産地ルポ

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2023/7/20掲載

ミズナ小株どりの先進産地茨城県
「都むすめ」導入生産者の声を紹介!

新品種のミズナ「都むすめ」は萎凋病耐病性をもち、作業性を向上させた生育旺盛な早生ミズナです。夏期や冬期の株にストレスがかかる時期にしっかり生育してくれるため、安定した周年栽培を支えてくれます。関東で先行して栽培されている茨城県2産地の事例をご紹介いたします。

編集部 2023年1月27日取材

ケース①茨城県JAほこたの事例

株のまとまりがよく作業性が向上、ストレスがかかりやすい夏と冬作で力を発揮

JAほこた 営農企画推進課 戸島大和さん(右)と生産者の高根澤好克さん。

地域の特徴——「農業王国」茨城県J Aほこたのミズナ栽培

鹿島灘に臨む、茨城県の太平洋側。温暖な気候と水はけのよい肥沃な台地に恵まれ、さまざまな農産物が栽培される産地です。生産量日本一で知られるメロンの陰に隠れていますが、周年で生産されるミズナでも全国有数の産地なのです。
JAほこた園芸部会ミズナ部は77名が所属し、ハウスでの栽培で出荷量から想定される栽培面積は227 ha。2021年度の出荷量は5s箱で72万8753ケースを数えます。販売額は10億8400万円程度。ミズナの価格は比較的安定しており、コロナの影響で栽培をメロンからミズナに転作された方もおられるようです。

JAほこたのミズナ5s出荷箱。

JAほこたのミズナ5s出荷箱。

作業性のよさが評価され、夏場と冬場に導入

当地でのミズナ栽培はハウスによる周年作が行われ、年に6〜7回転で栽培されています。大きく分けると栽培適期である春・秋作と、栽培にストレスがかかりやすい夏・冬作になります。「都むすめ」は夏作に特性を発揮する品種として試作導入されていますが、作業性のよさから冬作でも評価されています。管内ではミズナを栽培する高根澤好克さんも年間を通じて出荷するミズナ専業生産者です。収穫作業を8人で回される高根澤さんがこの品種に着目された理由は「作業性のよさにある」といいます。ミズナ経営の多くの部分は収穫と調製作業に占められるため、ここがスムーズでないと全体の作業はどうしても遅れがちになります。
高根澤さんは「都むすめ」について、「生育が夏でもおとなしく徒長せずまとまりがよい。葉や葉柄が太くて作業中に折れにくい」と、立性でまとまりのよい草姿を好まれた様子。株元もばらけにくく作業がはかどるとのこと。また、「高温多湿条件で多い、とり足と呼ばれる分けつがほとんど出ないので、調製時の取り除き作業が短縮できます」と、下葉とりの少なさを評価いただいていました。
なお、鉾田の出荷規格は「AL」「AM」の2規格を中心としてFG袋は200gの目方です。長さは35〜40p、出荷ケースには25袋入りとなります。上の葉が詰まっている方が全体のボリュームが出て有利とのことです。

管内でミズナを栽培する高根澤さんは、「都むすめ」導入は株元のまとまりのよさと作業性のよさにあるという。

管内でミズナを栽培する高根澤さんは、「都むすめ」導入は株元のまとまりのよさと作業性のよさにあるという。

引き抜いてから根をはさみで切る収穫作業は由美子夫人をリーダーに女性陣が一斉に行う。株元がばらけにくい「都むすめ」は好評だ。

引き抜いてから根をはさみで切る収穫作業は由美子夫人をリーダーに女性陣が一斉に行う。株元がばらけにくい「都むすめ」は好評だ。

ミズナ栽培歴25年の高根澤さん

高根澤さんのハウスは間口5.4×奥行50mのハウスを使用されています。取材した1月下旬は播種から収穫まで2カ月程度で夏場が1カ月程度。播種機「ごんべえ」による直まきで株間6p、28条での作付けです。間引きは行いません。
61歳を迎えた高根澤さんは、これまでメロンからホウレンソウ、ミズナと栽培品目を転換。ミズナ栽培を手がけたのはサラダ需要が増えた平成10年ごろに市場からの作付け要請があって以降、ミズナの価格は安定し、周年で栽培できる点も経営には有利だったようです。

萎凋病(萎黄病)に強く、発生がないという「都むすめ」ですが、連作障害や土壌病害が出ないよう毎作堆肥(植物質)を入れて有用微生物も投入されています。播種の24時間前にはしっかり潅水を済ませておくことが大切で、追っかけ水をしないことが一斉発芽と初期生育を順調に進めるコツだそう。
「都むすめ」は発芽ぞろいや発芽勢もよかったそうです。「この品種は真夏とか厳寒期とかストレスがかかる環境下で本気を出してくれます。夏だけでなく需要が多い冬場でも株張りよく目方も出ます」
由美子夫人は「はじめて収穫したときに作業性のよさに驚きました」と「都むすめ」に太鼓判。当地では収穫の際、葉が絡まないよう散水してから収穫されますが、収穫も楽な品種で助かってますと終始笑顔でした。

「都むすめ」同様の作業性のよさをもった春秋品種の開発にも期待を寄せる高根澤さん。

「都むすめ」同様の作業性のよさをもった春秋品種の開発にも期待を寄せる高根澤さん。

夏場に多い分けつの発生がない「都むすめ」。

夏場に多い分けつの発生がない「都むすめ」。

由美子夫人をはじめ、日々収穫や調製を行う女性陣の目線はシビア。

由美子夫人をはじめ、日々収穫や調製を行う女性陣の目線はシビア。

ケース②JA茨城旭村

夏どりでも冬どりでも評価される「都むすめ」の作業性

JA茨城旭村管内生産者高田博樹さん(左)と営農指導課藤沼宵士さん(右)。ミズナ蔬菜部会は44名が登録。

JA茨城旭村管内生産者高田博樹さん(左)と営農指導課藤沼宵士さん(右)。ミズナ蔬菜部会は44名が登録。

地域の特徴——水源と海のミネラルに恵まれたJA茨城旭村

茨城県中部に位置し東は太平洋に面し、海からのミネラルが土壌に浸透し、周辺には、霞ヶ浦・北浦・涸沼と恵まれた水源があり、寒暖の差が大きな土地で、メロンやトマト、ホウレンソウ、コマツナ、ミズナなど多くの野菜・果物の生産と出荷を行っています。

ミズナ栽培の概略

JA茨城旭村のミズナ栽培は、ハウスを利用した周年作、あるいはホウレンソウ・コマツナとの併用作として栽培されています。現在、ミズナの部会員は44名でうち周年で栽培されている部会員は10名を数えます。出荷先は関東周辺の市場だけでなく、北海道や本州全域と幅広い地域にわたり、年間52万ケース(2021年実績)を出荷しています。

「都むすめ」を導入

近年、夏場の気象条件が厳しくなり、ミズナ栽培においては暑さによる株の「とろけ」や生育不良、軟弱徒長が発生し、年々栽培しづらい状況になってきました。また、ハウスによっては土壌病害の発生も散見されるようになってきています。
一方、収穫作業においては、分けつや下葉の除去など、多くの手間がかかる品目のため、さらなる作業性の向上が求められる状況でした。
そうした課題解決に向けて、2019年より当時水菜部の部長であった高田博樹さんを中心に「都むすめ(試作品種名TTU-574)」の試作を開始。土壌病害に強く、株張りも良好で分けつの発生が少ない品種特性を発揮し、作業効率は格段に向上しました。
その後2020年には試作を拡大、2021年には周年栽培に取り組む部会員全員での試作を経て、2022年より部会で正式採用されました。部会の方からは品種選択の幅が拡がったと喜んでいただいています。
導入に至るまでの試作期間はコロナ禍で、タキイ担当者が現地へ足を運んでの調査もままならない状況でした。JA茨城旭村営農指導課藤沼宵士さんを中心に、試作調査を継続いただき、現地での評価につなげていただけたのです。

「都むすめ」試作当時、水菜部の部長だった高田さんはトラクターが入る間口幅5.4 ×50mのハウス80棟近くを管理する。メロンから転作して15年。就農5年目の息子さんも加わって、さらにハウスを増やす計画とか。

「都むすめ」試作当時、水菜部の部長だった高田さんはトラクターが入る間口幅5.4 ×50mのハウス80棟近くを管理する。メロンから転作して15年。就農5年目の息子さんも加わって、さらにハウスを増やす計画とか。

収穫時期の「都むすめ」。冬は株間7pで夏は10pに。

収穫時期の「都むすめ」。冬は株間7pで夏は10pに。

夏どりだけでなく冬どりでも評価

当初夏どりで評価が上がった「都むすめ」ですが、冬どりでもじっくりした生育で寒さによる傷みが少なかったことと、「とり足」といわれる分けつが少なく作業性にすぐれた特性でも評価を上げ、冬どりでも活用が増えています。さらに周年を通じて、葉柄がやわらかく、歯に残る筋っぽさが少なくて食べやすいと市場性の高さも伝わってきました。

「都むすめ」は株元のまとまりが評価されている。

「都むすめ」は株元のまとまりが評価されている。

厳しい夏への対応

前ミズナ部長の高田博樹さんや前述の藤沼さんからは「夏の気象条件が年々厳しくなっている」と懸念されるように、「とろけ」対策など夏場の栽培をどう乗り切るか、生産物やそこで働く生産者の労働環境改善を含めて、今後の課題だと言われています。品種の選定と併せて、栽培環境にプラスになる資材の導入も対応することを検討されていました。

気象条件が年々厳しくなる夏場への対応が、高田さんをはじめJA茨城旭村の生産者のこれからの課題だ。

気象条件が年々厳しくなる夏場への対応が、高田さんをはじめJA茨城旭村の生産者のこれからの課題だ。