岡山県高梁市秀品率に大きな期待を抱いて「桃太郎ワンダー」を導入〜適切な栽培管理で裂果を抑えることに期待〜

2019/02/20掲載

初代「桃太郎」を西日本でいち早く導入、以来「桃太郎8」「桃太郎サニー」と「桃太郎」ブランドの有数の生産地が岡山県です。中でも県内最大の夏秋トマトの生産地が高梁市を中心としたJAびほくです。JAびほくでは今、「桃太郎ワンダー」が導入されつつあります。どうして「ワンダー」を選ばれたのか。JAびほく備中総合センターの信清賢司営農生産課主任に、吉備高原に位置する産地の特性とともにレポートしていただきます。

JAびほく
JAびほく備中総合センター営農生産課主任の信清賢司さん。

JAびほく備中総合センター営農生産課主任の信清賢司さん。

冷涼な気候を生かし、岡山県最大の夏秋トマト生産地に

JAびほくは岡山市の北西、吉備高原中央に位置する高梁市全域、真庭市の南西部、吉備中央町の南部を管掌しています。
この地域は夏秋トマト栽培では50年の歴史があります。標高350〜550mの丘陵地にあり、冷涼な気候を生かし夏秋トマトでは岡山県最大の生産地になっています。
現在、トマト部会委員76名が約12haで栽培し、6月末から11月末にかけて京阪神や岡山市場に出荷しています。2018年度は10a当たり収量11tを目標にしていました。

これまでの主力品種「桃太郎8」(左)と「桃太郎サニー」(右)。

これまでの主力品種「桃太郎8」(左)と「桃太郎サニー」(右)。

JAびほくでは安全・安心なトマト作りのためにGAP(農業生産工程管理)の導入に取り組み、同時に労力軽減、品質向上、収量アップのため、養液土耕やマルハナバチの導入も積極的に行ってきました。
近年は産地の維持拡大のため、担い手の確保や新規就農者の受入れにも地域一丸となって取り組んでおります。

「桃太郎8」中心から「サニー」を加え、
「ワンダー」試験導入へ

JAびほくの現在のトマト部会が設立されたのは、共同選果場の統合整備にともない各町村の部会が合併した2005年です。
この当時、栽培の中心は「桃太郎8」でした。その後新品種を積極的に導入し、食味がよく市場の評価も高い「桃太郎8」に加え、葉かび病耐病性をもつ「桃太郎サニー」がメインの品種になっています。
作型は川上町では、5月上旬から定植、6月下旬〜7月上旬に出荷始め、収穫終わりは11月末です。また備中町では、5月中旬から定植、7月中旬から出荷始め、収穫終わりは11月末です。

JAびほくで導入されつつある「桃太郎ワンダー」。食味がよい夏秋栽培用「桃太郎」品種で、果形もよく生理障害の発生が少なく、裂果にも強い。
JAびほくで導入されつつある「桃太郎ワンダー」。食味がよい夏秋栽培用「桃太郎」品種で、果形もよく生理障害の発生が少なく、裂果にも強い。

JAびほくで導入されつつある「桃太郎ワンダー」。食味がよい夏秋栽培用「桃太郎」品種で、果形もよく生理障害の発生が少なく、裂果にも強い。

作業負荷の軽減、秀品率の高さ、そして生産量。
「桃太郎ワンダー」への期待

果形がよく生育の早い「桃太郎ワンダー」は試験的な栽培の段階から期待の高い品種でした。JAびほくとしての本格的導入は「ワンダー」の名前が付いた2017年からになります。「ワンダー」は出荷初めの果形がきれいで秀品率も高いレベルです。収量は、2017年はまだ栽培面積が小さく、正確なデータはつかめていません。
特長的なのはチャック果や窓あき果が少ないこと、特に低段では少なくなります。また花数が「桃太郎8」や「桃太郎サニー」に比べて少なく、そのため摘果作業が軽減され省力化につながっています。
裂果はほかの品種に比べて、現状やや少ないか、同程度といった印象です。2018年は7月の高温の影響もあり全体に裂果が多くなっているので、今後、さまざまなデータが出てくるのではないかと思われます。
「ワンダー」は「桃太郎8」や「桃太郎サニー」に比べて生育が早く、1〜2段多く収穫できれば生産量の増加につながるので期待の大きい品種です。特に川上町では、2018年度多くの生産者が「桃太郎ワンダー」を導入しました。「桃太郎8」と「桃太郎サニー」に並ぶ主力品種として期待が大きいようです。
ただし、「ワンダー」は生育が早い分、潅水量の管理には最大の注意が必要です。当地では潅水量を「桃太郎8」「桃太郎サニー」に比べて1〜2割多くしています。潅水量が不足すると葉先枯れや花数の減少の原因になります。着果数が少なくなると草勢の管理が難しくなります。 

高梁市川上町の藤井包温さん

高梁市川上町の藤井包温さん。藤井さんはJAびほくのトマト部会監事、川上支部副支部長を務められている。39年にわたりJAでトマトの営農指導をされてきた。藤井さんいわく、「ワンダーの特長は秀品率のよさと小葉で管理しやすいこと」。

2018年、川上町では多くの生産者が「桃太郎ワンダー」を導入した

2018年、川上町では多くの生産者が「桃太郎ワンダー」を導入した。川上支部全体の54%に及ぶ。生育が早く生産量の増加につながると期待は大きい。

こちらは湯野支部で「桃太郎ワンダー」を試作された山田さんご夫妻。

こちらは湯野支部で「桃太郎ワンダー」を試作された山田さんご夫妻。

岡山県=「桃太郎」のブランドイメージを「ワンダー」で強化

「桃太郎ワンダー」は「桃太郎8」に迫る食味をもっています。岡山県と親和性の高い「桃太郎」のブランドイメージをより高めてくれると期待しています。
また当地では8月後半から9月にかけての裂果の発生が収量を落とす大きな原因になっています。「桃太郎ワンダー」の秀品率を生かした適切な栽培管理で裂果を抑えることができれば、生産者の意欲向上にもつながるので期待しています。 
毎年、気候の変動が大きくトマトの栽培にも「例年通り」という言葉があてはまらないことが多くなっています。これまでの「桃太郎」シリーズの栽培経験をJAびほく全体で共有し、新規就農者の栽培技術を向上させてトマトの安定した栽培を目指していきます。

生産者と情報を共有し岡山県の「おいしいトマト」作りをリードすべく、日々JAびほく管内をまわり続けている筆者。

生産者と情報を共有し岡山県の「おいしいトマト」作りをリードすべく、日々JAびほく管内をまわり続けている筆者。

2005年に整備されたJAびほくトマト共同選果場
場内では「桃太郎トマト」の赤いロゴが描かれた段ボールにびほく産の「桃太郎」トマトが出荷を待っている。

2005年に整備されたJAびほくトマト共同選果場(左)。場内では「桃太郎トマト」の赤いロゴが描かれた段ボールにびほく産の「桃太郎」トマトが出荷を待っている。