の辛味成分グルコシノレートが土壌中で分解され、イソチオシアネートというガスに変化します。これがセンチュウを抑制します。緑肥用チャガラシ「いぶし菜」や緑肥用からしな「黄花のちから」があります。
緑肥作物の多くは複数のセンチュウ種に対して有効ですが、例外もありますので注意してください。フレンチマリーゴールドやギニアグラス、クロタラリアはいろいろな種のネコブセンチュウやネグサレセンチュウに効果的ですが(ただし、一部のクロタラリアはキタネグサレセンチュウが増殖する)、えん麦野生種やらい麦はキタネグサレセンチュウとキタネコブセンチュウのみが対象となります(「ライ太郎」はキタネコブセンチュウのみ)。また、クリムソンクローバーとあかクローバーはダイズシストセンチュウのみが対象となります。したがって、それぞれの緑肥作物の特性をよく知っておくことが大切です[表参照]。
できれば圃場に生息するセンチュウの密度と種類を調べておくことが望ましいでしょう。センチュウ密度は緑肥作物の効果に大きく影響します。残念ながら緑肥作物のセンチュウ抑制効果は農薬より劣ります。あまりにセンチュウ密度が高い場合は効果が見られない場合があります。センチュウ密度と種類の調査は最寄りの農業改良普及センターやJAにご相談するとよいでしょう。
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