産地ルポ

産地ルポ

2026/2/20掲載

農業生産法人 あかい菜園(株)
サクッとした食感が魅力
ヘタなし流通可能で、省力化にも貢献「千恋(ちこ)」

ナツメ型で濃赤色に色づく「千恋」。

ナツメ型で濃赤色に色づく「千恋」。

編集部(取材・文・撮影 三好かやの)2024年12月19日取材

地域概況

福島県いわき市は、浜通り地域最大の都市で人口約32万人。市内に15の工業団地を擁し、製造業が盛ん。温暖で日照時間の多い気候を生かした農業への企業参入も多く見られる。1990年、東北初となる大型施設を利用したトマト栽培がスタート。現在は6社で「サンシャイントマト出荷協議会」を結成し、全社がJGAP認証を取得。大型の環境制御型施設を活用した東北屈指のトマト産地を目指し、ブランド化を推し進めている。

農業生産法人 あかい菜園(株)

震災をきっかけに多彩なトマトを栽培

福島県東部。太平洋に面したいわき市には、1ha を超える大規模なトマトのハウスが点在し、「サンシャイントマト」の名で全国へ出荷しています。
赤井地区に位置する、あかい菜園鰍烽サのひとつ。2009年12月に大型ハウスを建設。当時33歳の船生(ふにゅう)典文さんが、社長に抜擢されました。当初は大玉の「桃太郎はるか」を栽培していましたが、2作目に入った2011年3月、東日本大震災に見舞われます。
その1カ月後、船生さんは東京・新橋で開かれた復興イベントでトマトを販売。都会では大玉よりミニトマトの方が、売れゆきがよいことを実感します。これを機に、大玉、中玉、ミニ、大きさだけでなく、オレンジ、イエロー、グリーンなど、多彩なトマトの栽培に乗り出しました。
環境制御型の施設で真夏に苗を植え付け、養液を各ベッドへ送り込んで栽培。約10カ月間果実をとり続ける作型で、栽培面積は1.5ha、年間約20種、約300tを生産しています。

震災を機に多彩な品種のトマト栽培に乗り出した、社長の船生典文さん。

震災を機に多彩な品種のトマト栽培に乗り出した、社長の船生典文さん。

猛暑の続く7月30日に定植。順調に生育している。

猛暑の続く7月30日に定植。順調に生育している。

栽培面積は全体で1.5ha。集荷場には、収穫を終えた大玉、中玉、ミニトマトが集まる。

栽培面積は全体で1.5ha。集荷場には、収穫を終えた大玉、中玉、ミニトマトが集まる。

サクッとした食感、ヘタなしの「千恋」を導入

2021年からはミニトマトの「千恋」に取り組み始めました。果形は縦長のナツメ型で、果皮はツヤのある濃赤色が特徴。さらに、ヘタの部分が他品種と比べてきわめて小さいため、汁もれ、傷みが少なくヘタなしでの流通が可能です。試作の1作目は200本、2作目は400本、3作目は800本の苗を植え付けました。
「これまでの品種にないサクッとした食感は新鮮なので、きっと喜ばれる」
従来の糖度重視のミニトマトとは異なる個性があり、トマトを食べ慣れている人も、もう1個食べたくなる。さらにリコピン含有量も高く機能性成分を豊富に含む「ファイトリッチ」シリーズの一員でもあります。
栽培面では発根力が旺盛で草勢が強いため、株疲れが少なくコンスタントに収穫できるうえ、裂果も少なく作りやすいと感じた船生さんは、来シーズンはさらに作付けを増やす予定です。
近年は、衛生面を考慮して、「千恋」のような「ヘタなし」のミニトマトを求める取引先が増えているのだとか。生産現場の担当者はヘタの「ある・なし」を気にせず収穫できるので、作業の省力化にもつながります。

震災と2度の台風を乗り越えて

かつて自動車関連企業で、エンジニアとして活躍していた船生さん。トマトの栽培は、まったくの素人でしたが、先に大型施設での栽培に着手していた先輩たちから多くを学び、栽培と経営に取り組んできました。
元々「数字を見るのが好き」でデータ管理が得意。日々作物の状況と温度、湿度、日射量、地温、水分率等、データを確認しながら、栽培を続けています。
設立から2作目で震災に遭遇。さらに2019年と2023年の台風に見舞われました。19年の台風でハウスは2m冠水。からくもハウスの骨組みと屋根は残りましたが、栽培に必要な設備は総入れ替えが必要で、社内の担当者が図面を引き、資材を発注。地元の仲間や資材メーカーの協力を得て急ピッチで復旧を進め、被災から2カ月後には、苗を定植していました。
「これだけの施設を復活させるには、社長として億単位の融資を受ける覚悟と実績、そして仲間が必要です」

多彩な品種を栽培

赤、オレンジ、イエロー、そしてグリーン。カラフルな彩りのミニトマトを栽培。

赤、オレンジ、イエロー、そしてグリーン。カラフルな彩りのミニトマトを栽培。

機能性成分リコピンを豊富に含む中玉トマト「フルティカ」も栽培。

機能性成分リコピンを豊富に含む中玉トマト「フルティカ」も栽培。

多彩な品種の「ミニトマトミックス」は人気が高く、パックに詰めて出荷。

多彩な品種の「ミニトマトミックス」は人気が高く、パックに詰めて出荷。

大きな実績を小さな直売所で

その「大きな実績」に欠かせないのが、2.5坪の小さな直売所。いわき市民を中心に連日100〜200人が購入目的に訪れています。棚には多彩なトマトが並んでいて、実にカラフル。これを詰め合わせたセットは、地元の人たちの間で「手土産」品として人気の的になっています。
同社の売上は全体の6割を系統出荷、残り4割をこの直売所が占めています。お目当てのトマトのセットはもちろん、規格外や過熟ぎみのトマトも「ソース用に」と求める人がいて、廃棄ロスは0に近く、ほぼ全量を売り切っているそうです。
「千恋」に手応えを感じつつ、大玉は「桃太郎ネクスト」に加え「桃太郎はるか」「桃太郎ブライト」を栽培中。中玉は「フルティカ」を導入していますが、養液のEC値を高めに設定して栽培したところ、順調に肥大して色回りもよく、さらに収量も上がりました。
多彩なトマトを提供し、その違いを誰もが楽しみながら味わえる。いわき市は今や「大型施設栽培トマトの先進地」になろうとしています。

2.5坪の直売所が大人気

菜園入口に設けられた直売所。他所では手に入らない品種も多く、いわき市民の人気の的。

菜園入口に設けられた直売所。他所では手に入らない品種も多く、いわき市民の人気の的。

色とりどりの大・中・ミニトマトに、加熱用品種を加えたセットは、贈答品としてのニーズも高い。

色とりどりの大・中・ミニトマトに、加熱用品種を加えたセットは、贈答品としてのニーズも高い。

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