産地ルポ

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2021/2/22掲載

宮城県JAいしのまき管内 やもと長葱生産組合コンパクトな草姿で風による倒伏に強い「名月一文字®」は推奨品種として作付けが増えました!

集荷場に荷物を持ち寄ったJAいしのまきやもと長葱生産組合のメンバー。
中央で箱を手に持つ阿部亮組合長。新型コロナウイルス対策で大勢が集まる集荷場ではマスクを着用。 

編集部

地域の概要

JAいしのまき管内は、宮城県の北東部に位置し、地形は平坦で中央部を新・旧北上川が、西部を鳴瀬川が貫流しています。水田に適した沖積平野が広がり、県内有数な穀倉地帯を作り上げています。有名な「ササニシキ」の生産量は全国一位を誇ります。冬も雪は少なく1年を通じて温暖な気候に恵まれ、トマトやキュウリ、イチゴの栽培も盛んです。長ネギ栽培は周年で作付けされ、矢本地区は県内最大クラスの産地として地元石巻市を中心に出荷されています。

JAいしのまき 矢本地区

やもと長葱生産組合

矢本町、合併後の現在は東松島市ですが、当地が長ネギ栽培の中心です。やもと長葱生産組合(阿部亮組合長)は組合員42戸、メインの秋冬作以外にも越冬ネギ、夏ネギ、春ネギなどがあり、露地での周年栽培が成立しています。面積は全体で25ha、秋冬ネギで8ha。年間の出荷量は8万ケース、442tで、販売額は1億1000万円の規模です。
組合ができて40年以上とネギ栽培の歴史は長く、組合も最盛期には120名ほどを数えましたが中国産の輸入が増えた一時期に低迷。その後安全な国産に回帰したものの、東日本大震災で被災。幸い砂地の土質のため震災からの回復も比較的早かったそうで、再度右肩上がり。最近は新規就農で組合に加わる若い方も続いています。長ネギの安定した価格にも支えられ組合の目標は販売額1億2000万円です。
選果場には役員2人で3班に分かれ検査員として1週間に1~2日で月6回検品し「JAいしのまきの長葱」ブランドの品質を守っています。

JAいしのまきの集荷場には午後13~14時の時間に持ち込まれる。中心規格のサイズ45本のトレイを中心に荷物が積み上げられていく。

JAいしのまきの集荷場には午後13~14時の時間に持ち込まれる。中心規格のサイズ45本のトレイを中心に荷物が積み上げられていく。

阿部組合長の圃場で「名月一文字」の作柄を確認する、JAいしのまき東松島営農センターで担当1年目の木村正博さん(右)と栽培にも詳しい水沢種苗店の担当續さん(中央)

阿部組合長の圃場で「名月一文字」の作柄を確認する、JAいしのまき東松島営農センターで担当1年目の木村正博さん(右)と栽培にも詳しい水沢種苗店の担当續さん(中央)。

「名月一文字」はコンパクト

「名月一文字」は秋冬ネギとして3年前に組合長ら数名が試作。翌年には組合役員全員が試作して今年から組合推奨品種となりました。評価されたポイントはズバリ、風による倒伏に強いこと。コンパクトな草姿で2019年9月9日に上陸した台風15号、続く10月12日に上陸し東日本で猛威を振るった台風19号でも「名月一文字」は無事でした。その様子を確認した組合内で評価は一気に高まり、推奨品種となって令和2年度は8割ほどを栽培し主力品種となっています。
「ばらけにくいので腐れが少なくクズが減りました」。
風に強く、腐れに強い「名月一文字」は海岸沿いの矢本の栽培に適しています。

2019年の現地検討会での比較。3月18日播種、5月上旬定植の「名月一文字」(左端)がコンパクトで首のしまりが整っている。

2019年の現地検討会での比較。3月18日播種、5月上旬定植の「名月一文字」(左端)がコンパクトで首のしまりが整っている。

阿部組合長の圃場は畝幅90p。作付けは2haほど。育苗はチェーンポットが利用され、秋冬作は2~2.5粒播種。2粒まきは肥大が早く太くなるので風に強くなる。

阿部組合長の圃場は畝幅90p。作付けは2haほど。育苗はチェーンポットが利用され、秋冬作は2~2.5粒播種。2粒まきは肥大が早く太くなるので風に強くなる。

首のそろいがよい「名月一文字」。縦太りして2枚ほど葉の数が多い。

首のそろいがよい「名月一文字」。縦太りして2枚ほど葉の数が多い。

「おいしい桃太郎トマトをお届けします!」と新ブランドで切り替え予定の出荷ケースを手にする選果場の芳賀しま子主任。

皮むき作業中の「名月一文字」。首のしまりがよくばらけにくいのでむきやすい。

長ネギ栽培は難しいが価格は魅力

最終の土寄せは収穫の半月前。純白で収穫するためには半月間は必要です。2020年は梅雨に雨が多い年でした。天候次第で栽培が左右されますが、夏期の土寄せや追肥は、タイミングの見極めが難しいところです。「夏は土を動かすな」と昔からいうものの状態を見て土寄せするというのは副組合長の石森さんです。その際は、朝方、気温の低いうちに行うそうで、理由は土寄せで根を切ってしまうと新しい根は出てこないので、高温期は葉が枯れてしまうためだそうです。阿部組合長は、新規就農の方が慣れるまでは「追肥はせずに元肥一発で行け」とアドバイスされています。
長ネギ出荷規格の高価格帯はLサイズ45本以上。5s当たり1,500〜1,700円を維持しています。夏場は2,000円を超える時もありました。阿部家も長男の充さん、次男の亘さんが後継者として就農しています。
「息子2人が後を継ぐ気になってくれたのはうれしい。長ネギは収入面でも魅力があるということですから。これからも家族で頑張っていきたいですね」
「腰痛を患って無理がきかないので息子たちは頼りになります」という奥さん。父と母、兄弟で皮むきの調製をする阿部家の作業場は活気に満ちていました。

収穫中の阿部充さん(左)、亘さん(右)兄弟。

後継者が魅力を感じる産地づくりがこれからも求められる。

収穫中の阿部充さん(左)、亘さん(右)兄弟。後継者が魅力を感じる産地づくりがこれからも求められる。