産地ルポ

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2023/7/20掲載

新品種「冬ちあき」が千葉県のニンジン産地で好評
丸朝園芸農業組合とJA富里市。

千葉県はニンジンの有名産地です。丸朝管内ではニンジン播種機や収穫機による機械化で産地の省力化や規模拡大が進んでいます。近年猛暑による夏まきニンジンの影響などが強まり、生育の安定した品種が求められています。
今回は、当地に導入されたニンジンの新品種「冬ちあき」について、代表理事の松本康浩組合長、遠藤勝男専務理事、販売部の松本雅紀主任にお話をお聞きしました。また、後半は個選の産地JA富里市でも「冬ちあき」が準推奨品種となりました。こちらは営農指導課の大島彩花さんにご紹介いただきます。

2022年12月6日取材

ケース①

千葉県丸朝園芸農業協同組合選果場「BIG SUN」はフル回転
——「冬ちあき」ニンジンを年内どりで導入

(編集部)

地域の特徴

千葉県の丸朝園芸農業協同組合は、1950年共同出荷を目的に、創設者の手島正爾氏の呼びかけで10数名の同志で設立されスタートしました。1964年に法人化され、純粋な農産物の営農だけに特化した全国でも珍しい協同出荷組合です。1998年にはニンジン・トマトの大型選果場、「BIG SUN」を建設、2012年には場内の機械施設も更新されています。エリアは芝山町を中心とした近隣の4市3町からなり組合員450名あまり。JA 富里市やJA山武郡とエリアが重なる生産者も多くいます。主な品目は販売額10億円の春を含めた秋冬ニンジンと夏のスイカ輪作を中心に、施設トマトやカボチャ、ホウレンソウ、馬鈴薯、切り花ではヒマワリやサンダーソニア、カラーなどが栽培されています。

1998年に建設されたニンジン・トマトの大型選果場「BIG SUN」。2012年には場内の機械施設も更新された。

1998年に建設されたニンジン・トマトの大型選果場「BIG SUN」。2012年には場内の機械施設も更新された。

1998年に建設されたニンジン・トマトの大型選果場「BIG SUN」。2012年には場内の機械施設も更新された。

選果場BIG SUNに持ち込まれるニンジン

人参部会は190名が登録し秋冬ニンジンの面積は230〜240ha、冬どりの年間扱い量は70〜80万ケース(1ケース10s)。播種は7月末から8月15日くらいが中心で、短期間、一斉に播種して手間を省き、早生、中早生、中生と熟期が異なる品種を使うことで、11〜3月上旬くらいまで収穫期間を分散させるイメージです。
品種には在圃性が求められ、収穫時にニンジン表面が傷みにくい葉をはさみあげて収穫する収穫機の普及で、年内どりは健全な地上部の葉を保てることが必要です。もちろん全期間を通じて品質を下げる空洞果やス入り、表面の黒しみなど病気や生理障害に強いことも重要です。丸朝園芸の選果は厳しく、土付きのままフレコンで選果場に持ち込まれたニンジンは、プールで泥が落とされますが、その際水面に浮いてしまうス入りした比重の軽いものはその時点ではじかれてしまいます。

BIG SUN内部の機械施設。

BIG SUN内部の機械施設。

BIG SUNで泥が落とされた「冬ちあき」。「ブタ鼻」と呼ばれる変形も比較的少なく、総太り型で詰まりがよい。

BIG SUNで泥が落とされた「冬ちあき」。「ブタ鼻」と呼ばれる変形も比較的少なく、総太り型で詰まりがよい。

「冬ちあき」導入の理由

播種は機械化が進む中、昔のように間引き作業がありません。一粒の発芽と発芽勢、そろいのよさが求められます。「冬ちあき」の初期生育は極良好だそうです。近年夏まきは猛暑による地上部の熱波で発芽後の苗がストレスを受け、生育後、肩の傷となって、収穫時に通称「ブタ鼻」といわれるエクボ状の変形が発生します。「冬ちあき」は比較的発生は少ないと好評です。また、しみ症にも安定して強い特性を発揮しています。
形状でも、従来品種は尻の詰まりが悪いのですが、「冬ちあき」はダイコンみたいな総太り型で詰まりがよく1本200g程度に太り、目方も取れるメリットもあります。

ブタ鼻の症状。

ブタ鼻の症状。

入荷したニンジンをチェックする販売部販売課 松本雅紀主任。

入荷したニンジンをチェックする販売部販売課 松本雅紀主任。

葉が丈夫で長く機械収穫できる「冬ちあき」

霜が当たると葉傷みが出てくるのですが、「冬ちあき」は健全で色の濃い葉を長く保ちます。また、立葉で垂れて広がらない。機械収穫との相性はぴったり。
「関東は霜が強く2月上旬を過ぎると地上部の葉が枯れてなくなります。その後の収穫はサツマイモやジャガイモを土ごと掘り起こす収穫機が使われますが、手掘りの場合は葉を落とす作業に負担もかかります」と、機械収穫のメリットを話す松本主任。「冬ちあき」は中早生の中では熟期が少し早く、加えて遅くまで機械収穫できるので使い勝手がいい品種との評価です。

取材当日「冬ちあき」を6袋出荷された冨澤正雄さん。選果でのロスが少ないと絶賛いただいた。

取材当日「冬ちあき」を6袋出荷された冨澤正雄さん。選果でのロスが少ないと絶賛いただいた。

選果場に持ち込まれた「冬ちあき」。

選果場に持ち込まれた「冬ちあき」。

総太り型の形状で目方もとれ、そろい抜群

松本組合長にも「冬ちあき」の印象をお聞きしました。「色は中身まで濃いオレンジ系です。根形はこれまでの逆三角形ではなく肩張りのよい円筒形の総太り型でバランスがいい」と、形状も問題はないようでした。「株間を狭めたり、草勢が弱いと肩が落ちてなで肩になりますが、この品種は総太り型で使いやすい」との声を生産者からも聞くから問題は感じないと話していただけました。

松本組合長、「冬ちあき」は色は中身まで濃いオレンジ系で総太り型で使いやすいと話してくださった。

松本組合長、「冬ちあき」は色は中身まで濃いオレンジ系で総太り型で使いやすいと話してくださった。

潅水や葉面散布は当たり前の産地

この地の生産者は春には細かい管理が必要なスイカ栽培をされることから、ニンジン栽培でも手をかけることをいとわない方が多い、と教えていただいたのは生産指導のご担当の遠藤専務。
実際、圃場を見せていただいた生産者尾野和行さんも「発芽時には午前中潅水するのは当たり前、3〜4haくらい平気ですよ」と、肥料抑えにリン酸成分の「ホスベジ」などミネラル分を葉面散布されるそうです。「スイカづくりは水商売。栽培で手をかけるのは億劫ではありません」という尾野さん。こうした栽培レベルの高い生産者は栽培に集中し、選果と販売は組合が請け負うという丸朝園芸の分業体制は、品質の高い青果物を安定して出荷できる一つの強みかもしれません。

今年4haで「冬ちあき」を栽培された尾野さん。一番条件の悪い圃場で栽培したにもかかわらずMLサイズにそろい、捨てるものがなかったとの感想。

左が「冬ちあき」。茎の部分が細くカットしやすい。

左が「冬ちあき」。茎の部分が細くカットしやすい。

ケース②

個選で1本1本ていねいに箱詰め、
千葉県JA富里市の「冬ちあき」は形状と長さが安定し、
1月に機械収穫が可能

(JA富里市営農部 営農指導課 大島 彩花)

集荷場でタキイから紹介された「冬ちあき」の現物を見て導入を試みた青木智大さん(右)の圃場にて、左が筆者。

地域の特徴

特産品に恵まれた富里市の農業振興に取り組むJA富里市

富里市は東京都心から50〜60km(京浜市場から車で1.5時間以内)、成田国際空港から4kmの千葉県の北総台地の中央に位置し、耕地の起伏が少ない台地畑作地帯が多くを占める県下有数の農業地帯です。この地域では野菜、畜産(豚)、花きの栽培が盛んで、その生産性は高く、スイカ・ニンジンなど数々の特産に恵まれるとともに、生鮮食料の供給拠点として、なくてはならない地域です。

JA富里市

ニンジン栽培の概略

JA富里市人参部は部会員数約400名、栽培面積が約450haとなっており、年間約150万ケースを北は北海道から西は大阪まで出荷しています。大型選果場がないため、洗浄から選果、箱詰めまでを生産者個人が行っています。2003年からは減農・減肥で栽培する「ちばエコ農産物」の認証を受け、現在秋冬作で57名の生産者が取り組んでいます。

JA富里市では洗浄から選果、箱詰めまで生産者個人が行う

JA富里市では洗浄から選果、箱詰めまで生産者個人が行う

栽培の課題

当地の秋冬ニンジンの栽培では、播種期の高温が原因となる肩部の障害やしみ症の発生が問題となっています。
また、年末から年明けの収穫では降霜の影響による地上部の傷みが生産者の悩みとなっています。当部会員はニンジン収穫機で収穫を行うため、地上部が枯れあがってしまうと掘り残しが多くなり作業効率が下がってしまうためです。

機械収穫中の青木さん。

機械収穫中の青木さん。

「冬ちあき」導入の経緯

「冬ちあき」は葉の耐寒性が強く、形状のブレが少ない品種として2018年から試作を開始しました。3年間部会役員で試作を行ったところ、暖冬が続いたため葉の耐寒性は確認しきれませんでしたが、しみ症や肩部の障害の発生が少なく、形状も安定していたため2021年には役員だけでなく、部員13名にも試作をお願いし、拡大試験を実施しました。その年の結果は、根部障害や正品率は慣行品種と同程度で、葉の耐寒性に関しても圃場ごとに差はあったものの、1月でも機械収穫が可能だったとの声が多く聞かれたため、2022年より部会の暦に準奨励品種として掲載し、多くの部員の方が栽培されています。

JA富里市では「冬ちあき」が準奨励品種として多くの部員によって栽培されている

JA富里市では「冬ちあき」が準奨励品種として多くの部員によって栽培されている

2022年度の評価

2022年度は播種期である8月に降水量が多くなり、生育期は例年にない暖かさが続きました。そのため7月下旬から8月上旬にかけて播種し、11月に収穫時期となった「冬ちあき」は、やや長根傾向となり正品率が下がることもありました。しかし、8月中下旬に播種、12月中旬以降に収穫を迎えたものに関しては長さが安定し、これまでの試作時と同様にそろいがよくて形状が安定しているニンジンとなり、さらに1月に入っても、機械収穫が可能な葉を維持できました。
青木智大さんは、ほかの生産者からの推薦もあって今年から3ha栽培されました。前述の通り今年の気象条件でやや長根気味で正品率が下がった時期もありましたが、生育後半には形状やそろいが向上したと、次年度も引き続き栽培したいと意欲を示されています。

「冬ちあき」を試しに収穫する青木さん。8月中下旬播種のものは12月中旬以降に収穫を迎える。

「冬ちあき」を試しに収穫する青木さん。8月中下旬播種のものは12月中旬以降に収穫を迎える。

異常気象に備える

近年の異常気象の影響で、発芽不良や生理障害など毎年さまざまな問題が発生しています。生産者からはそのような問題に対応できる品種の導入を望む声が多くあります。今後も人参部で品種試験を実施し、高品質で収量の安定した品種の選定を行っていきます。

J A富里市の特産でもあるニンジンを異常気象から守るためにも、品種選定は重要。機械収穫にも対応した「冬ちあき」への期待も高い。

J A富里市の特産でもあるニンジンを異常気象から守るためにも、品種選定は重要。機械収穫にも対応した「冬ちあき」への期待も高い。