品種ピックアップ
2022/7/20掲載
品種ピックアップ
2022/7/20掲載
根菜類で初めてのF1品種「早生大蕪」は、海外でもその品質が高く評価された。
オール・アメリカ・セレクションズ(A.A.S 全米品種審査会)銀賞。
秋が深まり、冬の始まりとされる立冬(11月8日頃)を迎えると、京都三大漬物のひとつ千枚漬の漬込み作業のニュースが流れます。この千枚漬の原材料として多く使用されているカブが、昭和33年(1958年)に発表されたタキイ交配「早生大蕪」です。
編集部
昭和23年、長岡交配(現・タキイ交配)トマト「福寿一号」「福寿二号」を発表し、民間企業として交配種(F1)による新品種開発を成功させました。その後、昭和25年にはキャベツ「一号甘藍」、ハクサイ「一号白菜」を発表、世界初のアブラナ科野菜のF1品種として海外からも注目を浴びました。昭和30年代、採種技術の向上によりF1品種が次々と発表されましたが、タネを沢山まいて間引きする根菜類では、高価なF1品種は普及しないとされていました。そこで、タネが高くても売れるような品種に的を絞り開発が進められました。それが千枚漬の原材料となる「早生大蕪」です。観光客に人気の京都土産の千枚漬は伝統野菜の「聖護院カブ」が使用され、上品な味が特長で素材のよしあしが品質に影響する商品です。晩秋から冬季にかけて、なくてはならない需要がありました。
長期保存を目的としない繊細な漬物の「千枚漬」。
形状・肉質・味ともに高品質なカブが求められる。
昭和33年に根菜類初のF1品種として「早生大蕪」が発表されました。千枚漬に最適な緻密(ちみつ)な肉質で、ス入りが遅く、繊維が少なく歯切れ、食味がよく、早太りで収量性の高い品種です。その品質の高さは日本のみならず、世界でも高い評価を受け昭和35年、世界で最も権威のある審査会のA.A.S(全米品種審査会)で銀賞を受賞しました。
当時、原材料となった「聖護院カブ」はス入りが非常に多く、仕入れたカブの半分は捨てることもありました。輪切りにして漬物にするため、中にス(空洞)が入っていれば商品にはなりません。「早生大蕪」はス入りの心配がなく、早太りで甲高に仕上がり、加工する際には枚数がとれます。さらに、そろいもよく、栽培性がすぐれていました。これなら喜ばれるだろうと大手の漬物業者に「早生大蕪」を使って千枚漬を試作してもらうと「タキイさん、あんなのダメですよ」と思いもよらない反応が返ってきました。「色が白すぎる。聖護院カブというのは少し黄色い」「千枚漬とはそういうもので、あれはダイコンだ」肝心の大手漬物業者から「早生大蕪」は評価されませんでした。しかし、これで引き下がるわけにはいかないと、京都近郊の生産者に委託し市場に出すと非常に好評でした。中小規模の漬物業者は市場でカブを調達しており、品質のよさがすぐに注目されました。昭和33年、京都市場では「早生大蕪」が人気を呼び、出荷量は倍増、市場の9割を占めることもありました。
市場に出荷される「早生大蕪」(昭和46年京都中央卸売市場)
肌は純白で美しく、上品な風味で人気となった。
ズラリと並んだ千枚漬。お客様が手に取られた商品は、白さが際立つ「早生大蕪」を原材料とする千枚漬でした。「聖護院カブ」の少し黄色い千枚漬より、白いほうが新しい(鮮度がよい)商品だと好まれたことが決定打となり、「早生大蕪」が千枚漬と認められた瞬間でした。
当時、千枚漬の販売競争のため、漬込みを一刻も早くしようとする傾向がありました。冷涼な気候を利用した山間地の産地では、高値で取り引きされる10月の早期出荷が行われ「早生大蕪」の早太り性も高く評価されたのです。
早太りで洗いあがりよく、高値で取引されると生産者からも高く評価された。
ウイルスや病害を避けて9月上旬に播種する「聖護院カブ」は、11月下旬から12月中旬にかけてス入りすることが大きな問題でした。「早生大蕪」はス入りが遅く早太りでよくそろい、遅まきしても肥大よく、さらに遅くまいても中カブとして収穫できるなど播種幅が広いことが特長です。播種後40〜45日で200〜500g(中カブ)、60〜70日で1〜2s以上(大カブ)になり中〜大カブとして利用できます。
江戸時代後期、京都御所に仕えていた料理人が、旬の「聖護院カブ」を薄切りにし、塩や酢に漬けて作ったのが始まりといわれています。カブを薄く切って木樽に漬込む枚数が千枚以上になること、カブを千枚といえるほど薄く切って作ることから「千枚漬」と名付けられました。しば漬、すぐき漬、千枚漬は京都三大漬物といわれています。
カブは日本人にとって古くからなじみのある野菜のひとつで、関東では小カブ、関西では中〜大カブが人気があります。昭和42年に発表されたカブ「耐病ひかり」は開通したばかりの東海道新幹線「ひかり号」から名付けられました。品質がよく、小〜大カブまで栽培できます。平成元年に発表された「スワン」はやわらかく、柿のような甘みがあり「サラダカブ」のはしりとして家庭菜園や直売所で人気があります。
好みの大きさで収穫できる良質の「耐病ひかり」。
オール・アメリカ・セレクションズ(A.A.S 全米品種審査会)銀賞。
食感がよく生食で食べるとおいしい「スワン」。
ス入りや根割れの心配がなく初心者でも作りやすい。
2025年
春種特集号 vol.59
2024年
秋種特集号 vol.58