産地ルポ

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2023/7/20掲載

春〜夏まき栽培で好評
小カブ「なつばな」〜埼玉県JAいるま野栽培レポート〜

埼玉県川越市の金子泰徳さん。

埼玉県川越市の金子泰徳さん。

2021年に発売となった小カブ「なつばな」は、春〜秋栽培(3月中旬〜5月中旬、8月中旬〜9月末まき)の比較的高温期に栽培する品種として育成されました。根こぶ病、萎黄病、白さび病など主要病害に強いこと、収穫時の作業性が評価され、関東での栽培が増えています。
今回は関東地区での代表的な産地である埼玉県川越市の生産者金子泰徳さんに、その評価と栽培の実際を伺いました。

編集部 2022/12/18取材

産地の概要

川越市は、埼玉県の中央部よりやや南部、武蔵野台地の東北端に位置し、人口は35万人を超えます。都心から30q圏内に位置し、首都圏のベッドタウンであるとともに、高速道路を使わなくてもいち早く京浜市場に野菜や物資を届けられることから近郊農業と流通業が盛んです。また、江戸時代より江戸の北辺の守り、江戸への物資の供給地として重視されてきました。江戸時代に開墾された田畑が多く残り、伝統に培われた商工業、豊かな歴史と文化を資源とする観光など、さまざまな魅力をもつ地域です。気候は典型的な太平洋岸式気候です。

埼玉県JAいるま野

親子二代にわたって小カブを栽培
埼玉県川越市下赤坂 金子泰徳さん

金子泰徳さんの圃場は、川越市の中でも特に小カブの生産が盛んな下赤坂地区にあります。小カブ栽培は親子二代にわたり40年以上になりますが、この地区では決して珍しいほうではありません。出荷先はJAいるま野川越第一共販センターで、収穫の翌朝には京浜市場に届きます。

9月21日まき「なつばな」、金子さんの栽培圃場。

9月21日まき「なつばな」、金子さんの栽培圃場。

最盛期には、金子さんは毎日JAいるま野川越第一共販センターに120〜150ケース出荷しています。

最盛期には、金子さんは毎日JAいるま野川越第一共販センターに120〜150ケース出荷しています。

小カブ日量120〜150ケース、地区の大規模生産者

露地中心の栽培で小カブは9月上旬〜6月中旬、夏季はエダマメの出荷となります。
小カブ収穫・出荷の最盛期(4〜6月、10〜12月)には、朝は5時前から家族で収穫し、8時からはパートを含め全部で7〜10名で調製、結束、箱詰めを行い、午後3時までにすべてJAいるま野川越第一共販センターに持ち込みます。最盛期には日量120〜150ケースを出荷するこの地区では大規模な生産者です。

朝8時から家族・パート7〜10人で調製、結束、箱詰めの作業を行っている。

朝8時から家族・パート7〜10人で調製、結束、箱詰めの作業を行っている。

朝8時から家族・パート7〜10人で調製、結束、箱詰めの作業を行っている。

「なつばな」は7月下旬から播種し、9〜11月収穫まで使用、低温期はより低温肥大性、耐寒性のある品種に移行したのちに「なつばな」に戻り、3月上旬から播種し、5〜6月中旬収穫まで使用されています。
播種は6〜8条まき播種機(クリーンシーダーのホッパー部分を利用した地元特製)を使用。畝幅は130〜135p、夏は6条、冬は8条(9月10日ごろ切り替え) 、株間は天候を見ながら11〜14pに調整されます。

病害虫の防除は、同一系統薬剤の連用を避け、播種後はすべて防虫ネットでトンネル被覆します。防虫ネットは収穫前に撤去しますが、そのタイミングは時期により収穫直前のこともあれば1カ月前に外してしまう場合もあるようです。施肥は春によく発酵した鶏ふんを10a 当たり300sを使用し、その後は時期に合わせて有機化成肥料でN=8%程度の肥料を少量使用します。また、状況により微量要素入り液肥を使用します。これは当地域で2015年ごろに小カブの球内部が黒変する症状が見られたことがあり、カリ欠乏による生理障害であったことから実施しているとのことです。

播種には地元の腕利き職人がクリーンシーダーの部品を使用して作成した特製播種機が活躍する。冬は8条、夏は6条で使用する。

播種には地元の腕利き職人がクリーンシーダーの部品を使用して作成した特製播種機が活躍する。冬は8条、夏は6条で使用する。

複合耐病性、耐暑性、作業性が「なつばな」導入の決め手

金子さんに「なつばな」の評価と栽培の注意点を伺いました。

① 萎黄病など病害に安定して強い
川越地区でも萎黄病は、一部ですが発生が見られ、夏作での不安材料となっていました。いままでの栽培品種でも強い品種はありましたが、「なつばな」は萎黄病をはじめ各種病害に安定して強いだけでなく、生育が早く、収穫時の割れも少ないそうで、品質面も良好で満足しておられました。
白さび病については以前より薬剤防除を前提としていることから、心配したことはないとのことでした。

② 高温期の発芽がよい
高温期栽培では発芽に苦労し、特に35℃以上では発芽が不安定になるそうです。「どんな品種でも、播種3〜4日前からしっかり潅水することがポイント」とのことですが、「なつばな」は他品種と比べて発芽は良好で、安心して使用できるとのことです。

③ 作業性がよい
「なつばな」は立性で結束の手間がかからないとのこと。葉軸がしっかりしていると同時に、葉を整理する際に「スジ」が残らないので作業がはかどり、パートの皆さんの評価も上々です。葉軸がかたい分、結束時に軸が折れることがあるのですが、どの品種でも夏場はありうることなので特に問題にしていません。また玉の形状が甲高で尻のまとまとりのよい点も美点としてあげていただきました。

「なつばな」は根こぶ病・萎黄病・白さび病に強く、割れにくい良質小カブ。葉軸が太く割れにくいため結束作業が容易。詳しくはこちら。

「なつばな」は根こぶ病・萎黄病・白さび病に強く、割れにくい良質小カブ。葉軸が太く割れにくいため結束作業が容易。詳しくはこちら

金子さんの栽培は、全体の施肥を少なめにし、効きの緩やかな微量要素の入った液肥で追肥することを基本としており、それが特に「なつばな」の栽培によりよい方向に働いているようです。

川越第一共販センターに出荷で来ている各生産農家にお聞きしたところ、「なつばな」に限りませんが、高温期の割れの問題や炭疽病に似た症状なども耳に入りました。また極端な高温では「葉の白化」現象の話もありました。「なつばな」は葉が旺盛で葉数が多く、吸肥力は旺盛の部類に入りますので肥料設計には十分配慮が必要です。