産地ルポ

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2024/2/20掲載

福島県内1位の販売額を誇るJAふくしま未来
露地栽培でのつるもち性のよさが
「Vシュート」導入の決め手

左からJAふくしま未来保原営農センター営農指導係の清野拓也さん、JAふくしま未来伊達地区営農経済課営農指導係兼営農指導員トレーナーの佐藤裕基さん。

左からJAふくしま未来保原営農センター営農指導係の清野拓也さん、JAふくしま未来伊達地区営農経済課営農指導係兼営農指導員トレーナーの佐藤裕基さん。

JAふくしま未来は福島県北地域と相馬地域の12市町村を管轄する広域JAで、管内面積は福島県全体の19%を占めています。伊達地区は献上桃の郷「桑折町」があるようにモモの栽培が盛んで、また、福島県ブランド認証産品のあんぽ柿を生産する産地としても知られています。また、キュウリやニラは管内トップの生産量を誇ります。
今回JAふくしま未来伊達地区全体のキュウリ営農指導を統括する佐藤さんに「Vシュート」導入の経緯を伺いました。

編集部 2023年8月24日取材

伊達地区
キュウリ生産部会の概要

伊達地区キュウリ生産部会は保原、梁川、霊山、西部の4地域からなり栽培面積は全体で84haを誇ります。ハウス長期雨よけ栽培が中心でそのほか抑制、露地栽培が行われています。出荷は西部地区を除く3地区で共同選果機が導入され、生産者の約7割が利用しています。自己搬入されたキュウリを光センサーで規格分けし、品質のそろったキュウリが京浜市場を中心に仙台、北陸方面、県内市場へも出荷されています。その出荷量は最盛期で1日60〜70tに上ります。

選果機は2レーンあり光センサーを使って長さ、太さ、重さ、形状などでAL〜無印の6段階に規格分けされる。

選果機は2レーンあり光センサーを使って長さ、太さ、重さ、形状などでAL〜無印の6段階に規格分けされる。

販売額日本一の理由

先述の通り当地では長期雨よけ栽培が多く、共同選果で品質も安定しているため市場での評価が高く、事実出荷場に並んだキュウリはよく太り肌つやにもすぐれていました。ここまでには部会員と営農指導員の方々が品質が安定する長期雨よけ栽培と共同選果を並行して発展させてきた経緯があります。
福島県は自治体がキュウリへの新規就農を後押ししており、伊達地区では後継者や新規就農者が多いとのことでした。伊達地区全体のキュウリ営農指導を統括する佐藤さんによると、「長期雨よけ栽培が盛んな地域ではあるものの、新規の方は資材費がかかることや継続できるかもわからない」と、露地栽培を推奨しているそうです。佐藤さんは若手営農担当者の指導も兼任され、産地の段階的な発展を見据えた取り組みに力を入れておられると感じました。
福島県とJA福島中央会は、GAP日本一を目指し認証取得にも取り組んでおられます。JAふくしま未来のキュウリもJGAPの団体認証を取得しており、認証をうけたものは優位価格で取り引きされています。

朝出荷された「Vシュート」。8月下旬でも比較的果形の乱れは少なかった。

朝出荷された「Vシュート」。8月下旬でも比較的果形の乱れは少なかった。

選果レーンにはJGAP対象の雨よけ栽培キュウリも並んでいた。

選果レーンにはJGAP対象の雨よけ栽培キュウリも並んでいた。

「Vシュート」導入の経緯

今回取材した保原地区は栽培面積18haのうち、露地が2haあります。露地作の定植は遅霜のリスクを避け5月下旬〜6月上中旬ごろに行い、収穫は7月下旬〜8月ごろに最盛期を迎え、長くて10月いっぱいまで続きます。
「Vシュート」は2021年に部会役員を含む3名で試作し、昨年は地域を変え山手から平地まで地理的に異なる生産者3名で試作。その結果、後半までつるもちがよく収穫の波が少ないことが評価されました。今年は部会員同士の意見交換もあり、保原地区の部会員8名が導入されました。
ご承知の通り、キュウリは朝、夕の2回収穫し夏は収穫作業で忙しくなります。従来の品種は収穫の盛期が集中することと、値段が上がる盆明けまで草勢を維持させることが課題でした。佐藤さんと清野さんは「Vシュート」は決して多収の品種ではありませんが、9月以降に問題となる褐斑病やべと病に強いことと、つるもちのよさで後半まで収穫できることが利点だったと話されていました。

生産者
氏家慎之介さんの評価

「Vシュート」を導入した生産者の氏家慎之介さん(取材時23歳)は、18歳で就農し、母親と祖母の3人の家族経営で、パート2名を雇用し収穫・管理作業をされています。2022年から「Vシュート」の少量試作を開始し、今年は露地30aのうち約3割の10aで導入されました。時期によって価格が変動する中で安定した収益化のため初期多収型の品種とスタミナ型の品種を組み合わせる計画をしていた中で、「Vシュート」が長期出荷できるつるもち性のよさが導入の決め手だったそうです。
今年の「Vシュート」について伺うと「草勢を見ていると初期の雌花の除去をもう少し抑えて摘葉することで初期の収量もあげられそうです」と来年の収量増を目指し、ゆくゆくは法人化も見据える意欲的な眼差しに力強さを感じました。
今後、「Vシュート」が夏秋キュウリ産地の一端を担う品種として産地の発展に貢献できることを期待しています。

「Vシュート」を手に来年以降の意気込みを語ってくれた生産者の氏家慎之介さん。

「Vシュート」を手に来年以降の意気込みを語ってくれた生産者の氏家慎之介さん。

氏家さんは「Vシュート」を主茎と強い小づるの2本仕立てで栽培。「去年より長く、9月まで収穫できそう」と手ごたえを語られた。

氏家さんは「Vシュート」を主茎と強い小づるの2本仕立てで栽培。「去年より長く、9月まで収穫できそう」と手ごたえを語られた。