産地ルポ

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2024/7/22掲載

埼玉県JAいるま野
「都むすめ」で回転率向上!
耐暑性・作業性のよさが導入の決め手

JAいるま野のFG袋は株元が透明なため、鮮度のよさがよくわかる。

JAいるま野の包装は株元が透明なため、鮮度のよさがよくわかる。

JAいるま野は1996年に県下11のJAが合併して誕生し、その後2001年にJA所沢市が加わりました。埼玉県の南西部に位置し、都心から30〜60kmの首都圏内で狭山茶の主産地であるほか県内の葉物野菜・根菜類の一大産地となっています。中でもサトイモは全国有数の産地であり、そのほか上位販売品目としてホウレンソウ、コマツナ、チンゲンサイ、ミズナ、カブ、ニンジン、エダマメなどがあります。
今回はミズナ「都むすめ」を本格導入されたJAいるま野みず菜部会の皆様にその評価を伺いました。

編集部 2023年9月29日取材

JAいるま野のミズナ

JAいるま野管内のみず菜部会の部会員は約40名で露地、ハウス作を合わせて約30haの栽培面積があります。30〜40代の若い生産者が多く属しており、生産者同士で頻繁に情報交換を行い活気にあふれています。個選共販一元販売の集出荷体制で年間約9万ケース(令和4年度、1ケース25袋入)を都市近郊の立地を生かして都内中央市場を中心に県内、地方市場へも出荷しています。

出荷場に集まったJAいるま野みず菜部会の方々。左から市川浩司さん、高橋和宏さん、中央がJAいるま野販売部の伊藤聖さん、諸口秀貴部会長、落合真士さん。出荷がある日の午後、居合わせたメンバーで井戸端会議が開かれる。

出荷場に集まったJAいるま野みず菜部会の方々。左から市川浩司さん、高橋和宏さん、中央がJAいるま野販売部の伊藤聖さん、諸口秀貴部会長、落合真士さん。出荷がある日の午後、居合わせたメンバーで井戸端会議が開かれる。

耐暑性・萎凋病耐病性が決め手。出荷量増、収益増に

まずお話を伺ったのはJAいるま野みず菜部会の諸口秀貴部会長。調製から袋詰めを行う女性従業員と主に収穫作業を担う男性従業員を雇用し、整地や播種などの作業は基本的に諸口部会長一人で担当される家族経営のスタイルです。従業員の働きやすさを重視し勤務時間に縛りを設けず、その日の出勤者数に合わせた作業体系を組まれています。3.5a分を1日の出荷基準としてロスを考え4a分を作付けするなど、天候や人員の変動があっても安定して連続出荷可能な体制を整えられていました。
「都むすめ」は試験品種のときから試作を開始。数年の試作を経て2022年度から部会として本格的に採用し、狭山地区では諸口部会長をはじめ11名全員が導入されています。

「都むすめ」の導入のメリットについて聞くと「根が強いから潅水頻度が少なくても生育が安定していて、在圃性もいいです。あと、株元のわき芽の節間伸長で起こるじゃみ葉(とり足)が少なく調製作業が楽で畑の回転率が上がりました。葉軸は太めですが1株重があるため重量がのります」と栽培初期から出荷に至るまで利点があるということでした。土壌消毒をしても萎凋病に悩まされていた当地では、「都むすめ」の萎凋病耐病性も導入理由のひとつでした。トレイ育苗で定植をするハウス栽培(10月〜3月まき)では特に春先の抽苔が課題でしたが、「都むすめ」は従来品種の「京かなで」よりも抽苔しにくく、夏だけでなく冬〜春作型でも能力を発揮していました。
事実「京かなで」が最大で日量80ケースの出荷だったところ、「都むすめ」導入後は100ケースまで増え、収益増につながっているということでした。

じゃみ葉(株元のわき芽の節間伸長)・通称「とり足」がなく調製速度が上がった。

じゃみ葉(株元のわき芽の節間伸長)・通称「とり足」がなく調製速度が上がった。

安定出荷、栽培面積維持に貢献

狭山地区でミズナを担当されるJAいるま野販売部の伊藤聖さんによると、青果安や土壌病害の発生、他品目の価格が安定していることが影響し、ミズナの栽培面積の減少が課題となっていたそうです。そのような状況の中「『都むすめ』の導入により生産者によっては栽培面積拡大が可能となり、当地の安定出荷、収益確保につながっている」と管内の栽培面積維持に「都むすめ」が貢献しているとのことでした。

諸口部会長の作業場で収穫したミズナを洗浄する様子。夏は冷たく冬は温かい井戸水で洗うことで土汚れや虫を落とし、鮮度が保たれる。

諸口部会長の作業場で収穫したミズナを洗浄する様子。夏は冷たく冬は温かい井戸水で洗うことで土汚れや虫を落とし、鮮度が保たれる。

耐暑性は酷暑でも発揮。味のよさは直売所でも好評

次に伺ったのは当地で「都むすめ」の試験を最初に行った塩崎農園の園主で前部会長の塩崎稔さん。2年間の試験を経て「都むすめ」を本格導入。
例年以上の酷暑となった2023年夏の栽培について話を聞くと「今年は『京かなで』なら暑さで生育が止まり、虫の害も重なって畑からなくなっていたかもしれませんが、『都むすめ』は高温下でも生育が止まらず栽培できました」と「都むすめ」の耐暑性が発揮された年となりました。
作業性については「『都むすめ』はじゃみ葉(とり足)が少なく調製が楽です。作業の回転率が『京かなで』より1回転多くなるため、収益増にもつながっています」という塩崎さんは周年で「都むすめ」を採用しています。「都むすめ」の発芽ぞろい、初期生育のよさも収量の安定性につながっていると評価。また、直売所出荷もする中で「『都むすめ』はこれまでの品種よりスジが残らず、辛みがありません。直売所はやはり味のよさがものを言います。」と味の評価も上々のようでした。
「都むすめ」の特性をよく知る塩崎さんは、栽培上のきめ細やかな工夫によってもその商品性を高められていました。露地作では大雨が降っても畝が水没し株元が汚れないように生育中期以降に管理機で畝高にし、虫よけの防虫ネットは収穫の数日前に裾を開けて風通しをよくすることで株張りを充実させます。また、萎凋病対策として行う土壌消毒は畝の局所施用とすることで経費を通常の3分の1に抑えているそうです。
「都むすめ」と生産者一人ひとりのミズナ栽培にかける想いが融合したJAいるま野のミズナ。「都むすめ」が当地の生産量・ブランド維持にこれからも貢献していくことを願っています。

右側の畝は収穫期間際にネットの裾を上げ、ミズナの株張りをよくしている。

右側の畝は収穫期間際にネットの裾を上げ、ミズナの株張りをよくしている。

ミズナ栽培で様々な工夫をこらす塩崎稔さん。

ミズナ栽培で様々な工夫をこらす塩崎稔さん。