産地ルポ

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2022/2/21掲載

土にこだわり、肥料にこだわり、味にこだわる!
〈むらおか農園〉夏秋栽培の「PC筑陽」がヒット

左から村岡代表、ナス担当の中村さん、西本さん。

左から村岡代表、ナス担当の中村さん、西本さん。

編集部

地域の概況

鳥取県の中央に位置し、日本海に面する北栄町は人口は約15,000人、砂地を生かした砂丘長いもや大栄スイカが有名。

むらかみ農園

仲卸さんのリクエストと品種本来の味を生かして

むらおか農園代表の村岡武士さん(1974年生まれ)は、鳥取県の海に近い海抜80mの山間、東伯郡北栄町で、こだわりのフルーツトマト「鬼のトマト」を筆頭に、露地とハウス栽培面積約150a、ハウス18棟、30品目以上の野菜を栽培出荷されています。村岡さんの信条は、有機肥料をふんだんに使った特別栽培で品種本来のおいしさを引き出し、昔の野菜の味を大切にすることです。
経営面での特長は、出荷先の仲卸さんから「この時期、こんな野菜を出荷できませんか」というリクエストに最大限応えること。村岡さんは卸会社に勤めた経験があり、川下からの目線を大切にされています。「求められる品質で求められる時期に出荷できるかどうか」品種試験を重ねるため、種苗メーカーとの交流にも積極的です。

やわらかい肉質で評価の高い村岡さんの「PC筑陽」。

やわらかい肉質で評価の高い村岡さんの「PC筑陽」。

味を決めるのは土と肥料

栽培面では、10年前に傾斜地を利用して建築したハウスの「隔離ベッド農法」が異彩を放ちます。隔離ベッドは、深さ1m、幅1m、長さ約50mという、巨大ベッドで、内側には止水シートがされ根域を制限しますが、糖度上昇のための無理な根域制限というよりは、ハウス外からの余分な水分を遮断し、オーダーに合わせた栽培を実現するための理想の土環境を作るということが主眼です。
隔離ベッドは、手作業で土を掘り起こして作られるそうですが、何しろ深さは人間の腰のあたりまでありますから、ハウス1棟分を作るのに1カ月、6棟分を完成させるには半年以上かけたというこだわりの培地です。完成以来、トラクターや重機は使用せず、ベッドの上を絶対に土足で踏まないようにし、病害の侵入を防ぐとともに、ふかふかの自然な土壌環境を大切に維持されています。
肥料へのこだわりはまるで料理人の味付けの様です。村岡さんが用意する専用の肥料は、海藻、カニがら、カツオ、サンゴなど、特注の有機肥料がずらり。例えば海藻由来の肥料を使うとトマトの酸味が抑えられ子ども向きの味わいに調整できるといいます。オーダーに合わせた配合でうまみの利かせ方を変化させ、出荷先が希望する売価に合わせて味付けされていきます。

株元が太く健全な村岡さんの栽培。

株元が太く健全な村岡さんの栽培。

トマトハウスの村岡式「隔離ベッド」。

トマトハウスの村岡式「隔離ベッド」。

「PC筑陽」の栽培と課題

栽培開始は2月末定植、4月20日ごろ収穫開始、霜が降りる12月中旬が最終です。出荷のピークはお盆まで。今年は6月1週目の日量が400kg、九州産地ものが切り替わりだす7月に入っても、当地の夜温はまだ下がるため200〜250kgの出荷が続いています。「PC筑陽」は秀品率もよく、栽培期間の平均ではA品、B品、C品の割合が5:3:2程度で、M、L、2Lサイズが7割以上。6〜7月の4kg箱の出荷数は日量40〜60ケース、3本入りの袋出荷が日量100〜200袋の出荷となっています。ナス担当の中村さんによると、10a当たり600〜700万円の販売額を見込めるそうです。
「途中で切り戻ししなくても秋以降も引っ張れる」という中村さんは、仕立て方でできが変わるナスは栽培が面白いと研究の日々。「水管理、肥培管理も大事です」というハウスは、点滴チューブによる潅水で管理。株元は太く立派に仕上がります。定植苗には若苗のエコピット苗を使用し、生育初期は樹を強勢に作られていると思われますが、生育を支える土づくりの成果だといえます。
農業高校を3月に卒業したばかりの西本さんは「PC筑陽は石ナスがほとんど発生しません。現在1株150本の収穫ですが200本を目標にがんばっています」と汗を流す日々です。
課題は果皮の日焼けによる劣化。不織布をかけ、葉陰で防ぐなど工夫を凝らすものの、夏場の日差しにさらされるハウスサイドは果皮の日焼けが多くなるのが課題です。下葉の摘葉や収穫時の切り戻しなどの樹勢管理を向上し、秀品率を上げ、夏秋ナスを売り上げ4000万規模の商材にもっていくのが当面の目標です。

人の縁を大切にしたい

「ブロッコリー」だけ、「白ネギ」だけという一品目の経営はリスクが高いという村岡さん。仲卸さんからの要望に応える「オーダー野菜」に徹する理由は、「苦労して栽培したものが安く買われるのはつらいからとの思いです。箱単価1000円は確保する。そのためには生産側からの提案も大事」と話します。そしてたどりついた結論は「量よりおいしいものを作ること」。
「フランス料理のシェフに『PC筑陽』を30分炭火であぶって焼きナスで食べてもらったら、大絶賛でした。てんぷらにしたときタネがないことも驚いていましたね」と、シェフの反応に喜ぶ村岡さん。取材時も村岡さんの野菜を扱いたいと商談に訪れた仲卸さんと圃場を巡回しながら、人とのつながりを大切にしたいと強調されていました。

むらおかファーム代表の村岡武士さん。奥様の恵子さん、5人の社員、パートさん5人のスタッフで、おいしい野菜を届けたいという理想の経営を目指して農園を舵取りしていく。

むらおかファーム代表の村岡武士さん。奥様の恵子さん、5人の社員、パートさん5人のスタッフで、おいしい野菜を届けたいという理想の経営を目指して農園を舵取りしていく。