タキイ優良品種 産地ルポ JA越後中央 どこにも負けないサンリッチ産地を目指して!(編集部)

2018/02/20掲載

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地域の概況

地域の概況

JA越後中央は新潟県のほぼ中央に位置しています。穀倉新潟平野に美田を展開し、豊かな水源に恵まれ、管内ではそれぞれの立地を生かした様々な農業が営まれています。 そうした中ハウスを利用した切り花栽培も盛んで、栽培農家は平成28年度で75名で構成。生産部会は切花協議会を構成し、その中で品目別部会(チューリップ切花部会 28名、ユリ切花部会 11名、一般切花部会 36名)の3部会で販売・生産にあたっています。

新潟市西蒲区

ひまわり

ひまわり

全農にいがたで取扱量第1位であるひまわりは、だれでも取り組みやすく種子切花の中では導入しやすい品目であるものの、栽培を追求すればするほど難しい品目とされています。特に市場の要求する品質にするには、かなり苦労が多いため、JA越後中央では農協集荷時に職員による全箱検品を実施し、茎の太さ、花のサイズなど出荷物の品質の均一化に努めています。そうした取り組みが市場の信頼につながり平成28年度実績で約60万本の出荷で1本当たり約58円の単価がつくまでに成長してきました。今や切花生産が盛んな当地においても堂々たる実績を積み上げています。当地でひまわり栽培のきっかけとなったのは、「サンリッチオレンジ」が登場したことでした。

生産者の齋藤さんと奥さまの孝子さん〈中〉、娘さんの美沙子さん(左)。

なぜサンリッチを作り始めたか

なぜサンリッチを作り始めたか

右からJA越後中央奥田さん、河村さん、協議会長で一般切花部会会長でもある山際幸博さん。

今回はJA越後中央東部営農センター様に訪問し、サンリッチ栽培当初からを知る協議会長 山際幸博さん、生産者齋藤賢三さん、JA越後中央切花販売主任の河村光さんと導入当時のご担当奥田勝治係長にも加わっていただきお話を伺いました。当地でひまわり栽培が始まったのは、春のチューリップ栽培に対し、夏のメイン品目がなかったころです。丁度オリエンタルユリの価格が下がってきた時でした。比較的手がかからず施設もそのままで導入できるひまわりに着目したそうです。平成11年のことでした。奥田さんによるとチューリップも比較的肥料を使わない品目で、その後作に向くのではないかと齋藤さんらに声をかけたそうです。

すでにひまわりを栽培していた山際さんらに数名が加わり5名の共撰でスタートしました。導入当初の品種は55日タイプの「サンリッチオレンジ」。春にまく1作目は丈も短く普通に作れるそうですが2作目が大きくなって大変。3割切ると倒れて曲がってしまいます。奥田さんは初年度サンプルをもって東京の市場に売り込みに行きましたがほとんど相手にされなかったそうです。しかし、市場にメインで出ている他産地のサンリッチを初めて見たことで、多くの情報を持ち帰りました。

「軸を細くしまったかたいものにして、輪をそろえよう」そうして改善し持ち込んだ関東の市場でようやく「こんないいものが作れるなら」と取引が始まったそうです。「当初出荷の選別は軸の太さによる選別でした」取引はスタートしたものの出荷量も少なく単価は50円に届かず。出だし50円でスタートしても単価はシーズンを追うごとに低下し、終わりには30円台に落ちてしまいます。平均単価48円程度の時代が2〜3年続きました。どうすれば単価を上げ維持していけるか。そのころ市場からは花径の大きさによる選別のリクエストが来るようになっていました。理由は使うショップが用途によって花径をそろえて指定することが増え、蕾での出荷では開花時の花径が分からなかったからです。これをチャンスととらえ奥田さん等は、苦労を承知で輪選別での出荷に切り替えました。一丸の取り組みで蕾状態でも花径を判断できる出荷基準を整え、検査体制を強化、ばらつきをなくしていきました。

ズイの詰りがよく、茎がかたい「サンリッチ」。

また、当時はサンリッチが55日タイプしかなく、夏場に取り組む産地が少ない状況でした。そこで、この期間の出荷を継続するため、2作目の6月末から7月中旬までシェードをかけて草丈を調整しました。当初5名でスタートしたひまわり栽培は互いに圃場を見て回ることで情報を共有し、栽培技術を確立していったといいます。

こうして、輪サイズによる出荷選別の切り替えや、夏場に品質のよいひまわりを継続出荷することで市場からの信頼は日に日に高まりました。単価も上向きとなり、平均単価50円台を突破。サンリッチもオレンジだけでなく、レモンやパイン、茶系や鮮芯などバリエーションが増えることで目先が変わり市場も拡大、単価上昇に寄与しました。

「タキイのサンリッチシリーズだけで20以上もケースに押すハンコを作ったよ」と笑う山際さんや齋藤さん。
ヒマワリの切り花市場拡大に合わせ次々と出る品種を作りこなしてこられました。作付けはすべてJAが計画を立て年間通じて出荷に山谷を作らないよう面積と本数をお願いしますが、品種は各生産者に任せられます。

やがて関西からの引き合いも増え始めさらなる上昇機運に乗りました。生産量も増え、市場も増え、生産者も増える中、奥田さんたちは気を引き締めて品質維持のためにハウス巡回での指導を増やし、奥田さんから引き継いだ河村さんは、全品検査を実施して経験の浅い生産者による切り前状態の出荷でも輪選別でバラつきが出ないよう指導体制を整えていきました。こうして新規参入でも最初から10万本の出荷規模が図れる体制で取り組んでいます。

選別を容易にするため規格をリニューアル

選別を容易にするため規格をリニューアル

さらに河村さんが平成26年にひまわりの担当を引き継ぐと、出荷市場や千葉の産地などを見学。新たに取り組んだ工夫が、新規参入者を含め生産者が取り組みやすいよう、出荷の規格をリニューアルしたことでした。それまでの選別基準は小輪規格が7〜6cm、中輪が10〜8cm、大輪が12cmとされていましたがこれは採花してあくまで出荷した時点の花径の広がった大きさです。お花屋さんで咲いた時ではありませんでした。

これを河村さんは、満開時の花径サイズに変更し、小輪を7cm程度、中輪を8〜10cm、大輪を12cm程度としました。使い手であるお花屋さんが仕入れたいサイズの要望に直接応えられるようにすることで優位販売を可能にしたのです。その成果はすぐにあらわれ、翌27年には60万本の出荷を突破し販売金額は過去最高の3,566万円を達成。単価も50円台後半の57円台に乗せることができました。

開花サイズの判断を説明する河村さん。

平成29年度も単価58円台に到達しています。河村さんはその狙いを、「どうしてもこの花業界は、草丈が長い物、花が大きい物から値段が付いていきます。同じ秀品なのにサイズの大小で格差が生まれる。服屋さんとかなら、同一価格で各サイズが用意され、消費者が求めているサイズを選び同じ価値で扱われている。この感覚をなんとかこのヒマワリにも取り込み、価格の底上げができないのかと考えました。

中輪だけではなく、アレンジメントやギフトに使いやすい小輪やミニも同じ秀品だという考え方です。現状まだまだ価格差は埋めきれていませんが、昔は中輪50円目標にやっていたのが、ミニで50円付くようになり少しずつですが底上げは図れてきています」と、当時を振り返って話してくれました。

しかし、店頭以降の満開サイズを保証するためには切り前の判断は難しさを増します。そこで、河村さんは役員の方々の協力も得て日々現場へ足を運び、初心者でも判断しやすい切り前の状態や出荷時の花の実物大の形状を写真で比較した選別基準表を作成しました。基準表には出荷時の実物大花径の状態を正面から比較した写真のほかに、切り前の花の蕾の状態をかため〜適期〜ゆるめの状態が分かりやすくとらえた切前基準写真を追加されました。そして、水揚げは出荷日当日朝まで行い、1箱内の切り前は揃えることを徹底し、出荷箱の階級欄には切り前固め、緩めを含めた該当輪サイズを明記。河村さんの指導も巡回時には出荷曜日、水揚げ時間を考慮した圃場の切り前への注意喚起や品種特性に合わせた葉かき(サンリッチ系なら上位3枚残し)の指導、こうした取り組みが3日前販売の実施に結実していくのです。

輸送コスト削減に3日目販売に踏み切る

輸送コスト削減に3日目販売に踏み切る

平成11年からの初期メンバーで栽培歴17年の齋藤さん。45日タイプがでたことで栽培の苦労はなくなったという。「その分、日本全国どこでも作れるからライバルもふえるということ」と、複雑な生産者の心情も。齋藤さんは栽培で化学肥料を一切使わない。

これまでは月曜日のセリに合わせて2日前の土曜日出荷としていました。しかし今年は3日目販売に出荷を1日繰り上げました。生産者は水曜日から採花を始めますが、販売までの日数が増えた分、開花状況を見極めることがより困難になります。しかし、市場ではセリ前日にWEB上での前売り比率が占める割合が増えてきています。AM10時には前売り情報が出て11〜13時はショップの方が仕入れを決めるゴールデンタイムと言われます。1日出荷を繰り上げることで販売を優位に進めることができます。

ただし3日目販売となれば、ひまわりの日もちは、品質面でさらに重要な要素になります。花弁が厚く日もちがいいサンリッチシリーズは市場の評価が高く、45日タイプを中心にその数を増やし、今作は全体でサンリッチ系が8割を占めています。

サンリッチは何といっても、軸や花弁の硬さ、花もちのよさがすばらしい」と斎藤さん。サンリッチの茎は細いですがズイが詰まっているのだそうです。

実は限られた面積で3回転を目指す斎藤さんにとっては開花のそろいやすい別シリーズの方が経営には向いています。しかし花弁の落ちが早く、3日目販売には不向きだということで、サンリッチ系に変更しました。

出荷が1日早まれば、採花のタイミング、切り前の判断は益々難しいのではないかと質問すると、「もちろん水揚げのタイミングが難しいですが、それが産地の技術です」と自信のコメント。ライバルとして意識する千葉県産には市場到着時の切り前(かたさのこと)で負けていないと胸を張られます。

新規の生産者へ

新規の生産者へ

齋藤さんはひまわりの栽培について、「一見簡単そうに見えて誰でも導入できるけど、栽培は水と肥料の管理が意外と難しい。私も初めて栽培した時は、なかなか花が咲かず背丈ばかり大きくなって大失敗でした。春先肥料の多いストックを作った後作にひまわりを栽培したものだから、残肥も多かったことも原因。今もストックとのローテーションが多いですが、肥料を吸わせ切ってゼロ近くまで持ってくるようにしています。小さくがっちり作っていくには水も肥料もいらない。山際会長は、新規にひまわりを始められた方には、作り方を身に着けるまで3年は栽培を継続してくださいとお願いしています」

「ひまわりの開花は日長に影響を受けるため、シェードをして短日処理で開花を早めたり、タイベックをかけて花芽を分化させ丈を縮めたり苦労していました」「そういう意味で『サマーサンリッチオレンジ45』は大好きな品種ですよ、そうした苦労がなくなりましたから」「胸ぐらいの高さで仕上がるのが理想。草丈が伸びた時代は、採花するのに蕾が開きかけているか、棒の先に手鏡をつけてのぞいたり、ビールケースにのってのぞき込んだりしていました」と、栽培当初の苦労話で盛り上がる皆さんの笑顔からは、そうした困難を乗り越えてトップレベルまで産地を成長させてきた自信があふれます。

平成17年には59,000本だった出荷が昨年は59万本の10倍まで順調に成長してきました。現在の目標は年間100万本。45円からスタートした単価は今年で平均58円までになりました。目標は60円ですが現在目標としている産地は、トップレベルの品質を誇る北海道岩見沢だそうです。

箱に詰めるときは横に3株、4株、3株の並びで並べられる。花の鮮度面ではエルフバケットを使った縦詰めが理想だが当地では輸送効率の面で難しい。

サンリッチUPに高まる期待

サンリッチUPに高まる期待

採花した「サンリッチ」は冷蔵庫で金曜日まで保管される。

今や単価60円平均が見えてきた当地にあって、今年導入が開始された「サンリッチUP」シリーズは出荷先からも好評を博しています。8月のブライダルに合わせて単価も10円高で推移する状態。特に関西市場からの引き合いが強いそうです。生産者にとっても作業性がよく、大幅なアップライトへの切り替えを求める声も強まっているとのこと。特に「サンリッチUPマンゴー」は茎がかたく、発色がよいなど評価が高く、市場と生産者ともに期待が高いようです。 「作り始めは手のひらサイズの花径が好まれましたが、最近はブーケの予算が低下して花径6cm2のアップライトがいいですね」と河村さん。今後も消費に合わせてJA越後中央でのひまわり栽培は進化を続けていきます。

好評の「サンリッチUP」。メインはオレンジで約5割を占め、レモンや鮮芯タイプが2割、残りは八重やバイカラーなど変わり咲き。